【ショートショート】ごはん茶碗は2度洗われる(1112文字)
ぼくは、夫婦茶碗の“夫”のほう。
パパさん専用で、白米を毎日どっさり盛られる。今日の夕食でも、ママさんの炊いたごはんをパパさんがもりもり食べていた。
「やっぱりうまいな、ママのごはんは!」
なんて言いながら、パパさんはぺろりと完食。
食後、ぼくたち茶碗や皿は流しへ運ばれる。食器洗いは、パパさんの担当だ。
洗剤をちょちょい、ぬるめのお湯でくるくると回される。優しくて手際が良い。
たまに、ごはん粒のカリカリくんが、ちょっとだけ残ってることもある。まあ、それもご愛嬌ってやつ。
「ありがとうね、いつも」
ママさんがにっこりすると、パパさんは照れたように笑って、風呂へ向かった。
そこからが、ぼくたちだけの秘密タイムだ。
ママさんがそっと戻ってきて、洗いカゴからぼくらを手に取る。
「ママさん、また洗うの?」
「ええ。やり直し……じゃないのよ。さらにキレイにしているの。“さらに”ね。茶碗だけど」
「来た来た、定番ダジャレ〜。まぁ、笑えないのはパパさんの洗い方だけどね」と妻茶碗が横からツッコミを入れる。
「でもさ、僕的には、パパさんの洗い方でも、もう十分なんじゃないかなって」
「……うん、わかるわ。確かに、よその家ではこの程度の洗い方の家もあると思う。だからこそ、言いづらいのよ」
「でも、言ってもいいと思うよ? もっとちゃんと洗って、って」
ママさんは少しだけ困ったような表情で笑った。
「それで、“じゃあ食洗機を買おう”とか、“これくらいが気になるようなら、外食は無理だな”とか、言われたら……ね」
「うわー、それ、ほんとに言いそう!そういう無神経な発言、カチンと来ちゃうわよ。茶碗だけに!」と妻茶碗。
「カチンって……割れたら大変だ」とぼくが小声で返すと、妻茶碗はぷいと目をそらしながら語り出す。
「私はね、残っているヌルヌルをママさんに洗い直してもらわなきゃ嫌なの。私の陶器のような肌……というか、陶器そのものの肌をしっかりケアしたいもの。
ゴシゴシじゃダメ。くるくる、ていねいに……。あぁ、うっとりするわ」
これは、どうにもパパさんの旗色が悪いな……。そう思ったぼくは、とっさにフォローする。
「でも、パパさん、洗い物しながらいつも“ママの料理はいつも美味しいなぁ”とか、“あんなママと結婚できて俺は幸せだ”とか言ってますよ」
「それはいくらなんでも盛り過ぎでしょ、茶碗といえども!」と、すかさず妻茶碗の突っ込みが。
けれど、そう言った彼女はちょっと笑ってた。
泡の中で、ぼくらは揺れながら思う。
ぼくらは、2度洗われる。
最初は、ママさんへの感謝で。2回目は、パパさんへの思いやりで。
この洗い物問題の良い“落とし所“が見つかりますように……。
いや、落とされちゃ困るんだ。
(了)
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