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【転職体験記】私が転職を決意した「マーガリン事件」

そろそろ時効だろう。
私が転職を決意した、「マーガリン事件」について書こうと思う。

まだ、何を言っているかわからないと思う。
ただ、最後まで読んでいただければ、「世の中にはそんなこともあるのか…」と思っていただけるはずだ。

前段:新卒の就活、イカれた入社後

そもそも、私の就職活動は随分とひねくれていた。

周囲の友人が次々に大手企業に入社を決める中、逆張りに喜びを見出していた私は、
「自分の介在価値が最大化されるような難易度の高い仕事がいい」
「誰も知らないような会社で、ゴリゴリやっていきたい」
という就職の軸を持っていた。

その結果入社したのは、社員が40人程度の中小転職エージェントだ。
元リクルート出身のメンバーが立ち上げて以来20年以上、人材紹介業いっぽん。

今でこそリクルートはDXを推進し、効率化の鬼として業績を伸ばしているが、昔は泥臭い営業を徹底的にやり切って成長してきた会社だという。

私が入社した会社でも、その当時のリクルート魂は濃厚に受け継がれていた。
「仕事の報酬は仕事」という価値観のもと、残業が良しとされ、リモートワークは休みとほぼ同義と見なされる、そういう会社だった。

振り返ってみると、入社して早々にとんでもないことが起きていた。

・入社前の面談をしてくれた先輩は、入社日には退職済み
・3つ上の代までの新卒は全員退職済み
・4月に中途入社した社員が1か月もたずに飛ぶ

部長や社長が怒鳴っているのが日常茶飯事で、
「なるほど、社会というのは厳しいものだ・・・」と思うと同時に、
「まぁ、高校の野球部もこういう厳しさだったしな・・・」と謎に納得した私は、気がつけば無事に順応していた。

1年目から、
・10年勤めたベテラン先輩が退職し、150社近い引き継ぎに同行して死にそうになったり、
・超老舗企業の役員との打ち合わせに突然同行を命じられ、緊張のあまりノートをカバンから取り出せず、全集中して内容を残さず記憶して帰ったり
した。

その間、ミスをすれば手帳やペンを投げつけられたり、信じられないワードで怒鳴られたりもした。結構な頻度で。
厳しいなぁ、とは思いつつ、仕事自体は面白く、また若手メンバーの士気が高かったこともあり、特段疑問を持たずに働き続けた。

そんなこんなで、丸4年の歳月が流れた。
その間に、1500人近い転職希望者と面談し、500社以上の企業と商談した。
忙殺、という言葉がよく似合う。

メンタル崩壊と社長からの電話

そして、ある時に事件が起きる。
詳細は省略するが、自分自身のミスとクレームが重なり、メンタルにかなりダメージを喰らってしまった。
完全に心を折られた私は、フィジカル的な抵抗力も弱っていたのか、そのタイミングでコロナウイルスに罹患してしまった。

幸い、症状としては軽症で済んだものの、メンタルが落ち込みきっていたこともあり、療養という名目で1週間ほど休むことになった。
謎の意地でメンタルクリニックには行かずじまいだったが、もし行っていれば明らかに適応障害等の診断が下っていただろうことは想像に難くない。

幸いにしてコロナそのものは軽症で済み、念のためとして療養期間を頂いていたときのこと。

事務のお姉さんから、「社長が心配してて、電話したいと言っている」という旨、連絡をもらった。
40人ぐらいの会社ゆえ、社長が直接連絡をくれることがあるのだ。

メンタルが終わっているタイミングだったのであんまり乗り気ではない中ではあるが、まぁせっかくのことだし…と思って、電話の時間を頂くことにする。

電話の最初は、普通に心配してくれていた。
体調はどうか、とか、咳は収まったか、とか。
こちらも、当たり障りなく、体調的には問題はないので、来週ぐらいからは出社できそうです、みたいな回答をする。

本当は、メンタル的に行けるかどうか微妙だった。
だが、それをわざわざ言う必要はない。

へたにメンタル不調の話をすると、話が長引いて終わらなくなる。
そのことを、私は経験から知っているからだ。

ところが、だんだんと雲行きが怪しくなっていく。
昭和のモーレツサラリーマンであるがゆえ、
「体調不良=自己管理不足」というレッテルを貼る人なのだ。

そして、自己管理の成否を分けるのは、彼のような人種にとっては食事なのだ。

社長「お前は体調崩しがちやな、ちゃんと飯は食うてるか?」
(社長は関西弁なのだ)
私「はい、ちゃんと食べてます」

本当は全然食べていない。
ここでバカ正直に「食べてません」と答えようもんなら「朝飯食わんから体調崩すんや!」と地雷を踏むことは明らかだったので、華麗に回避する

社長「よかった、何食うてんのや?」
私「ご飯とかパンとか…日によってですかね」
品目まで問われる。
本当は食べていない朝食の献立など、どうにも答えられない。

社長「パンはどんなん食うてんねん」
私「…だいたい食パンですかね」
どうでもよすぎるだろ。そもそも、本当は食べていない。
ただ、ここで「菓子パン」と答えようもんなら、「菓子パンなんて糖分とりすぎたらアカン!」と地雷を踏むと判断し、ここも回避する

社長「食パンは何つけて食うてんねん」
なんだこの質問は??なんでもいいだろ?

