ジャパンウォーズ13 船団完成
【神武東征編】エピソード13 船団完成
安芸国に滞在中の狭野尊(以下、サノ)たち天孫一行は、水稲耕作教育と灌漑事業を続けていた。
そんな中、椎根津彦(以下、シイネツ)がサノの元に報告にやってきた。
シイネツ「我が君。ついに新たな水先案内人を見出して参りましたぞ。」
サノ「おお、ついに見つかったか。」
シイネツ「この者が、新たな水先案内人にござりまする。」
促され、入って来たのは、一匹の亀であった。

サノ「これは・・・カメ・・・か?」
長兄の彦五瀬命(以下、イツセ)が応える。
イツセ「どう見ても、亀やな。」
博学の天種子命と目のまわりに入れ墨をした大久米命も感想をこぼした。
天種子「水先案内人と申されたはず・・・。これは、人にあらず。亀にあらしゃいます。」
大久米「そうっすよね? 広島弁しゃべる奴が来るのかと思ってたんすけど・・・。」
落胆する一行に対し、椎根津彦は必死に弁明した。
シイネツ「人でなくとも、水先案内はできまする!」
サノの妃、興世姫が冷たい眼差しをシイネツに向ける。
興世「されど、亀でなくても良いのでは?」
シイネツ「えっ!? じゃあ、何なら良かったんや?」
興世(おきよ)「カラスとか?」
サノ「興世よ。それはまだ先の話じゃ。此度は亀で我慢するしかない。」
シイネツ「我が君まで、そんなことを・・・。みなさま、少し誤解してるに。」
三兄の三毛入野命(以下、ミケ)が、みなを代表して尋ねる。
ミケ「誤解って何ね? どう見ても、普通の亀やろ?」
シイネツ「確かに、こいつは・・・見てくれは、ただの亀やに。でも、人の言葉を理解し、ちゃんと先導も出来るんやに。」
そのとき、亀が鳴いた。
ンア~。
興世「言葉はしゃべれないのですか?」
ミケ「この世界では、蛸でもしゃべれるんやぞ。なのに、この亀は、しゃべれんのか?」
シイネツ「くっ・・・悔しい。反論できない自分が悔しいっちゃ。」
イツセ「まあ、仕方なか。この亀の先導で進むほかないっちゃ。」
シイネツ「亀語の翻訳については、うちにお任せくだされ。」
ミケ「ホンマに役に立つんか? どうも信じられん。」
再び、亀が鳴いた。
ンア~。
シイネツ「わしに任せろと言っちょります。」
そこへ、前回登場した剛風彦がやって来た。
剛風彦「お取込み中、申し訳ござりませぬ。何やら、大船団が来たので、急ぎ、港に来てほしいと安芸津彦様からの言伝てにござりまする。」
天種子「剛風彦? 鬼退治伝説だけの登場やなかったんか?」
剛風彦「実際は、そうなんじゃが・・・。それだけで終わらせるのは勿体ないという作者の考えで、安芸津彦様の補佐役として出演することになったんじゃ。」
天種子「せやったか。良かったのう。」
サノ「ところで、剛風彦よ。大船団が来たというのは、まこち?」
剛風彦「ま・・・まこち!」
サノ一行が、剛風彦に誘われ、港に向かうと、そこには、大小幾艘もの船が浮かんでいた。

