「失敗」を売る ── 「規格外」「不揃い」「もったいない」、捨てられるはずだったものをヒット商品に変えた、オイシックス・ラ・大地・無印良品・クラダシの発明 ── 毎週土曜日は、コンテンツで売る時代
毎週土曜日は「コンテンツで売る時代」の日です。
放送作家の僕が、長年企画の現場にいて見えてきた「物がコンテンツとして売られる時代の発想」を、書いていくシリーズです。
これまで、6つの軸を書いてきました。
ストーリーを売る、キャラクターを売る、変えないを売る、物語を売る、世界観を売る、価格の物語、と書いてきました。
そして今日。7つ目の軸は、これです。
「失敗を売る」
「失敗」── と書くと、ネガティブに聞こえるかもしれません。
でも、ここで僕が書きたい「失敗」は、次のような意味です。
工場で出てしまう、形が不揃いの製品。
畑で出てしまう、規格外の野菜。
パッケージが少し汚れただけの、品質には問題のない食品。
これら、業界の常識では「捨てる対象」だったものを、商品として売ることに成功した会社が、日本にあります。
そして、それらは、単なる安売り商品ではありません。
「失敗」を、付加価値に反転させて、ヒット商品に育てた、見事な発明です。
今日は、その代表的な3社を、解剖していきます。
オイシックス・ラ・大地さんの「ふぞろいな野菜たち」。
無印良品さんの「不揃いバウム」。
そして、クラダシさんの「1.5次流通」。
——
結論から書きます。
『「失敗」「不揃い」「規格外」は、業界の常識では捨てる対象。しかし、それを「あえて売る」と、ネガティブが、付加価値に反転する』
そして、もう一つ。
『時代は、「完璧」を求める時代から、「もったいない」を価値とする時代に、変わった。だから、この発想に基づく商品は、これからも、伸び続ける』
事例① オイシックス・ラ・大地株式会社さん「ふぞろいな野菜たち」
最初の事例は、オイシックス・ラ・大地株式会社さんです。
本社は東京都品川区。代表取締役社長は、髙島宏平(たかしまひろへい)さん。
東大大学院で情報工学を学び、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤めた後、2000年6月にオイシックス株式会社を創業されました。
2013年東証マザーズ上場、2020年東証一部、2022年プライム市場に移行。
現在の売上規模は、年間700億円以上の、日本の自然派食品宅配業界の最大手です。
オイシックスさんが、業界の常識を覆して立ち上げた事業の一つが、「ふぞろいな野菜たち」「もったいないコーナー」です。
これは、こんなコーナーです。
台風で落ちたりんご。形が曲がってしまったきゅうり。サイズが規格外のなす。
これらは、味も品質も、問題はありません。
でも、業界の常識では、見た目が規格外であるため、スーパーには並ばず、農家さんが廃棄するしかありませんでした。
ところが、オイシックスさんは、これを、商品化しました。
規格外の野菜を、「ふぞろいな野菜たち」というブランドラベルで、消費者に低価格で届ける。
これは、見事な発明です。
理由を、3つに、整理します。
ひとつ。
業界の常識を、顧客に翻訳した。
業界の中だけで、「これは規格外だ」「これは廃棄するしかない」と決まっていたものを、「ふぞろい」という、顧客にとって愛着のわく言葉に、翻訳した。
ふたつ。
3者全員が、得をする構造を作った。
農家さんは、廃棄するはずだったものが、収入になる。
消費者は、品質に問題のないものを、低価格で買える。
オイシックスさんは、新しい商品ラインナップを獲得した。
これは、見事な「三方良し」の発明です。
みっつ。
「もったいない」を、付加価値に反転させた。
これまで「これは規格外だから、捨てる」だったのが、「これは、ふぞろいだから、買う」になった。
ネガティブが、ポジティブに、反転したのです。
髙島さん自身が、こう、語っています。
「業界のしがらみや前例に従うことで、業界全体が、規格外野菜の問題に対して、見て見ぬふりをしていた。オイシックスがこの問題に取り組んだのは、業界の常識に捉われず、当たり前のことを当たり前に実行するという理念に基づいている」(『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』致知出版社、2022年より)
