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【エッセイ】課税されたがるお客さん(1424文字)

平成元年(1989年)3月31日。数日後に大学の入学式を控えた僕は、地元のコンビニで夜勤のアルバイトをしていた。
翌4月1日は、日本で初めての消費税(3%)が導入される日だ。
つまり、僕の勤務時間中に、その瞬間が訪れる。

もっとも、24時間営業の店がすべて0時きっかりに価格を変更するわけではない。
僕の勤める店は、午前2時のレジ締めで店長が切り替え作業を行う予定だった。だから日付が変わっても、しばらくは税なしで買えるのだが、そんな事情を知っている客は少ない。

その夜は、店員だけでなく客もどこか浮き足立っていた。顔なじみのおばさんが、お菓子を山盛りにして「消費税がかかる前に来たわ」と笑う。僕は心の中で「3%を惜しむなら、コンビニ以外でもっと安いところがあるのに」と思ったが、もちろん口には出さない。

午後11時半を過ぎると、ふだんは閑散としている店がにわかに混みはじめ、11時45分には「間に合った!」と駆け込む人もいた。
そして11時55分頃、時計をチラチラ見ながら並ぶ客の中で、ひときわ目立つガタイのいい二人組が、わざと順番を譲りはじめた。
嫌な予感がした――彼らは「消費税一番乗り」を狙っている。

僕は心の中で「ウチは2時からなんだけどな…」と思ったが、目の前の精算に追われ、アナウンスする暇がない。二人は見事な時間調整で11時59分にレジ前へ。

「お兄さん、日付変わるようにゆっくり打ってね」
と言われ、僕は勇気を出して伝えた。

「あの……ウチは2時から消費税なんです」
「えぇ〜! 一番乗りしたかったのに。何とかならない?」
「申し訳ありません。当店では午前2時からの対応です」

不満顔の二人は、それでも商品を買い、去っていった。

午前1時40分ごろ、店長が出勤。
僕は、1時を過ぎても税なしで買い物できたことを喜んでいた客のことや、例の二人組の話を報告した。

「まるでイベントだね。ボジョレー解禁みたいだな」
と、店長は静かに笑った。

2時少し前、客足が途絶えたタイミングを見計らって、店長は素早くレジ締めと設定変更をした。

「じゃあ、設定終わったから、ここから消費税付けてね」
店長がそう言った瞬間だった。

「今、設定終わったんでしょ? すぐ買うから、他のお客さんが来ても待ってて!」
そう言いながら、静まり返っていた店内に、あの二人組が勢いよく入ってきた。
きっと店内の様子をうかがっていたのだろう。

彼らは、ものすごいスピードで缶ビール4本とドライソーセージをつかみ、レジへ突進してきた。

この会計、考えてみれば、僕にとっても初めての「税」ボタンだった。
もちろん、レシートには、きっちり「3%」の文字が刻まれた。

それを受け取った二人は、まるで何かの勝負に勝ったかのように頷き合い、満足げな笑みを浮かべて店を出ていった。

「まさか、また来るとは……」
「消費税のおかげで二度売れたね」

彼らの“消費税一番乗り”にかける思いは本物だった。あくまでもウチの店での一番乗りでしかない。レシートだって、午前2時の印字があるだけだ。だが、彼らは心底嬉しそうだった。3%増しでは到底収まらない。
そんな彼らの顔を見て、僕も嬉しくなってしまった。

彼らは、あの記念すべきレシートをどうしただろう。失礼ながら今も大切にしているとは思えない。たぶん、日々の暮らしの中で、いつしか処分してしまったのではないだろうか。

しかし、彼らのおかげで、僕はあの日のことを覚えている。記憶の中で、二人は今も笑っている。

「消費税」のニュースが流れると、彼らのことを思い出す。
お二人さん、忘れられない思い出をありがとう。

(了)


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五十嵐雉虎(イガラシ・キジトラ)|準文筆家|掌編小説・ショートショート作家 よろしければ、ぜひ応援をお願いします!

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