健診で「血圧が少し高めですね」と言われたら——「高め」と「病気」は、同じではありません
この記事は、産婦人科専門医が最新の医学エビデンスに基づいて執筆しています。
読み方のコツ:細かい数字は読み飛ばしてOK。太字だけ追えば、結論はわかります。
結論:忙しい方へ(30秒でわかるまとめ)
健診で「血圧が少し高めですね」と言われても、「高め」と「病気」は同じではありません。診察室では血圧が上がりやすく、ご家庭で測ると正常範囲だった、という方も少なくありません(白衣高血圧)
「140/90」は、病気の宣告ではなく、早めに気づくための"目印の線"です。血圧はそのときの体調や緊張でも動くので、一度の測定だけで決まるものではありません
「血圧の薬を飲むと赤ちゃんが育たなくなる」というのは、もう古い情報です。大きな研究で、お薬で治療しても赤ちゃんの大きさに差はなかったことが分かっています。必要なときは、安心して治療を受けられます
家庭血圧は、いちばんの味方です。朝と夜に測って記録し、健診に持っていくと、あなたの"本当の血圧"が医師に伝わります
血圧が高めになるのは、あなたのせいではありません。体質や、胎盤側の要因などが重なって起きるもので、自分を責める必要はまったくありません
強い頭痛・目のチカチカなど、気になるサインがあるときは、次の健診を待たずに連絡してOKです(§5にまとめました)
§1 「血圧が高め」と言われても、すぐに「病気」と決まるわけではありません
健診で血圧が高めに出ると、「妊娠高血圧症候群かもしれない」と急に不安になりますよね。でも、まず知っておいてほしいことがあります。
診察室で血圧が高めに出ても、その多くは、すぐに「病気」と決まるわけではありません。
診察室では、血圧は上がりやすいもの
血圧は、そのときの緊張や、診察を待つ間のドキドキ、急いで来た直後などで、簡単に上がります。とくに病院やクリニックという場所では、ふだんより高めに出やすいことが知られています。これを「白衣高血圧(はくいこうけつあつ)」といいます。
実際、診察室で血圧が高めだった妊婦さんに、ご家庭でも測ってもらうと、家では正常範囲だった、という方が少なくありません。日本の産婦人科診療ガイドライン(2026年版)でも、診察室で高めだったときには、家庭での血圧測定を勧める、とはっきり書かれています。
つまり、診察室の1回の数字だけで「病気」と決まるのではなく、家でも測って、本当のところを確かめましょう、という流れになっているのです。
だから、「高め」と言われても、まずは落ち着いて大丈夫
血圧が高めと言われた方のすべてが、妊娠高血圧症候群になるわけではありません
仮に少し高めの状態が続いても、多くは、外来で経過を見ていける範囲です
万が一、注意が必要になったときも、早めに気づいて手を打つ「仕組み」がきちんとあります(後述)
「高め」と言われたのは、悪いことが起きたサインではなく、これから注意して見ていきましょう、という"目印"がついただけ——まずは、そう受けとめて大丈夫です。
§2 「140/90」という線の意味と、家庭血圧という味方
140/90 は、「お母さんと赤ちゃんを守る」ための早めの線
健診では、上の血圧が140以上、または下の血圧が90以上になると、「注意して見ていきましょう」という目安になります。これは日本の診療ガイドライン(2026年版)でも、海外(国際妊娠高血圧学会・アメリカ・イギリスなどのガイドライン)でも、ほぼ共通の目安です。
大事なのは、この線は「病気の宣告ライン」ではなく、「早めに気づくための線」だということ。ここを超えたら必ず病気、という意味ではなく、「ここから先は、少していねいに見ていきましょう」という合図なのです。
家庭血圧は、あなたの"本当の血圧"を教えてくれる
診察室の血圧が当てにならないこともある——だからこそ、家庭血圧がいちばんの味方になります。
測り方のコツ(ガイドラインの方法)
朝(起きてトイレを済ませたあと、朝食や薬の前)と、夜(寝る前)に測る
座って、1〜2分落ち着いてから、腕を心臓の高さにして測る
できれば続けて2回測って、その平均を記録する
測った数字は、ノートやスマホのアプリにメモして、健診に持っていく
