その危機は、本当に危機なのか?──危機共振思考法の最初の問い
前回の固定記事では、危機を煽るのではなく、読み解き、判断知に変えることを本フェーズのテーマとして置きました。
今回、危機共振思考法【判断知シリーズ】の最初に置きたい問いがあります。
それは、
その危機は、本当に危機なのか?
という問いです。
危機を使う。
危機を待つ。
危機を使わない。
危機を組み合わせる。
本フェーズでは、こうした危機の扱い方を「判断知」として整理していきます。
その前に確認しなければならないことがあります。
そもそも、自分が「危機だ」と感じているものは、本当に危機なのか。
それとも、自分の焦り、不満、不安、怒りを、危機という言葉で大きく見せているだけなのか。
ここを見誤ると、危機共振は危険なものになります。
危機を読み解く前に、危機を見立てる。
これが、判断知シリーズの最初の問いです。
1. あるリアルな場面
新規事業や組織変革の現場では、よくこういう場面があります。
現場では、確かに商機が見えている。
顧客からの反応もある。
小さな成果も出始めている。
にもかかわらず、組織の意思決定は遅い。
会議では、前向きな言葉が出る。
「重要だと思っている」
「可能性はある」
「引き続き検討したい」
しかし、具体的なリソースは出てこない。
判断も進まない。
誰も明確に反対しているわけではないのに、なぜか物事が前に進まない。
そのとき、推進する側はこう感じます。
「このままでは機会を失う」
「なぜこの危機感が伝わらないのか」
「ここで動かなければ、本当にまずい」
「組織は何を見ているのか」
そして、次第にこう思い始めます。
これは危機だ。
この危機感を共有しなければならない。
もっと強く言わなければならない。
動かない人たちにも、現実を見てもらわなければならない。
この感覚は、よく分かります。
実際、現場から見れば、危機に見える。
商機を逃すかもしれない。
顧客の期待を裏切るかもしれない。
競合に先を越されるかもしれない。
新規事業そのものが止まるかもしれない。
しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。
その危機は、本当に「共有された危機」なのか。
それとも、推進する側だけが見ている危機なのか。
2. そこで起きていた危機
この場面で起きている危機は、一つではありません。
まず、推進側にとっては「機会損失危機」があります。
今動かなければ、商機を失う。
顧客の温度が下がる。
市場のタイミングを逃す。
せっかく生まれた可能性が消えてしまう。
これは確かに危機です。
しかし、意思決定する側から見ると、別の危機が見えている場合があります。
投資して失敗する危機。
短期収益を悪化させる危機。
既存事業のリソースを奪う危機。
説明責任を負わされる危機。
前例のない判断をする危機。
つまり、同じ出来事を見ていても、立場によって「危機の意味」が違うのです。
推進側は、動かないことを危機と見る。
意思決定側は、動くことを危機と見る。
現場は、機会を失う危機を見ている。
上位層は、失敗責任を負う危機を見ている。
ここにズレがあります。
そして、このズレを読まずに「危機感が足りない」と言ってしまうと、危機は共振しません。
むしろ、防衛反応が生まれます。
3. 多くの人がやりがちな誤判断
多くの人がやりがちな誤判断は、ここです。
自分が危機だと思っているものを、相手も同じように危機だと感じているはずだと思い込むこと。
これはかなり危険です。
自分にとっては明らかな危機でも、相手にとってはそうではない。あるいは、相手にとっても危機ではあるが、危機の種類が違う。
にもかかわらず、
「なぜ分からないのか」
「危機感が足りない」
「本気度が低い」
「覚悟がない」
と解釈してしまう。
これは、危機を読んでいるようで、実は読めていません。自分の見えている危機を、相手に押しつけているだけです。
危機を扱うときに大事なのは、危機の大きさを叫ぶことではありません。まず、その危機が誰にとっての危機なのかを見立てることです。
自分にとっての危機なのか。
相手にとっての危機なのか。
組織にとっての危機なのか。
顧客にとっての危機なのか。
未来にとっての危機なのか。
ここを分けずに危機を使うと、危機は行動を生むのではなく、反発や沈黙を生みます。
4. 危機共振思考法での読み解き
危機共振思考法では、危機を単なる出来事として見ません。
危機とは、出来事そのものではなく、出来事に対する意味づけによって立ち上がるものです。
同じ出来事でも、人によって危機になる場合もあれば、ならない場合もあります。
たとえば、顧客から強い反応があった。
推進側にとっては「今動くべき好機」です。
しかし、慎重な人にとっては「まだ検証不足の案件」かもしれません。
競合が先に動いた。
推進側にとっては「急ぐべき危機」です。
しかし、別の人にとっては「市場がまだ不安定である証拠」かもしれません。
経営層が判断を保留した。
推進側にとっては「停滞の危機」です。
しかし、経営層にとっては「リスクを見極める時間」かもしれません。
つまり、危機は事実だけでは動きません。
危機は、意味づけによって動き出します。
だからこそ、最初に必要なのは、危機を強く語ることではありません。
その危機が、誰にとって、どのような意味を持っているのか。
どの立場から見ると危機で、どの立場から見ると危機ではないのか。
どの危機は共有されていて、どの危機はまだ共有されていないのか。
これを見立てることです。
5. 使う/待つ/使わない/組み合わせる判断
では、このような場面で危機をどう扱うべきか。
ここでいきなり「使う」と判断するのは危険です。
推進側だけが危機を感じている段階で危機を強く使うと、相手には脅しや圧力として伝わる可能性があります。
「今やらないとまずい」
「このままだと失敗する」
「動かないと機会を失う」
これらは事実かもしれません。
しかし、相手の中にその意味づけが生まれていない段階では、危機は共振しません。
この場合、
まず必要なのは「使う」ではなく、「読む」です。
相手は何を危機と見ているのか。
相手は何を守ろうとしているのか。
相手にとって、動くことの危機は何か。
動かないことの危機は、まだ見えているのか。
ここを読んだ上で、次の判断が生まれます。
もし相手にも機会損失の危機が見え始めているなら、危機を使えるかもしれない。
もし相手がまだ失敗責任の危機しか見ていないなら、危機を待つ必要があるかもしれない。
もし危機を使うことで関係が壊れるなら、使わない判断が必要かもしれない。
もし複数の危機が重なっているなら、機会危機は使い、関係危機は使わないという組み合わせが必要かもしれない。
危機は、強く語れば伝わるものではありません。
相手の中で意味づけが生まれてはじめて、危機は共振し始めます。
危機の判断は、単純ではありません。
だからこそ、最初に問うべきなのです。
その危機は、本当に危機なのか。
そして、それは誰にとっての危機なのか。
6. 今日の判断知
今日の判断知は、こう整理できます。
危機を扱う前に、その危機が本当に危機なのかを見立てる。
自分が危機だと感じているからといって、相手も同じ危機を見ているとは限りません。
危機には、立場があります。
危機には、意味づけがあります。
危機には、温度があります。
危機には、共有されているものと、まだ共有されていないものがあります。
だから、危機を使う前に読む。
危機を語る前に見立てる。
危機を押しつける前に、誰にとっての危機なのかを分ける。
これが、危機共振思考法【判断知シリーズ】の最初の問いです。
危機を煽るのではなく、読み解く。
そのためには、まず、
「その危機は、本当に危機なのか?」
と問う必要があります。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本フェーズ全体の考え方は、こちらの固定記事にまとめています。
▼危機は、煽るものではなく、読み解くもの──危機共振思考法【判断知シリーズ】