日本のフードロスは、年間643万トン。日本国民ひとりあたりに換算すると、毎日お茶碗約1杯分の食品を、無駄に捨てています(農林水産省・環境省の平成28年度推計より)。
オイシックスさんは、この数字に、20年以上前から、ビジネスで挑んでいる、見事な先駆者です。
事例② 株式会社良品計画さん「不揃いバウム」
2つ目の事例は、株式会社良品計画さんの「不揃いバウム」です。
1980年に誕生した、無印良品。
代表取締役社長は、清水智(しみずさとる)さん。
無印良品さんは、もともと、シンプルさと品質を、強く打ち出すブランドです。
そして、「不揃いバウム」は、無印良品さんの菓子カテゴリーの中で、最も支持されている(良品計画さん自身の表現)、ロングセラー商品です。
バウム自体は、無印良品が、1999年にスティック型として誕生させた商品。
バナナピューレを練り込んだ生地が、当時としては革新的で、瞬く間に大ヒットしました。
そして、無印良品さんが、業界の常識を覆して、2017年から始めたのが、「不揃いバウム」です。
バウムクーヘンを工場で焼くと、必ず、焼き色のムラや、形の変形が出てしまいます。
一般的には、これらは「B品」として、廃棄されるか、社員食堂などに流されてしまいます。
ところが、無印良品さんは、こう、考えました。
「味は変わらないからもったいない」。
そして、2017年から、検品基準を変更しました。
これまで「不合格」だったものを、「不揃い」というブランドラベルをつけて、商品にしたのです。
無印良品さんの公式noteには、こう書かれています。
「10年ほど前は見た目を整えるために、両端を6cm切り落としていましたが、設計の改良を重ね、現在では1.8cmに。端が欠けたバウムクーヘンの外側のカーブも商品に含まれていることが『不揃い』のポイント」
これは、見事な企業姿勢です。
なぜなら、無印良品さんは、ただ単に、規格外品を売ったわけではないからです。
工場の設計を見直し、両端の切り落としを6cm→1.8cmに短縮しました。
これによって、廃棄量そのものが減りました。
そして、機械に残る生地の廃棄を減らすために、工場環境やレシピも改善した。
つまり、「不揃いバウム」というコンセプトを、工場の設計レベルから、貫いたのです。
これは、商品開発の見事な事例として、放送作家の僕も、心から尊敬しています。
言葉だけで「不揃い」と言うのではなく、工場の数字で、その哲学を実装した。
2025年4月には、ローソンさんとの共同開発による「不揃いバウム ブラン」も発売されました。
規格外を価値化した発明が、他社とのコラボレーションにも、自然と、広がっています。
事例③ 株式会社クラダシさん「Kuradashi」
3つ目の事例は、株式会社クラダシさん。
本社は東京都品川区上大崎。
代表取締役会長は、関藤竜也(せきとうたつや)さん。
代表取締役社長CEOは、河村晃平(かわむらこうへい)さん。
2014年7月設立、2015年2月にサービス「Kuradashi」をローンチ。
これは、SDGsが国連で採択される、7か月前のことでした。
会社名の「クラダシ」、サービス名の「Kuradashi」、両方の由来は、こうです。
「お蔵入りされてしまうものに、新たな価値をつけて蔵(クラ)から出す」。
クラダシさんが扱うのは、賞味期限が迫った食品、季節商品、パッケージの汚れやキズなど、消費可能でありながら、通常の流通ルートでの販売が困難な商品です。
これらを、企業から買い取り、Kuradashiサイトで会員に最大97%オフで販売する。
そして、売上の1%〜5%を、環境保護・動物保護・フードバンクなどの社会貢献団体に寄付する。
このビジネスモデルは、見事です。
理由を、3つに整理します。
ひとつ。
「1.5次流通」という新しい市場を、自社で命名・登録商標にした。
Amazonや楽天が一次流通、メルカリが二次流通だとすれば、廃棄されるはずだった商品に新しい価値をつけて流通させることは「1.5次流通」だと、関藤さんは自社で命名されました。
そして、「Kuradashi」「1.5次流通」「もったいないを価値へ」は、クラダシさんの登録商標です。
新しい市場を作り、その市場の名前まで、自社で押さえる。これは、見事な経営戦略です。
ふたつ。
「三方良し」+「四方良し」へ。
