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詩『椅子田市報』


椅子田市民憲章

い  いつでも笑顔で、自然を愛し、平和な社会をつくります。
す  すべての市民のしあわせを約束します。
た  たがいに助け合い、夢と希望に満ちた故郷をめざします。

3月17日号 空っぽの鳥かご

市内のいろいろな場所で、砂原鯖喰という名の男が出没している。
さはらさばく、と読むのだが、どうやらこの名前はちょっと道を横切るために用いる新手のぺてんの手段らしいのだ。

狭域広報誌で周知の事実であるにもかかわらず、市民は鯖喰に存在しない国のよめない地図を買わされる。明らかなぺてんであるのに、だれも訴人しないのだから謎だ。これも鯖喰の名の力なのだろうか。

しかし鯖喰にも弱点があった。臨海図書館の司書兼管理人、矯正器具を外したばかりの生粋の雨女、彼女にはどんなぺてんも通用せず、鯖喰もその舌をまくのだという。さっそく週明けから新人捜査官の研修が始まるだろう。

自発行方不明者たちは捜索願を偽造する。存在しない国へ亡命するために、市役所の上空を浮遊している事実はだれも知らない。市政によって完全に隠蔽されている。でも鯖喰はお見通しだ。

4月15日号 魚

市営団地に住むK氏が昨晩遅くに魚になった。市報の取材に応じたK氏曰く、以外と心地よいらしい。どうやら程よい水圧が脳みそを引きしめるようで、受験生などにはもってこいではないかという。
団地の管理人がK氏を冷やかしにいったところ、見当たらない。K氏の同居家族に話を聞けば、夕飯の買い物が億劫だったので、昼寝をしているK氏をさばいて塩焼きにして食べてしまった、という。家族が罪に問われるのかどうか、裁判の行方が注目される。

5月15日号 発車のベルは密やかに

市営電車は無音で走る。
「あ」と「こ」の二本のレールの上で、中心が不確かなまま円運動を続ける。

ある市職員のはなし。

「残業終わりの私は、市電にゆられてウトウトと微睡んでいました。自分の駅なんて忘れていた。このまま一生同じところを回っているのも、別にいやじゃなかった。目的地のない旅の心地よさってわかりますか? ほら、円周率ってヤツは、いくら計算し続けても飽きることがないでしょう? あれと同じ理屈です。あなた、自分が病んでいないと言い切れますか? 無線教唆通信に侵蝕された夢遊アンテナの一群ではないと?」

6月16日号 人工進化

早く あのこ を見つけてあげて。

あそこあそこあそこあそこあそこあそこ あそこあそこあそこあそこあそこあそこ あそこあそこあそこあそこあそこあそこ あそこあそこあそこあそこあそこあそこ あそこあそこあそこあそこあそこあそこ あそこあそこあそこあのこあそこあそこ あそこあそこあそこあそこあそこあそこ あそこあそこあそこあそこあそこあそこ あそこあそこあそこあそこあそこあそこ あそこあそこあそこあそこあそこあそこ

市民短信
この花の名前は何というのでしょうか。誰か教えてください。
忘れてはいけないものを、ひとつくらいは持っていたいのです。

蝉に寄生するキノコを見たことがあります。
なんともグロテスクでアンビバレントなやつです。
私の脳に寄生している緊急啓示サイレンも、つまりはそういう仕組みです。

憂鬱でコーヒーを飲む。
サイレンが予想以上に大きかったので、羊水の中の子猫が生えたての爪に戸惑う。
手紙の中の「君」という文字だけが熱をおびて、ついに火を吹いて燃え出してしまった。
正確な啓示を受信するために、今朝の新聞に「愛」という文字がないことを確かめなければならない。

