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「今すぐ入院しないと死にますよ」――それでも私は、別のことを考えていた


0. 冒頭:絶望的なまでの「視点のズレ」

私たち施術家の世界には、「腕の良い師ほど短命」という不吉なジンクスがある。それっておれだけ?

「あなた……今すぐ入院しないと死にますよ。名古屋なんて、行ってる場合じゃない」

医師は真顔だった。
でも私が思ったのは、「2歳の娘を親戚に見せられないじゃないか!」だった。

普通なら血の気が引く。
私は、結婚式のことで頭がいっぱいだった。

今振り返れば、狂ってる。
でもあの時、私は本気でそう思っていた。


1. 施術家の呪縛と「内なる邪(よこしま)」

「患者の邪気をもらいすぎた」「身を削って癒した代償だ」……。

当時、50歳手前だった私は、気功を嗜み、不摂生をしても朝から元気に動ける自負がありました。

「邪気なんて自分でコントロールできる」
そんな過信が、外から入る邪気よりも恐ろしい**「内なる傲慢」**を育てていました。
結婚して甘いものに目覚め、20代から10キロ増量し「不摂生の塊」であったのに、「いざとなったら気功で戻せる」と悦に行っていたものです。

2. 己の身体は鍼灸の実験台

運命の夜は、2歳の娘とケーキを食べ、背中に乗せて「おうまさんごっこ」をして笑い転げる幸せなひとときから始まりました。
しかし深夜、脂汗が滴るほどの激痛――胆石発作が襲います。

のたうち回りながらも、私の脳裏をよぎったのは「人体実験」の好機でした。
「そうだ、増永先生の本にあった『石を排出させる経絡操作』を試そう。代田先生の治療ノートはどうだったか……」
妻が心配して「救急車を」と言うのを大丈夫、すぐに落ち着くから!と、いいはり、苦痛の中で自分の指を体に食い込ませ石が動くのを待ちました。明け方に痛みが引くと「 やった、石が落ちたぞ」と独りよがりの勝利を確信しました。

3. 紅茶色の尿と、医師とのコントのようなやり取り

翌朝、トイレで私は、見たこともない**「紅茶色」**の尿を見ます。
「普通なら驚くところだが、当時の俺は『お, これは体の中に熱がこもっている証拠だ! 珍しいものが見られたぞ』と興奮しておもいました。」

妻に促され、朝イチで病院へ。「確認したらすぐなら名古屋だ!娘も初めての遠出だし、楽しみ!」という呑気な私を待っていたのは、内科主任の先生による「死の宣告」でした。

何言っているんですか!胆管がつまっていていつ破れてもおかしくない状態ですょ!死んじゃいますよ!

それを聞いた時、「あちゃー」というのが第一の感想。
そして「急いで家族を呼んで!入院の準備をして!」と言われても、「娘は昼寝中だし、車で来ちゃったから足がないぞ。入院の準備なんてできるかな?」と、命より瑣末なことばかりが頭を駆け巡ります。

実家の母に電話すれば、「あ、もう名古屋着いたの?」と明るい声。
「いや、今すぐ入院することになって……」と説明する横で、名古屋のホテルキャンセルの電話を妻にお願いする、まさにコントのような状況でした。

しかし、不思議と気持ちは楽しんでおりました。土曜日に入院し、月曜日には詰まっている胆石をかき出す処置もどんな感じだろ?となかばわくわく。さらにその入院中に手術の日程も決定しそのまま入院の延長。手術も初めての全身麻酔、話にはきくがどんな感じだろう?と 手術室に向かうまでは期待と興奮でした。

だが、それも入室するまで。

入ったらまな板の鯉ならぬ、改造人間の手術台に見えてきて急に悪寒が!

横になってすぐに意識は闇の中に落ちていった。

家族がきたのは朧に覚えているが意識がハッキリし出したのは夜になってから。

水も飲めないので口にガーゼを入れてもらったり、横になっていると腰が痛くてベッドの柵に捕まって体を斜めにしたりと大暴れ!?しておりました。


胆嚢から出てきた胆石

4. 施術家の体は「鏡」である

この経験を通じて、私は一つの真理に辿り着きました。

病そのものは、自分の意志とは無関係に降りかかる「運」のようなものです。
どんなに気をつけていても、なるときはなる。それが生命の摂理です。

ただ、その「運」を前にした時、私を本当の危機に陥れたのは、自分の状態を正しく見られなくなった**「心の曇り」**でした。

施術家の手は、患者の体温を読む。
指先で筋の張りを探る。
その感覚が狂えば、治療そのものが狂う。

私は患者の体を診る感覚を、毎日磨いていた。
でも、自分の体は?

紅茶色の尿を見て「熱だ!」と喜んでた俺の感覚は、どこで狂ってたんだ?
鏡が曇ってたんじゃない。
俺が、鏡を見ることを拒否してたんだ。

「気にしすぎず、かといって過信しすぎない」。
そんなフラットなスタンスで自分の鏡を磨き続けることこそが、本当の養生なのだと痛感しました。

常に自分をニュートラルな位置に置き、鏡を磨き続けること。
その難しさを、私は今も噛み締めています。

でもまた曇るんだろうな。

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