家庭血圧を続けて記録すると、「診察室では高いけれど、家では落ち着いている」のか、「家でも高めの日が続いている」のかが、はっきり見えてきます。これは、医師が「今はどの段階か」を判断するうえで、とても役に立つ情報です。
そして、家で測って正常範囲と分かった場合も、妊娠中は体が変わっていく途中なので、そのまま家庭血圧を続けておくのがおすすめです。続けた記録そのものが、この先のあなたと赤ちゃんを守る財産になります。
上腕(二の腕)で測るタイプの血圧計がおすすめです。家でどのくらいの数字なら連絡すべきかは、主治医に聞いておくと安心です。
§3 「血圧の薬で赤ちゃんが育たない」は、もう古い情報です
血圧の治療をすすめられたとき、いちばん心配なのは「お薬が赤ちゃんに悪いんじゃないか」「薬で赤ちゃんが小さくなってしまうのでは」ということだと思います。
ここは、はっきりお伝えできます。
「血圧の薬を飲むと赤ちゃんが育たなくなる」というのは、もう古い考え方です。
大きな研究で、「赤ちゃんの大きさに差はなかった」と分かった
少し前まで、「妊娠中に血圧を下げすぎると、赤ちゃんへの血流が減って、小さく生まれるのでは」と心配されていました。これを正面から調べたのが、CHAP研究(チャップ)という、海外で約2,400人の妊婦さんを対象に行われた大きな研究です。
血圧の薬でしっかり治療したグループと、すぐには薬を使わず様子を見たグループを比べたところ——
小さめに生まれた赤ちゃんの割合は、両グループでほとんど同じでした(治療したほう約11%、しなかったほう約10%で、差はありませんでした)
一方で、治療したグループのほうが、お母さんと赤ちゃんを守るうえでの良い結果につながったことも示されました
つまり、「必要なときに血圧を治療しても、赤ちゃんが小さく生まれやすくなることはなく、むしろお母さんと赤ちゃんを守る良い結果につながる」ということです。だから、医師から治療をすすめられたら、安心して受けて大丈夫です。
妊娠中でも使える薬があります(医師が選びます)
妊娠中でも、安心して使える血圧の薬がいくつかあります。どれを使うかは、あなたの状態に合わせて医師が選びます
一方で、妊娠中は避けたほうがよいお薬もあります。妊娠前から血圧の薬を飲んでいる方は、今飲んでいる薬の名前を必ず医師に伝えてください。必要なら、妊娠に向いた薬に切り替えます
血圧が高くなったのは、あなたのせいではありません
最後に、これも知っておいてください。
妊娠中に血圧が高くなるのは、あなたの体質や、胎盤側の要因などが重なって起きるものです。「塩分をとりすぎたから」「自分の不摂生のせい」と、自分を責める必要はまったくありません。生活で気をつけられること(後述)はありますが、それは"原因探し"ではなく、"今できること"として、無理のない範囲で取り入れれば十分です。
§4 主治医に「ぜひ聞いてほしい」5つの質問
「聞ける産科医」として、健診で「血圧が少し高め」と言われたとき、ぜひ主治医に聞いてほしい質問を5つにまとめました。メモして持って行ってください。
質問① 「今日の血圧は、いくつでしたか?」
「高め」というラベルだけでなく、具体的な数字を聞きましょう。140に少し届いたくらいなのか、もっと高いのかで、見ていくペースが変わります。
質問② 「家でも測ったほうがいいですか? 測り方は?」
家庭血圧は、いちばんの味方です(§2)。「測ったほうがいいか」「いつ・どう測るか」「どのくらいの数字なら、健診を待たずに連絡すべきか」を、セットで聞いておきましょう。
質問③ 「私は今、経過観察ですか? それとも何か始める段階ですか?」
多くの方は、まず経過観察です。「今は様子を見る段階なのか」「家庭血圧を始める段階なのか」「治療を考える段階なのか」——自分が今どこにいるかを、はっきり聞いておくと安心です。
質問④ 「生活で気をつけることはありますか?(減塩・体重・休養など)」
血圧が高めのときに、無理のない範囲でできること(塩分を控えめに、体重の増え方、しっかり休む、など)を聞いておきましょう。ただし、過度な無理や、自己流の厳しい食事制限は禁物です。何をどこまでやればよいかは、主治医に確認するのがいちばんです。
質問⑤ 「どんな症状が出たら、次の健診を待たずに連絡すべきですか?」
