連載「菌活ボーイがゆく」⑱今宵の月
こうじの魅力にはまった猫サラリーミャンの菌活実践記です。
「育て上げた醤油こうじを食べてしまうのが心苦しくて」の心境で菌との触れ合いの日々を送る。
さっちー師匠ににゃんだかんだ巻き込まれながら“菌友”づくりに励む。
文/菌活ボーイ
イラスト/ちぐ

「月がきれいですね」
窓の外を見上げていた彼女が振り向いたとき、どうして僕は気のきいた返事ができなかったのだろう。
のちに、それは「アイ・ラブ・ユー」の意味と知った。
明治の文豪夏目漱石が英語教師時代、生徒の直訳を戒めて模範解答したらしい。
日本人らしい、奥ゆかしい表現だった。
転勤したまちで偶然、彼女と再会した。
かわいい子どもを連れていた。
「夫は、あなたがよく知っている人」
僕を見上げて、笑った。
後ろ姿を見送りながら、痛いほど感じた。
うかつな一言は、人生を変える。
つい先ほど、声をかけられた。
「月がきれいだにゃ~」
さっちー師匠とのぼにゃんが、縁側に並んで振り向いている。
僕はなんと答えたらいいのだろう。
(続く)