全ての船が、どう見ても新品である。
埠頭では、安芸津彦と一人の男が言い争っていた。
安芸津彦「おどれ、なめとんのかっ! 邪神でない証拠を見せぇ言うとるんじゃ。」
謎の男「ないモンはないっ言うとろうが! 無理難題言うな!」
白熱する二人の間隙を縫って、駆け寄ってきたサノが割り込んだ。
サノ「オチかっ! 久しぶりっちゃ!」
更に、三兄のミケも駆け寄り、「おちやん!」と叫ぶと同時に、男に抱き着いた。
それに反して、気持ち悪そうな表情の「おちやん」。
おちやん「ちょっ、ミケ、離せっ。何が嬉しうて、男同士で抱き合わんといかんのじゃ。」
ミケは、おちやんの言葉を無視し、抱き着いたまま離さない。
その傍らで、次兄の稲飯命が顔を綻ばせた。
稲飯「おちやん。久しぶりっちゃ。ついに船が出来上がったんやな。」
おちやん「おお、イナヒ。待たせたぞな。注文通りの数じゃ。数えてみてくれ。」
長兄のイツセも会話に加わる。
イツセ「数えずとも良い。汝が約束を破ったことなど、一度もないやろ?」
おちやん「おお、イツセ。突然、使者が来訪した折は、驚いたぞ。じゃが、新しき国造りと聞いて、急いで船を造らせたぞな。」
安芸津彦「ちょっ、こいつは誰なんじゃ?」
サノ「ああ、我らの遠い親戚で、伊予二名島を治める小千殿じゃ。我らは『おちやん』と呼んでおる。ちなみに、伊予二名島いうんわ、四国のことっちゃ。」
安芸津彦「貴殿が小千殿か。貴殿も、お人が悪い。名前を名乗ってくだされば、このような諍いにはならなかったのですぞ。」
おちやん「急に、貴殿がつっかかってくるけん、わしも熱うなってしもうた。すまんかったな。」
ここで、小柄な剣根と弟の五十手美(以下、イソ)が解説を始めた。
剣根「小千命は、伊予の豪族、越智氏の祖といわれる人物じゃ。」
イソ「愛媛県今治市の島、大三島には、小千命が自ら植えたという楠があり、『小千命御手植の楠』と呼ばれておりまする。」

剣根「推定樹齢二千六百年と伝わっておる。この楠の所在地が、大山祇神社じゃ。神社の由緒書には、こう書かれておるぞ。」
<神武天皇東征のみぎり、祭神の子孫、小千命が先駆者として伊予二名島に渡り、瀬戸内海の治安を司っていたとき、芸予海峡の要衝である御島(大三島)に鎮祭したことに始まる>
イソ「大山祇神社は、その名の通り、山の神である、大山祇神を祀る神社のことじゃ。同神社には、小千命の楠以外にも、天然記念物の楠群があり、古代から楠の産地であったようじゃな。」
剣根「楠は腐りにくく、船の用材にも適した木なのじゃ。」
シイネツ「解説かたじけないっちゃ。」










興世「ちなみに、のちの世の話になりまするが、第三十八代の天智天皇の時代、白村江の戦いで捕虜になった越智直が、造船の知識で、自ら船を作り、敵地から脱出し帰国した、という記録がありまする。」
イツセ「まあ、『日本霊異記』に書かれた話なので、事実かどうかは分からぬが、越智氏が造船に長けた一族であったことは間違いないっちゃ。」
稲飯「おちやんの御手植えの楠があるのは、木を伐採して船を造るにおいて、大山祇神に対し、お詫びと感謝の意を捧げるためのものだったのではないやろか。」
おちやん「解説かたじけなし。ほんじゃ、わしは帰ってこうわ。」
サノ「もう帰るのか? 我らと共に東征に付いて来てはくれぬのか?」
おちやん「一緒に行きたいんじゃが、伊予二名島の治安維持もあるけんな。すまんのう。」
イツセ「そういうことなら、仕方なか。伊予二名島のこと、よろしく頼むっちゃ。」
稲飯「我らは亀の先導で東に向かうじ。」
おちやん「亀も立派に先導を果たすと聞き及んでおりまする。皆様方、お気を付けて・・・。」
ミケ「名残惜しいが仕方ないっちゃ。おちやんも気を付けてな。」
こうして、小千命は伊予二名島に帰っていった。
新木の香りが漂う船団を残して・・・。
つづく