日本の伝統的な「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方良しに、クラダシさんは、もう一つ要素を、加えました。
**「社会貢献団体」**です。
売上の1%〜5%が、団体への寄付になる。
これによって、買い物そのものが、社会貢献の行為になるのです。
みっつ。
**創業者の関藤さんの「個人の原体験」を、ビジネスの軸にした。
関藤さんは、1995年の阪神淡路大震災で、大学生として被災されました。
被災した自分が、自分より困っている人を助けるために、救援物資を背負って、被災地に向かった経験。
そして、1998-2000年に中国に駐在された商社マン時代、大量生産・大量流通・大量廃棄の現場を、目の当たりにされました。
これらが、20年後の起業の、深い原点になっています。
クラダシさんが、創業以来、達成された数字は、見事です。
パートナー企業1,990社、会員57万人(2024年12月時点)。
累計フードロス削減量:25,333トン。
CO2削減量:67,159t-CO2。
経済効果:123億2,580万円。
社会貢献団体支援額:累計1億5,000万円突破。(以上、2024年9月30日時点)
そして、2022年にはB Corp認証を、日本で13番目に取得。
2023年6月30日には、B Corp認証取得企業として、初めて、東京証券取引所グロース市場に上場されました。
「お蔵入りされてしまうものに、新たな価値をつけて蔵から出す」── この哲学が、上場企業として、しっかりと、社会に位置づけられたのです。
3社の共通点 ── 「失敗を売る」発明の3つの法則
ここまで、3社の事例を解剖してきました。
オイシックス・ラ・大地さんの「ふぞろいな野菜たち」、無印良品さんの「不揃いバウム」、クラダシさんの「Kuradashi」。
3社に、共通する法則を、3つ、抽出します。
法則① 業界の常識を、顧客に翻訳する力
3社とも、業界の常識では「捨てる対象」だったものを、顧客にとって愛着の持てる言葉に、翻訳しています。
オイシックスさんの「ふぞろいな野菜たち」。
無印良品さんの「不揃いバウム」。
クラダシさんの「お蔵入りされてしまうものに、新たな価値をつけて、蔵から出す」。
「規格外」「廃棄予定」「B品」── これらの業界用語を、そのまま使ったら、商品にはなりません。
でも、業界の中の人たちにしか分からなかった言葉を、顧客の側に、翻訳することで、商品になる。
この翻訳力が、3社に共通する、最初の発明です。
法則② ネガティブを、付加価値に反転させる構造
3社とも、ネガティブな概念を、付加価値に反転させる構造を、作り上げています。
これまで「ふぞろいだから、捨てる」だったのが、「ふぞろいだから、買う」になった。
これまで「焼き色のムラ、変形だから、廃棄」だったのが、「不揃いだから、お得で美味しい」になった。
これまで「賞味期限間近だから、価値ゼロ」だったのが、「賞味期限間近だから、社会貢献付きでお得」になった。
ネガティブが、ポジティブに、反転する。
そして、その反転は、商品の論理だけでなく、顧客の感情の論理でも、成立しています。
顧客は、「捨てるはずだったものを、私が救った」という、ささやかな満足感を、得ることができる。
これは、現代の時代精神(SDGs、フードロス、サステナブル)と、見事に、共鳴する構造です。
法則③ 工場・業務プロセス・経営哲学のレベルまで、貫く
最後の法則は、最も重要です。
3社とも、「失敗を売る」というコンセプトを、ただのマーケティングとして打ち出したのではありません。
工場の設計、業務プロセス、経営哲学のレベルまで、それを貫いているのです。
オイシックスさんは、契約農家さんとの関係の中で、「ふぞろい品の積極活用」を、サプライチェーン全体の方針として、貫いています。
無印良品さんは、バウムクーヘンの工場の検品基準を変更し、両端切り落としを6cm→1.8cmに短縮し、レシピや工場環境まで改善しました。
クラダシさんは、「1.5次流通」「もったいないを価値へ」という言葉を登録商標にし、B Corp認証を取得し、自社の経営哲学そのものを、社会に対して証明しています。
つまり、3社とも、「失敗を売る」を、口先のマーケティングではなく、経営の根幹にしているのです。
