見出し画像

【ショートショート】“切り”の切りがない(1150文字)

冷え切った夜の街。
チェーンが切れそうな自転車で、切り通しを突っ切り、踏切を横切る。
息を切らしながら向かっているのは、切り立つ丘の上にある、貸し切りの会議室だ。

つい今しがた、俺の眠りを切り裂いたのは、時間切れを知らせる電話…のはずだ。
ワンコールで切れた。一瞬、「ワン切りか?」と思ったが、見るとスマホは電池切れ。運悪く、鳴った瞬間に充電が切れたようだ。

俺はもう、自分の才能に見切りをつけていた。プライドは乱切り、ざく切りにされ、今ではみじん切りのようだった。
とりあえずこのピンチを乗り切るためと割り切り、ありものの話を切り抜き、切り取り、切り刻みながら台本を作成していた。しかし、それすら尻切れにしか作り切れないうちに疲れ切り、気づけば締め切りを過ぎていた。

俺は、細切こまぎれの紙切れをつなげたような台本をつかみ、中古屋で値切って買った、油切れの自転車を飛ばした。

切れ者のプロデューサーはブチギレだろう。
切れ長の目がトレードマークの演出家もマジギレだろう。

劇団とは、多分今日が縁の切れ目。契約打ち切りで切り捨てられ、手切れとなるはずだ。
やり切ったとは言えない脚本家人生だったが、ここらで切り上げ、踏ん切りをつけ、一区切りにしよう。断ち切るような未練も無い。

息せき切って会議室に飛び込む。間仕切りの向こうに二人の姿。

「遅く…なり…ま…した」

気力も体力も使い切り、俺はボロ切れのよう。言葉も途切れ途切れだ。

プロデューサーと演出家は、怒りを噛み切るように黙りながら、キレ気味に俺をにらむ。

「台本、書いてきました…」

気持ちを切り替え、思い切って切り出す。
視線に切り刻まれて、まな板に乗る前に切り身になったような気分だ。

二人が読み切るのを待ち、声をかける。

「どう…ですか?」

「……」

やがて沈黙を切り崩し、演出家が歯切れ悪く口を開く。

「予想を裏切って面白い…」

それを聞き、プロデューサーも切り返す。

「派遣切り問題に切り込むのが、切りたんぽ屋を切り盛りする女将おかみだという切り口…キレキレだ」

あの切れれの意識下での切り貼りが功を奏したようだ。

「輪切りにした切りたんぽの穴を覗いて、『何でもお見通し』と一喝。切れ味鋭く敵を切り伏せるのも痛快…。吹っ切れてて、振り切れてる。早くオチまで書き切ってくれ」

演出家が手を伸ばして求めてきたのは、握手ではなく指切りだった。

「遅刻は、これっ切りにしてくれよ」

「契りを破ったら?」

「そりゃあ、首切りだ」

◇ ◇ ◇

斬新な脚本が切り札となり、公演のチケットは売り切れの大盛況。
以降、俺の脚本家人生の道は切り開かれ、キリキリ舞いの忙しさとなった。

「先生、次作も張り切ってお願いします」

ボキャブラリーを切り売りする俺の、今の悩みはひとつ。
さすがにもう、“切り”が無いんだ。

(了)


お読みいただきありがとうございます。
スキ、フォロー、コメントなどしていただけたら嬉しいです。

「小説」のタグで #コングラボード 獲得!
ありがとうございます!
「短編小説」のタグでもコングラボード!
ありがとうございます!


「創作」のタグでもコングラボード!
ありがとうございます!



#掌編小説 #ショートショート #短編小説 #スキしてみて #創作 #五十嵐雉虎 #言葉遊び #超短編小説 #ダジャレ #駄洒落 #小説 #脚本

いいなと思ったら応援しよう!

五十嵐雉虎(イガラシ・キジトラ)|準文筆家|掌編小説・ショートショート作家 よろしければ、ぜひ応援をお願いします!

この記事が参加している募集