夢ファイル #004『誰もいない交差点』
夢ファイル #004誰もいない交差点
📁 記録者:貴美子
📅 日付:20XX年XX月XX日
📍 ファイルステータス:未解決
「ねぇ、あなたの街には、いつも人がいるかしら?」
朝の通勤ラッシュ、昼のにぎわい、夜のネオン街。
どんな街でも、どこかしらに必ず“誰か”がいるはずよね。
でも、もしも。
気づいたら、世界から“誰も”いなくなっていたら?
あなたは、何を疑うかしら。
時計が壊れた?
電波の異常?
それとも、あなたが……。
さて、今夜の夢ファイルを開いてみましょう。
“消えた街”に迷い込んだ男の話よ──。
人が消えた交差点
🌆 主人公:森崎圭吾(32)、会社員。
彼は普通の男だった。
毎朝6時に起きて、スーツに着替え、7時の電車に乗る。
仕事を終えて帰宅し、22時にはベッドに入る。
それは今日も変わらないはずだった。
だが──違和感は、ほんの小さなズレから始まった。
5月某日 午前7時30分
彼はいつものように通勤電車に乗っていた。
スマホでニュースを流し見しながら、ドアの前で立つ。
窓の外には、いつもの景色が流れていた。
🚉 通い慣れた駅のホーム。
👥 急ぎ足のサラリーマン、眠そうな学生たち。
🚇 いつも通りの、朝の風景。
──の、はずだった。
ふと気づく。
「……少し、静かすぎる?」
いつもなら、乗客の会話や、駅のアナウンスが流れているはずだった。
けれど、今は妙に静かだった。
ガタンゴトン、ガタンゴトン──
車内に響くのは、電車の走る音だけ。
「……寝ぼけてるのか?」
圭吾は首を振り、車内を見渡した。
そこにいたのは──
乗客が、10人もいなかった。

異変の始まり
圭吾は眉をひそめた。
この時間帯の電車が、ガラガラなはずがない。
いつもなら、ぎゅうぎゅう詰めのはずだ。
「事故でもあったのか?」
スマホでニュースを確認しようとした。
だが。
📶 ──圏外。
「え?」
地下鉄でもないのに、電波がない。
不審に思いながらも、電車は目的の駅に到着した。
🚉 『新御茶ノ水駅』
電車が停止し、ドアが開く。
圭吾は降りようとした。
だが、その瞬間、妙な違和感が背筋を走った。
🚇 駅のホームに、誰もいない。

「え……?」
朝7時半。
通勤ラッシュの時間帯。
本来なら、駅のホームは人で溢れかえっているはずだ。
だが。
誰もいない。
構内アナウンスも流れない。
改札の向こうも、人気がない。
「……何かのトラブルか?」
そう思いながら、改札を出た。
🚶♂️ 外に出る。
──そして。

🌆 世界から、人が消えていた。
無人の街
圭吾は、目の前の光景を理解できなかった。
🚥 赤信号で止まるはずの車が、一台もない。
🏢 オフィス街の窓に、人影が見えない。
🏪 コンビニの明かりはついているが、中に誰もいない。
「……どういうことだ?」
スマホを確認する。
📶 電波は圏外のまま。
📅 日付は、間違っていない。
「まさか、夢か?」
自分の頬を叩いた。
痛みが、ある。
夢じゃない。
だが──
「こんなの、おかしいだろ……。」
誰もいない交差点に立ち尽くしながら、圭吾は息を呑んだ。
🚦 信号が青に変わる。
歩き出そうとした、その時。
── 圭吾のスマホが震えた。
📲 『通知:新着メッセージ(1)』
圭吾は、画面を見た。
そこには。
『キミハ、ダレ?』