だからこそ、ヒット商品が生まれ、ブランドが育ち、長く続いています。
なぜ、今、「失敗を売る」が、伸びるのか
時代背景にも、触れておきます。
過去30年、消費者は「完璧」を求めてきました。
傷のないりんご、形の整ったきゅうり、焼き色のきれいなバウムクーヘン。
これが、消費者の求めるものでした。
ところが、ここ10年で、潮目が変わりました。
ひとつ。SDGs・サステナブルの世界的なムーブメント。
完璧を求めることが、地球の負荷を増やすという認識が、広がりました。
「ふぞろい」「規格外」「もったいない」が、価値のある選択になりました。
ふたつ。経済的な意識の変化。
日本の実質賃金が、長年伸び悩んでいます。
完璧を求めるよりも、お得で、意味のある買い物をしたい、という消費者が、増えています。
みっつ。SNS時代の、自己表現としての消費。
「私は、規格外野菜を選んだ」「私は、ふぞろいバウムを買った」「私は、Kuradashiで社会貢献した」── これらが、SNSで、自分らしい消費の表現として、シェアされやすくなりました。
これら3つの要因が重なって、「失敗を売る」発想は、これからも、伸び続けます。
そして、ここに、すべての業界が、応用できる可能性があります。
このシリーズから受け取ったこと
このシリーズで、7軸を書いてきました。
ストーリーを売る。
キャラクターを売る。
変えないを売る。
物語を売る。
世界観を売る。
価格の物語。
そして今日、失敗を売る。
これら7つは、それぞれ別の軸に見えて、実は、ひとつの共通点があります。
それは、「物」だけでは、もう、売れない時代です。
物そのものの機能、品質、価格 ── これらは、ある一定のレベルに達すれば、もう、差別化できません。
今、商品が売れるかどうかを決めているのは、物の周りに、どのような意味の物語が、設計されているかです。
そして、「失敗を売る」は、その典型的な、現代的な発明です。
従来であれば、絶対に「マイナス」だったもの ── 規格外、不揃い、もったいない ── を、「物語」の力で、付加価値に反転させる。
これが、コンテンツで売る時代の、最も洗練された、技術のひとつなのです。
まとめ ── 3行で
『業界の常識では「捨てる対象」だったものを、ヒット商品に変えた、見事な3社の発明 ── オイシックス・ラ・大地さんの「ふぞろいな野菜たち」、無印良品さんの「不揃いバウム」、クラダシさんの「Kuradashi」』
『3社の共通点は、(1)業界の常識を顧客に翻訳する力、(2)ネガティブを付加価値に反転させる構造、(3)工場・業務プロセス・経営哲学のレベルまで、その哲学を貫いていること』
『SDGs時代、SNS時代、そして経済意識の変化が重なった今、「失敗を売る」発想は、これからも、すべての業界で、伸び続ける可能性がある』
企業の方へ
「自社の中に眠っている『規格外』『不揃い』『もったいない』を、商品化したい」
「『失敗』を、付加価値に反転させるブランド設計を、社内で立ち上げたい」
「SDGs時代の新しい消費者層に響く、商品ラインナップを開発したい」
そういったご相談、XのDM(@newtownave51st)までお気軽にどうぞ。
A-FLAG(放送作家70名のアライアンス)とUPiNEの代表として、企画・コンテンツ・ブランド設計のご相談を受けています。
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このnoteでは、放送作家30年の僕が、100年企業の発想、ヒット商品の裏側、テレビ企画術、業界の本音を、毎日、リアルな視点で書いています。
「他では読めないリアル」が好きな方は、フォローしていただけたら、嬉しいです。
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【週の更新スケジュール】
日曜:放送作家のビジネスと人生の奮闘記(UTZ連載中)
月曜・金曜:教科書に載せたいプレスリリース
火曜:放送作家の企画論(約30年で通した100本の企画 放送作家・松田敬三の通信簿)
水曜:放送作家が斬る、企業動画の現場
木曜:テレビ、舞台裏全部見せます
土曜:コンテンツで売る時代(本シリーズ)
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