世界中の恋愛詩人を許すことができない。

7月15日号 奇術師の雑記帳

彼はほうれん草が大好きだった。
本当は大好きだった。

クイズ ※自己採点した結果を広報広聴課までお知らせ下さい。

・赤いリンゴは(  )色です。
・湖を大きな(  )が泳いでいる。
・わたしの名前は(  )ではありません。
・18701124am0900-24 彼の職業は?
・海は(  )事件の容疑者です。
・小指+きのう捨てた写真+かみそり+(  )=電気鰻
・少女の涙の理由を二百字以内で述べなさい。(ヒント 少女はまだ恋を知りません。)
・(  )が好きで嫌いだ。(ただし、本音は言わないものとする。)
・婚約者が去ってゆく理由として最も疑うべきなのは次の三つのうちどれか?
裏庭のビワの木、少女ののどから出てきた飴玉、赤いこうもり傘

 (間違えた問題の正答は広報広聴課まで)

花の種の処方箋

咲く覚悟が消えないうちに
できるだけたくさん
一息に飲み込むこと
(その際、オブラ-トに包むなんて、ナンセンス)

本のメモ

縊死……首をくくって死ぬこと。また、それを貫く強い気持ち。
懶惰な……なまけて、仕事・勉強をしないでいる様子。詩人の特権。
リリカルな……叙情(詩)的。僕の口と、あの人の耳までの距離(の様な)。
諧謔……遺言の遠回しな言い方。四月一日のプロポーズ。
ロマネスク……あの人の、少し癖のかかった、たった一本の髪の毛のこと。
エポックを画する……新しい時代を開く。(しかしそれには、独裁者の首か、絶世の美女が必要)
暗涙……不幸、不運に際して、思わず流す涙。近所の薬局で手に入る。

8月15日号 ランプを灯す者、或いは吹き消す者

市営農場の青年が
入院している母のために
とびきり肥えた一匹の豚を
月のあかりにしずめました

電波神経症の看護師が
腕にアルコールをぬりたくるとき
庭の椿の木の下では
黒い紙飛行機が燃えています

少女にもらった本には
しおりという名の導火線がついていて
蝶々の羽根を想うだけなのに
次々とページが枯れ葉になってゆきます

みんなが海を忘れたころ
岩礁の蟹が歌をうたいはじめます
それがあまりに恐ろしいので
僕は森で死ぬつもりです

夢の連続殺人犯
かれは針と糸を使って
被害者の口を縫い閉じてから
行為におよぶという

夢の連続殺人犯
清らかな行為の夜は
必ず月がやせるという

夢の連続殺人犯
母も連続殺人犯

哀しい連続殺人犯

異端駆除短信
古切子の月がかける。
狒々たちがすみれ色にそまるうちに
基準定数を駆除しなければならない。
清らかな労働のあと
稼いだ舌を針金でつないで
二十六時の夜風にさらす。
音楽が
遠吠えがきこえる。
私はなんという名前で呼ばれていただろう。
私に似た誰かを雑踏に見つけては
密かにあとをつける日々。
跨線橋にぶら下がった
熟れすぎた夢の果実はもう落ちた。
逆さまの円錐の上で
冬眠と羽化を延々に回る。
火事だ火事だと笑いながら
駆け抜けてゆく幼い影。
閉じたばかりの小説がふるえて
背中の肌が引波のようにはがされる。
悪夢を遠ざけるために
銀色の目覚まし時計のねじを巻き
明日の労働に備えて眠る。

9月15日号 鳥かご

月曜日
昼間
外は九月の雨
ステンドグラスの喫茶店
いつまでも消えない 灰皿のたばこ

密航船
忘れた絵筆
テーブルの上の水たまり
野良犬の四角い胴体
棺桶のような 昨日の電話

フリー・セッション
会話
珈琲カップの深い青
縫い閉じられた唇
かわかない髪

永遠
残酷
夜明けを待つジャズ
壁掛け時計

月曜日
昼間
外は九月の雨
ステンドグラスの喫茶店、そして
待ち人のいない椅子。

10月15日号 市長追悼特別号

花は散らうとしてゐる。必死で散らうとしてゐる。

#創作大賞2025 #オールカテゴリ部門

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