これがいちばん大切な質問です。「こんなときは、すぐ連絡してください」という目安を、あらかじめ聞いておきましょう(次の§5にも、代表的なサインをまとめました)。
§5 まとめと、もう少し知っておいてほしいこと
この記事で伝えたかったこと
健診で「血圧が少し高め」と言われても、「高め」と「病気」は同じではありません。診察室では上がりやすく、家で測ると正常範囲という方も少なくない(白衣高血圧)
140/90 は、病気の宣告ではなく、早めに気づくための"目印の線"。一度の数字に一喜一憂しなくて大丈夫
「血圧の薬で赤ちゃんが育たない」は古い情報。大きな研究で、お薬で治療しても赤ちゃんの大きさに差はなかったと分かっています。必要なら安心して治療を
家庭血圧は、いちばんの味方。朝と夜に測って記録し、健診に持っていく
血圧が高めになったのは、あなたのせいではありません。自分を責めないでください
こんなときは、様子を見ずに連絡を
この記事は「今のところ症状はないけれど、健診で血圧が高めと言われた」という場合の、安心の話に絞りました。次のようなサインがあるときは、別です。
強い頭痛が続く
目がチカチカする・ものが見えにくい
みぞおち(胃のあたり)が痛い
急に手や顔がむくむ・体重が急に増える
こうしたサインがあるときは、次の健診を待たずに、主治医や病院に連絡してください。「これくらいで連絡していいのかな」と、遠慮する必要はまったくありません。早めに連絡することは、あなたと赤ちゃんを守る、いちばん確実な方法です。
「尿に蛋白が出ています」とも言われた方へ
血圧と一緒に、「尿に蛋白(たんぱく)が出ている」と言われることもあります。血圧と尿蛋白は、セットで見ることで、変化に早く気づくための"見守りの網"になります。両方を指摘されると不安になりますが、それは「より手厚く見てもらえるサイン」でもあります。尿蛋白については、次回の記事(C5)であらためて詳しく解説します(公開しだいご案内します)。
妊娠中の不安、おひとりで抱え込まないで
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参考にした主な情報源
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 共同編集. 産婦人科診療ガイドライン産科編 2026 年版(CQ311-1 妊婦健診で収縮期血圧≥140かつ/または拡張期血圧≥90mmHgや尿蛋白陽性を認めたら?/CQ311-2 妊娠高血圧症候群と診断されたら?).(日本での診断の目安〔140/90〕・白衣高血圧・家庭血圧測定の位置づけ・管理方針)
Tita AT, et al. Treatment for Mild Chronic Hypertension during Pregnancy (CHAP trial). N Engl J Med 2022;386(19):1781-1792.(PMID 35363951。約2,400人の無作為化比較試験。血圧を治療した群でも、小さめに生まれる赤ちゃんの割合は治療しなかった群と差がなく〔11.2% 対 10.4%〕、母児を守る複合的な結果は治療群で良好だった=「降圧で赤ちゃんが育たない」は支持されなかった)
Magee LA, et al. The 2021 International Society for the Study of Hypertension in Pregnancy (ISSHP) classification, diagnosis & management recommendations for international practice. Pregnancy Hypertens 2022;27:148-169.(PMID 35066406。国際的にも 140/90 を治療の起点とする方向で一致)
National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Hypertension in pregnancy: diagnosis and management (NG133).(妊娠中の高血圧の管理指針。降圧の目標を 135/85 mmHg とする)
※この記事は医療行為ではなく情報提供です。具体的な判断は必ず主治医とご相談ください。