──その一文が、表示されていた。
📲 スマホの画面に、それだけが表示されていた。
圭吾は心臓を掴まれたような気がした。
この世界には、誰もいないはずだった。
でも、誰かが──
自分を認識している。
『キミハ、ダレ?』
ふざけた悪戯か?
けれど、メッセージアプリには送信者の名前がない。
既存の連絡先でもない。
新規登録された番号でもない。
まるで、“世界そのもの”から送られたメッセージのようだった。
「……誰が、送った?」
圭吾は震える指で、返信を打った。
『お前こそ誰だ?』
──送信。
📲 『オマエハ、ココノ ジンブツ?』
圭吾の息が止まった。
「……ココノ、ジンブツ?」
どういう意味だ?
圭吾は周囲を見回した。
変わらず、世界には誰もいない。
ビルの窓も、車道も、すべてが静まり返っている。
時間が止まっているような錯覚すらする。
だが、スマホの時計は動いている。
午前8時03分。
「……こんな異常事態なのに、時間は進んでる……?」
圭吾は、スマホのメッセージをもう一度見た。
📲 『キミハ、ドノ セカイ?』
──圭吾は、背筋が凍った。
消えた世界と、消えかける自分
📲 『オマエハ、ココノ セカイノ ジンブツ?』
この世界の、人物?
圭吾は急に、不安になった。
「……自分が、この世界の“住人”かどうか?」
それは、考えたこともない問いだった。
圭吾は確かに、生まれてからずっとこの世界で生きてきた。
でも、それを証明する方法は?
自分がこの世界に“いた証拠”は?
圭吾は慌てて、自分の免許証を取り出した。
🪪 【運転免許証】
森崎圭吾(32)
発行日:20XX年4月
──だが、妙な違和感があった。
「……写真が、少し違う?」
細かな顔の造りは同じ。
でも、表情が違う気がする。
いや、それだけじゃない。
「……この名前、俺の名前……だったよな?」
圭吾は突然、自分の名前が不確かになった。
自分は、本当に“森崎圭吾”なのか?
そう疑った瞬間、スマホが再び震えた。
📲 『オマエハ、ソノ セカイニ トッテ イラナイ?』
自分の存在が消える
「……俺が、いらない?」
圭吾は、焦燥感に駆られた。
このままでは、何かが取り返しのつかないことになる気がする。
だが、その時だった。
自分の手が、少しだけ透けた。
「え……?」
指先が、わずかに薄くなっている。
スマホを持つ手が、徐々に透明になっていく。
「待て、待て、待て!!」
圭吾は叫び、必死に手を振った。
けれど、透明度は増していく。

まるで──
自分の存在そのものが、“消去”されようとしているように。
世界が選ぶもの、選ばれなかったもの
📲 『キミハ、コノセカイニ、トッテ イラン』
スマホのメッセージが、決定的な一文を告げた。
「待て……! 俺は、いる……! ここに、いるだろ!?」
圭吾は必死で叫ぶ。
けれど、その声が誰に届くわけでもない。
目の前の世界は、冷たく沈黙していた。
──そう。
この世界に、圭吾の名前はない。
圭吾の存在は、記録されていない。
だから。
世界は、圭吾を“消去”する。
📲 『サヨウナラ』
メッセージが表示された瞬間。
圭吾の体は、完全に消えた。
エピローグ:消えた人間
📅 翌日──
とある会社のオフィス。
💼 「森崎圭吾、どうした? 無断欠勤か?」
部長が、席の空いたデスクを見て眉をひそめた。
👩 「えっ……森崎さんって、誰ですか?」
「……は?」
部長は、部下の女性を見た。
👨💼 「お前、何言ってんだ? 昨日まで、ここにいたろ?」
👩💼 「そんな人、うちの部署にいませんけど……?」

部長は顔をしかめ、パソコンを開いた。
社内の社員名簿を検索する。
──森崎圭吾、該当なし。
「……嘘だろ?」
スマホを取り出し、メッセージ履歴を見た。
そこにあるはずの「森崎圭吾」の連絡先が……ない。
まるで、最初から存在していなかったかのように。
「……なあ、本当に知らないのか?」
部長は、部下を見た。
彼女は不思議そうに首をかしげ、こう答えた。
「森崎さんなんて、最初からいませんでしたよ?」
ねぇ、あなたがいる世界、本当に“あなたが選ばれた世界”かしら?
それとも、誰かに気づかれなかったから、まだ“消えていない”だけなのかしら?
次の夢ファイルでお会いしましょう。どうぞ、良い夢を──。
