トマトに振り回される私
去年まで、私は畑でトマトを育てていた。
苗を植え付けて、気づけば、花が咲き、実がなり、赤くなっていた。適度にお世話をしていたが、さほど手がかからなかった。だから、トマトは順調に育つものだと思っていた。
しかし、今年は、違う。
畑からプランターで育てることになったのだ。
苗を植えてしばらく経つのに、花が咲かない。
調べてみると、原因らしきものが見つかった。
前作で使った土をそのまま使い、肥料を混ぜるのを忘れていたのだ。
マメ科の後に、トマト(ナス科)を植えると相性がいいと知り、そればかり考えていたら、うっかり土に肥料を入れていなかった。
そのとき思った。
「もう無理かもしれない」
去年の記憶がよみがえった。
トマトの適温は28度前後だという。
気温が上がるにつれて実がうまく育たなくなり、せっかくついた実も、ぼとぼと落ちてしまった。赤く熟す姿を楽しみにしていたのに、それは叶わなかった。
今年も同じようになるのではないか。
そう思うと焦った。
同時に、私はこういうとき、別の方法を探したくなる。
今のトマトは諦めて、水耕栽培で一からやり直した方がいいのではないか。
そんな考えが頭をよぎった。
口では、「失敗も楽しい」とか、「成長する過程も味だ」とか言いながら、本当は早く結果がほしい。
今回も、水耕栽培の成功例をいくつも見ているうちに、「私にもできそう」と思い始めていた。
でも…
水耕栽培を始めたら、また新しいことが増える。
他の野菜もあるのに、初挑戦の水耕栽培まで手がまわるだろうか。物珍しさに惹かれても、結局どれも中途半端になる。そんな未来が容易に想像できた。
早く収穫したい、成功しそうな栽培に惹かれながらも、このトマトを諦めたら、また同じことを繰り返す気がした。
うまくいかないと、別の方法を探す。
目の前の問題と向き合う前に、新しい挑戦に心を奪われる。
それを繰り返していたら、いつまで経っても積み上がらない。
だから私は、今育てているトマトを最後まで見届けようと決めた。
翌日、土に肥料を混ぜた。
トマトに話しかけるようにもなった。
「応援しているね。頑張って」
ふと、自分に言っているような気がした。
すると、あんなに咲かなかった花が咲いた。
それも、下からではなく、三段目に。
ようやくここからだ。
そう思った数日後、一段目に小さな実がついていた。
思わず、声が出た。
「いつ咲いたの?」
毎日見ていたはずなのに、その瞬間を見逃していた。
今度こそ順調かと思ったら、次は花が落ちる。
もう何度目だろう。
今年のトマトは、私の思い通りに育ってくれない。
それでも私は、今日もベランダに出て、トマトをのぞき込む。
去年よりずっと、トマトを見ている。
去年よりずっと、自分のことも見ている。
今年のトマトは、今も私を振り回している。
