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モコと水の冒険

この物語は、
小さな森と、静かに流れる
一本の川から始まります。


その森に、モコは住んでいました。
森の朝はいつも、水の音と
鳥の声で目を覚まします。
川は森の命そのものでした。
水の流れは、森の呼吸のように、
止まることなく、やさしく続いていました。

けれど、ある日。
森の動物たちは気づきました。
川の水がにごり、
流れが細くなっていることに。

この川は、森のみんなの大切な水でした。
飲み水であり、
遊び場であり、
生きるための源でした。

水が減り、汚れていくにつれて、
動物たちは少しずつ
元気をなくしていきました。
声は小さくなり、
足取りは重くなり、
森の朝の音も、どこか
寂しくなっていきました。

「モコ、どうしたらいいの?」

仲間たちはモコに助けを求めました。
モコはしばらく川を見つめ、
ゆっくりとうなずきました。

そして仲間たちといっしょに、
きれいな水を探す旅に出ました。
それは森の中の旅でありながら、
何かを知る旅でもありました。



最初にたどり着いたのは、
静かな池でした。

そこではカエルたちが、
池のそばに土を盛り、
小さな土手を作っていました。
けれど、池には泥水が流れ込んでいます。
水面はくもり、
空の色を写すことができずにいました。

モコはたずねました。

「わたしたちの川が汚れて、
水が少なくなったのは、
あなたたちのせいなの?」

カエルは驚いた顔をして、
しばらく黙り込みました。
そして、小さく首をふりました。

「ちがうよ。
水が少なくなったから、
池が干上がらないようにしているだけさ。
それに、困っているのはぼくたちの方だよ。
きれいな水がないと、
気持ちよく泳げないからね。」

その声は、水の底から
浮かび上がる泡のように、
静かで、少しさみしそうでした。

モコは気づきました。
カエルも、池の生きものたちも、
同じように悩んでいるのだと。

カエルは小さく続けました。

「こうなったのも、山の奥の巨木の森のせいかもしれない。」



次にたどり着いたのは、
深い巨木の森でした。

そこは長いあいだ手入れがされず、
木々が重なり合い、
昼でも夕方のような薄暗さに
包まれていました。

空は見えず、光は細い糸のように
地面に落ちていました。

モコは巨木たちに聞きました。

「川が汚れて、水が足りなくなったのは、
 あなたたちのせいなの?」

巨木は低く、ゆっくりと答えました。
その声は、遠い昔から
届いているようでした。

「わたしたちは、ここに立っているだけだよ。
 ずっと昔から同じだ。
 それに、水が足りずに苦しいのは、
 わたしたちの方だよ。」

モコはまた気づきました。
ここでも、みんな
同じように困っているのだと。

巨木は、風の音のように言いました。

「こうなったのも、森を手入れしなくなった
 村人のせいかもしれない。」




モコたちは、次に村へ向かいました。

村では、太陽の光を集める板、
くるくる回る風車、
川のそばで回る水車がありました。
それらは休むことなく動き、
目には見えない力を
形にしているようでした。

モコはたずねました。

「川が汚れて、水が足りなくなったのは、
 あなたたちのせいなの?」

村人は静かに首をふりました。

「わたしたちは、
森と水を守ろうとしているんだ。
 自然の力を使ってね。
 困っているのは、わたしたちも同じだよ。
 水が足りないと、作物が育たないんだ。」

そして、少し間をおいて言いました。

「でも……
森の動物が増えすぎたのも
原因かもしれない。」


モコは立ち止まりました。
胸の奥で、いくつもの声が混ざり合い、
答えの形にならないまま揺れていました。
どうしたらいいのか、
わからなくなりました。



そのとき、
森の奥から一匹の
年老いたキツネが現れました。
銀色の毛を持つ、
シルバーフォックスでした。

彼はゆっくりと歩き、
静かに言いました。

「やれやれ……困ったことになっていますね。
 みな水で苦しんでいるのに、
 お互いを疑いあっている。」

モコは顔を上げました。

シルバーフォックスは続けました。

「森や水は、だれか一人のものでしょうか。
 必要としている、みんなの
 ものではないでしょうか。」

そして、少し目を閉じて言いました。

「もし、森と水をきれいにする誰かがいたら。
 もし、その豊かさが循環しはじめたら、
 どうなると思いますか。」




モコは答えられませんでした。
シルバーフォックスも、
すぐには言葉を続けませんでした。

川の音だけが、
静かに流れていました。

モコはその場に座り込み、
ぽろぽろと涙をこぼしました。

「どうしても……どうしても、わからないの。
 わたし一人じゃ、どうにもできない……」

シルバーフォックスは
静かにうなずきました。

「わたしも同じだよ、モコ。
 知っていることは沢山あっても、
 思うように動く力は、
 もうほとんど残っていない。」

森はしんと静まり、
川の小さな音だけが聞こえていました。


しばらくして、
シルバーフォックスは、
はっとしたように顔を上げました。

「……そうだ。忘れていた。」

モコは涙でぬれた目をこすりながら
聞きました。

「何を?」

シルバーフォックスは、
ゆっくりと森の外の方を見つめました。

「この旅のはじめから、
 ずっとモコの
 そばにいてくれた人がいる。
 一緒にここまで
 見守ってきてくれた人がいる。」

モコはあたりを見回しました。
森の中には、カエルも、巨木も、
村人もいません。
そこには誰もいないはずでした。

けれど――
このページの向こう側で、
だれかが、そっとこちらを
見つめていました。

シルバーフォックスは、
やさしく問いかけました。

「大きなことじゃなくていい、
 今日できること。
 水を大切に使うこと。
 自然を汚さないこと。
 森や川に、ありがとうと思うこと。
 自分にできる、ほんの少しでいいのだよ。」

モコは顔を上げ、
このページの向こうへ向かって
小さく微笑みました。

「お願い。」

「この森を守る力は、
わたしたちだけでは足りないの。」

「だから……
あなたにも、
仲間になってほしいの。」

「水を大切に思うこと。
落ちているゴミを一つ拾うこと。
木や花を大切にすること。

なんでもいいの。
ほんの小さなことからでいい。
その一歩が、
きっと森へ届くから。」

モコは、そっと手を差し出しました。

「一緒に、
みんなの水を守ってくれるかな」




そして――
あなたがページを閉じても、
森の水は今日も、
音を立てながら流れ続けています。 

この物語の続きを書くことができるのは、
モコではなく――
あなたかもしれません。


謝辞

Karen Jee Art 様

モコのオリジナルキャラクターの
デザインをご制作いただき、
心より感謝申し上げます。

Instagram
@karenjeeart



ウォーターエイドジャパン 様

本作品は、水の大切さや自然との
共生について考えるきっかけとして、
ウォーターエイドジャパンの活動から
多くの学びと着想をいただきました。

この物語の公開をご快諾いただき、
心より感謝申し上げます。

kimidiori.ex


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