雨の弁当屋
雨は降っていないけれど、すでに雨のにおいが立ち込めていた。
わたしは足早に交差点の横断歩道を渡ると、ピンク色の看板が目印の、チェーン店のお弁当屋に入る。ひばりさんの家に行く時は、いつもここに立ち寄るのだった。唐揚げと、蓮根とニンジンのお煮染めと、おからと、枝豆と、コロッケ。以上が定番で、そこから後は時々の気分である。今日はだし巻き玉子と、肉団子の甘辛煮にした。ひばりさんとわたしの2人だけなのだが、わたし達は自他共に認める大食漢なのだ。会計の際、もはや顔見知りとなっているパートのおば様が、レジ横の個包装の大福を2つささっと袋に入れてくださった。
お弁当屋を出ると、スマートフォンの通知音がして、確認するとひばりさんからショートメールが届いていた。
(明日って、晴れると思う?)
随分唐突なひと言だった。ひばりさんはわたしが20代の頃の、サラリーマン時代の先輩(男性)なのだけど、20年近く経っても変わることなく、連絡内容に配慮が感じられない。
(知らない)
素っ気なく返してスマホをバッグに入れようとすると、また通知音がした。
(晴れたら)
ここで終わってしまっている。晴れたら、なんだというのか。わたしは今度こそスマホをバッグに入れ、惣菜の詰まった巨大なビニール袋を右腕に掛け直すと、気持ち大股でひばりさんの家へ向かった。いつも肝心なところで、ひばりさんはガス欠を起こしてしまう。だからなのか、その先を確かめるために、わたしはいつもひばりさんの元へ急いでしまうのだった。
生涯独り身ではあるけど、それは良いとして、孤独死の第一発見者がアンタであることだけは、まっぴらだわ。
ひばりさんにそう言われたのは、もう何年前のことであろうか。こっちだってまっぴら、である。
サラリーマン時代からひばりさんもわたしも、びっくりするほど相変わらずなのだけれど、あぁでも、買ったお惣菜が残りつつあることが、唯一の変化と言えるだろうか。
空からついに雨が降ってきて、私は急いた。
(晴れたら)
ちょっと、まさか本気のガス欠起こしてないでしょうね?まっぴら、だっての。
雨はますます勢いづいて、到底、止みそうになかった。
