夢ファイル #003『もうひとつの扉』
夢ファイル #003『もうひとつの扉』
📁 記録者:貴美子
📅 日付:20XX年XX月XX日
📍 ファイルステータス:解決済み
「ねぇ、あなたの家には“扉”がいくつある?」
玄関、トイレ、リビング、寝室、クローゼット……。
数えてみると、意外と多いものよね。
でも、もしも──
「そんな扉、なかったはずなのに」と思うものがひとつ、増えていたら?
それは誰が、何のために作った扉なのかしら?
そして、それを開けたら、一体どこへ繋がっているのかしら……?
今夜の夢ファイルは、“解決された奇妙な事件”のお話よ。
ゆっくり、ページをめくりましょう──。
消えたルームメイトと、見慣れない扉
🏢 都内の古びたシェアハウス。
主人公:佐々木翔太(26)、会社員。
大学時代の友人・岡田と二人暮らしをしていた。
築年数の古い物件だったが、都心の好立地にしては破格の家賃。
「多少の不便には目を瞑ろう」と、翔太たちはそこに住んでいた。
しかし、ある夜。
仕事から帰宅すると、ルームメイトの岡田がいなかった。
「……また飲み会か?」
それならよかったが、何かがおかしい。

📦 岡田の荷物が、すべて消えていた。
📅 スマホのメッセージ履歴も、通話記録も消えている。
🪪 運転免許証の写真にも、岡田の姿がない。
まるで、岡田という存在が“最初からなかったこと”になっているかのように。
「……気味が悪いな。」
翔太は頭を振り、部屋を見回した。
すると、リビングの壁の隅に、見慣れない扉があった。
「こんな扉、あったか……?」
開かれた世界と、もうひとつの部屋
🚪 翔太は扉の前に立ち、手をかけた。
ゆっくりと開くと、そこには──
全く同じ部屋が広がっていた。
家具、壁紙、天井のシミ。
すべてが翔太のいる部屋と“完璧に”一致している。
「……岡田?」
反応はない。
しかし、何かが違う。

🌫️ 空気が異様に澄んでいて、妙に静かすぎる。
🕰️ 壁の時計は止まっていて、秒針すら動いていない。
🔦 照明のスイッチを押しても、電気はつかない。
「なんだよ……ここ。」
背筋に冷たいものが走る。
直感が「戻れ」と告げている。
しかし、その時、背後の扉が静かに閉じた。
── カチリ。
「ここは“未確定の世界”だ」
翔太は扉を振り向いた。
そこには、もうひとりの“自分”が立っていた。

🪞 それは、翔太と全く同じ顔をしていた。
「……お前は誰だ?」
「俺は“君にならなかった存在”だよ。」
「……は?」
「ここはね、君が“まだ選ばなかった世界”なんだ。」
翔太は理解できなかった。
「この世界では、まだ“君”が存在していなかった。
でも今、お前がここに来たことで、君の存在は確定された。」
翔太は扉に手をかけた。
しかし、開かなかった。
「まだ帰れないよ。君はまだ“どの翔太になるか”を決めてないから。」
本物の証明
翔太は手元にあったスマホを取り出し、自撮りモードにした。
🪞 画面には、背後の“もうひとりの翔太”が映っていた。

「……本物はどっちなんだ?」
「お前は本当に、元の翔太なのか?」
「……そんなの、俺が証明する必要ないだろ!」
「でも、証明できないだろ?」
翔太は息を呑んだ。
何が“本物”なのか、わからなくなっていた。
「証明できないなら……」
次の瞬間、“もうひとりの翔太”がスマホを奪い取った。
「お前が偽物ってことだよな?」
翔太は反射的にスマホを奪い返そうとしたが──
その瞬間、扉が開いた。
強烈な光が溢れ、翔太の意識が途切れた。
エピローグ:スマホの自撮りカメラ
翌朝。
翔太は必死で扉を開け、元の部屋へ戻る。
気づけば、リビングの見慣れたソファに座っていた。
「……夢だったのか?」
彼は胸を撫で下ろし、息を整える。
リビングの時計を見る。
🕰️ 針は正常に動いていた。
安堵しながら、スマホを手に取る。
メッセージアプリを開くと──
📲 「岡田(ブロック済み)」
「……え?」
彼は記憶を手繰る。
岡田をブロックした記憶なんてない。
そもそも、岡田と喧嘩したことすらないのに──
翔太は背筋が冷たくなった。
「……もしかして、本当に岡田はいなかった……?」
いや、そんなはずはない。
一緒に住んでいた記憶は、確かにある。
大学時代の写真も、旅行の思い出も──
翔太はスマホのフォトアルバムを開いた。
📸 ──岡田の写真が、すべて消えていた。
消えた痕跡と、残された“違和感”
「嘘だろ……?」
翔太は慌てて、クローゼットを開けた。
岡田の荷物は、やはりどこにもない。
クローゼットの奥の隙間に手を突っ込んでみる。
── 何もない。
翔太は額に冷たい汗が滲むのを感じた。
記憶の中では、ここに岡田の古いジャケットがあったはずだ。
「……まさか。」
彼は玄関へ向かい、靴箱を開けた。
岡田のスニーカーは……ない。
すべてが、最初から存在しなかったかのように。
翔太は喉を鳴らし、リビングへ戻った。
何かがおかしい──そう感じるのに、それを証明する術がない。
彼はゆっくりとスマホを手に取った。
確認するのが怖かったが、気になって仕方がなかった。
震える指でカメラアプリを開き、自撮りモードに切り替える。
すると、画面に映ったのは──
👤 “もうひとりの翔太”が後ろに立っていた。
変わり果てた世界
「──おかえり。」
ゾクリとするほど優しい声。
翔太は息を呑み、後ろを振り向いた。
── 誰もいない。
だが、再びスマホを見つめると、画面の中には確かに“もうひとりの翔太”が立っていた。
「な、なんだよ、これ……!」
彼はスマホを床に投げ捨てた。
だが、画面の向こうの“自分”は、じっとこちらを見つめ続けている。
「ここは、お前が選んだ世界だろう?」
画面の中の“翔太”が微笑む。
「お前は確かに選んだんだ。
“元の世界に戻る”ってな。」
「……なんで、お前がそれを知ってる?」
「だって、俺は“お前にならなかった翔太”だからさ。」
翔太の血の気が引いた。
「どういうことだ……?」
「気づいてないのか?」
画面の向こうの“翔太”は静かに笑った。
「この世界は……本当に“お前の元の世界”か?」
永遠に開かれた扉
翔太はスマホを拾い上げた。
画面の中の“もうひとりの翔太”は、ゆっくりと背後を指さした。
その先には──
🚪 見慣れない扉があった。
「──嘘だろ……?」
翔太は震える手で、その扉のノブに触れた。
冷たい金属の感触が指先に伝わる。
「元の世界に戻ったんじゃ……ないのか?」
恐る恐る、ノブを回す。
ギィィ……と軋む音を立て、扉はゆっくりと開いた。
── その先には、もうひとつのリビングがあった。
翔太の脳内で、何かが軋む音がした。
「まだ“選択”は終わってないんだよ。」

スマホの中の“翔太”が微笑んだ。
「お前は、どこまでいっても“正解”には辿り着けない。」
あなたがいる世界、本当に“あなたが選んだ世界”かしら?
……あら? あなたの部屋の扉、さっきより少し形が違ってない?
次の夢ファイルでお会いしましょう。どうぞ、良い夢を──。