私「ジャムとか・・・マーガリンとかですかね?」

社長「マーガリンなんか食うてんのか!だからアカンのや!!」

まさか、こんなところに地雷が埋まっているとは。
さすがに、ここまでは回避しきれなかった。

驚いて声も出ない私に向けて、社長の怒りはなおも続く。

社長「マーガリンなんて自然にないもん食うな!アメリカでは禁止されとるの知らんのか!!」
私「あ・・・知らないです」
社長「なんで知らんねん!!」

あんまりよくないとされているケースがあることぐらいは知っていたが、この2択は無意味だ。
どちらを回答しても詰んでいる。
「知っています」→「なんで知ってて食うねん!」でアウト
「知らなかったです」→「なんで知らんねん!」でアウト

なので、一応自分の行動と整合性が取れるように回答しておいた。
知らないものは知らないのだから、社長としてもそれ以上詰めようがない。

その後も、「信じられへん」「親が聞いたら泣くぞ」等々、電話口の向こうで散々言われていたが、その先はもう全然頭に入ってこなかった。

「え?俺が悪いの?」という困惑。
「体調悪い社員にわざわざ電話してきて怒鳴るって何?」という怒り。
「マーガリンってそんなに体に悪いの?」という疑問。
「怒鳴る理由しょうもなさすぎん?」というおもしろさ。

この電話がどうやって終わったか、全く記憶がない。
無事に電話を切れたことが信じられない、とすら思う。
湧き上がってくる感情を整理するのに手一杯で、何を言ったか覚えていないからだ。

「朝飯を普段食べていない」と答えるのはNGだ、ということはわかる。
「菓子パン食べています」もセンスがない、ということはわかる。
体調管理ができてない証拠として、社長の逆鱗に触れてもおかしくないだろう。

まさか、「マーガリン」が地雷ワードとは、私としても思いが至らなかった。
至りたかった。

社長の中で、「この電話のどこかでブチ切れる」という未来が最初から確定していたのだ。

私がどんな受け答えをしようと、爆発を避け切るのは不可能。
電話に応じた時点で、私の負けは確定していたのだ。
こうなると、電話を打診してきた事務のお姉さんに恨みを向けたくもなる。

オーナー企業はつらいよ

パワハラ上司の下で働いた経験のある人には、この「地雷を避ける」感覚がわかってもらえると思う。

特に、社長と近い立ち位置で働くと、「何をしたらヤバいか」センサーはかなり鋭敏になる。
私も5年間の経験を経て、「この回答をしたら社長が怒鳴る」という未来が"視える"ようになっていたのだ。

しかし、5年間磨いた私のセンサーをもってしても、「マーガリン」が地雷ワードであることは察知できなかった。
これはもう、私のセンサーが感度不足だったと認めるしかない。
2つ地雷をかわしても、3つ目のワナが待ち受けているのだ。
それぐらい、オーナー企業というのは危険な環境である。

電話を切り、あまりの衝撃を振り返ってひとしきり笑った後、ふと、
「こんな社長と一緒に働き続けてるの、普通に意味わからんな」
と我に返り、転職することを決意した。

いくら仕事を一生懸命にやり、成果を出していても、社長の逆鱗に触れれば怒鳴られる。

何が怒りのスイッチかわからないまま、ボスの顔色をうかがいながら仕事をする。
できなくはないけど、意味がわからないな、という感覚が決定的になった。

転職活動、外の世界を知る

というわけで、転職活動を開始する。

「転職を考えた理由は?」という鉄板の質問に対しては、素直に
「マーガリンなんか食べるなって社長に怒鳴られる会社で・・・」
と話した。

本来は色々と理由を作って伝えるべきだと思うが、今回は話が違う。

この話がウケないはずがない、と確信していたし、この話をして落とされるような会社は相性が合わない、と自信を持っていたからだ。

面接官の皆さんはお気の毒に…という表情をされ、そして
「うちの会社ではそんなことはないので安心してください」
と言ってくださった。

世の中の会社ではマーガリンを摂取して怒られることはなく、そもそもオフィスで怒鳴り声を聞くことなんてない会社も多数あるらしい。

その時にご縁をいただいた会社で、今も働いている。
面接で聞いた通り、オフィスで怒鳴られている人を1回も見ていない。
考えられないほどに、素晴らしく平和な会社だ。

休憩時間にドキドキしながらマーガリンの入ったパンケーキを食べてみたが、
「甘党なんだね〜!」
と声をかけられる程度。

良い方のカルチャーショックを受け、
「外の世界を知るって大事なことなんだな…」
というのを身をもって実感した。

「若いうちの苦労は買ってでもしろ」というが、あれは間違いない。
「新卒で入った会社の社長に、マーガリンを食していたことで怒鳴りつけられる」なんてネタを持っている同僚がいたら、私はそいつに嫉妬し続けると思う。

ちなみに、今でも私は遠慮なくマーガリンを摂取し続けている。
この一件が基でマーガリンを断ってしまったら、あの時の社長に屈したことになってしまうからだ。
それでは、マーガリンメーカー各社に申し訳が立たない。

私は意地でも、マーガリンを食べ続ける。
そして、以前よりも健康に生き続ける。

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