Photo by
koichiakamine
【ショートショート】春の忘れもの
桜の花びらが舞う季節になると、私は決まってあの場所を訪れる。
駅から少し離れた高台にある、小さな公園の桜並木。
毎年この時期になると、ここで彼女と並んで歩いた日々を思い出す。
「桜って、どうしてこんなに切ない気持ちにさせるんだろう」
彼女は、花びらをそっと指先でつまみながら言った。
「綺麗だからじゃないか? すぐに散ってしまうからこそ、儚くて心に残るんだよ」
そんな会話を交わしたのは、もう何年前のことだっただろう。
彼女は春の終わりにいなくなってしまった。
今でも彼女の最後の言葉だけが胸に残っている。
「来年も、この桜を一緒に見られたらいいね」
約束を果たせなかったまま、時だけが過ぎていった。
それでも毎年、私はここに来る。まるで彼女の忘れ物を探すように、散りゆく花びらを見上げる。
ふと、風が吹いて、花びらが私の肩に落ちた。
「……来てたんだね」
突然、背後から懐かしい声がした。振り向くと、そこに彼女が立っていた。
変わらない笑顔。けれど、どこか大人びた表情。
「久しぶりだね」
そう言って彼女は、私の隣に立った。
何を話すでもなく、二人でただ桜を見上げる。あの頃と同じように。
「来年も、またここに来る?」
彼女の問いに、私は少し考えるふりをして微笑んだ。
「……たぶん、ね」
風が吹き、二人の間を桜の花びらが舞った。
儚い約束を、またひとつ、春が運んでいく。
―おわり―
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎最後まで読んで頂きありがとうございました。⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
