子どもが大喜びだった完熟イチゴ:7品種を育て、それぞれの個性に感動した話
イチゴの食味は、品種だけでなく、個体、環境、天候、肥料、生産者などの複合的要因で変化します。本記事で見られた現象は、「きみこ山」という特定の、限られた条件下における一事例に過ぎず、正解/不正解の1つを提示するものでも、科学的根拠や再現性、イチゴ栽培における普遍的法則や品種の優劣を保証するものでもありません。本記事はあくまで、瀬戸内の山で生きる私個人が、イチゴ7品種を育てる中で体験したことを綴った「手記」であり、家庭菜園における極めて個人的な「体現」の一環として執筆しているものでもあります。これらの趣旨をご理解いただいた上で、お読み頂けますと幸いです。
瀬戸内の山で、子どもたちが喜ぶ野菜を作りたい
私は現在、瀬戸内の山で家庭菜園を営んでいます。元々は理系の「みなし公務員」として働いていましたが、過労やストレス、人間関係、そして育児との両立困難などが重なり、鬱病と肝機能障害を患いました。それをきっかけに生き方を見つめ直し、自然との調和を目指してこの地へ移住したのです。目下、「自然栽培で食糧を自給する」が理想ではありますが、まだその旅は始まったばかりで理想とは程遠い状況ですが、プランターや鉢、市販の土なども利用しながら、一歩一歩自然に寄せていくリハビリを進めています。
2025年10月に移住した当初、家庭菜園で何を栽培しようか激しく悩んでいました。ただでさえ「退職・現金収入なし」という、家族を路頭に迷わせかねないリスクのある選択をしています。せめてもの罪滅ぼしに、「どうせやるなら、子どもたちが心から喜ぶ野菜を栽培したい」。その一心で、私はイチゴに着目しました。数年前からブルーベリーやミニトマトを育ててきた実践経験から、赤く甘く熟すイチゴなら、間違いなく子どもたちが喜んでくれるだろうと思ったのです。
移住した秋は、ちょうどイチゴの苗の植え付けシーズンでもありました。子どもたちに食べさせるものだから、「できれば、農薬や肥料を使わずに自然栽培で育てたい」と思いましたが、当時は農薬不使用苗を入手する伝手(つて)がなかったので、ホームセンター苗から始めることにしました。ネット通販で購入するという手段もありましたが、私はやはり現物をじっくり見て、クラウン(株元)の状態が良い健康な苗を選びたかったのです。

寒さ対策として、藁マルチをしている。
往年の名品種「宝交早生」を育てたい…けれど
ホームセンターへ行く前に、私はイチゴの品種ごとの自然栽培適性を調べることにしました。固定種や在来種のような伝統品種がないか、Google Geminiに尋ねてみました。そこで提案されたのが、「宝交早生(ほうこうわせ)」と「ワイルドストロベリー」でした。宝交早生は1960年に兵庫県で開発された古い品種で、病気に強く、露地栽培(屋外での栽培)に比較的適していると言われています。実際、ホームセンターで当該品種の苗が販売されているのも何度か見たことがあったため、店頭に行けば確実に出会えるだろうと思っていました。
しかし、巡り合わせとは不思議なものです。 いざ店舗を回ってみると、何故か宝交早生だけが売り切れていたり、在庫があってもランナーが四方八方に伸びきった元気のない苗しか残っていなかったり、状態の割にびっくりするほど高価だったりして、なかなか「これだ!」と思える理想の苗に出会えなかったのです。
そこで少し方針を転換しました。宝交早生に拘りすぎず、まずは色々な品種を育てて味の違いを楽しもうと思ったのです。まず、店頭でクラウンの状態が良かった「さちのか」、「とちおとめ」、「さがほのか」の3品種を購入してスタートし、その後、「とよのか」、「女峰」、「エンジェルエイト」を追加して、そして最後に、念願だった状態の良い「宝交早生」を入手しました。これで、計7品種による、我が家のイチゴ栽培が幕を開けました。

練乳のような甘さと風味が特徴だ。
土は弱酸性?弱アルカリ性?結局どっちか分からず、2グループに分けて栽培した
苗が決まれば、次は土作りです。市販の「イチゴの土」を買えば簡単ですが、我が家(通称:きみこ山)では、赤玉土・腐葉土・くん炭・乳酸菌竹粉をブレンドした「オリジナル土」で様々な野菜を育てていたため、これをベースにしたいと考えました。
市販のイチゴの土は、木質堆肥やココナッツファイバー、赤玉土にフルボ酸や乳酸菌を配合していることが多いので、保水性と通気性に富む赤玉土と腐葉土をベースに、有用微生物を活性化させる資材を混ぜた我が家の土でも、直感的に大丈夫だろうと思ったのですが、念のため、Geminiに「赤玉土5:腐葉土3:くん炭1:乳酸菌竹粉1」のいつもの土で良いか確認してみました。すると、こんな回答がありました。
「とても良いバランスです。ただ、イチゴは弱酸性の土を好むため、土壌をアルカリ性に傾けるリスクのある『くん炭』は控えめにし、代わりに『ピートモス』を追加すると良いでしょう」
なるほど、弱酸性。一方で、家庭菜園でイチゴの露地栽培の先輩である私の義姉は「土はアルカリ性気味にしてる」と言い、苦土石灰を元肥(もとごえ)として入れているようでした。弱酸性か、それとも弱アルカリ性か、気になって市立図書館などで文献を漁ってみましたが、専門書によっても「弱酸性推奨」と「苦土石灰を入れた中性ないし弱アルカリ性推奨」の双方が存在し、結論が出ません。そこで私は、苗が多数入手できた宝交早生で、2つのグループに分けて試してみることにしました。
なお、2つのグループで使用したそれぞれの土は、実際のpHは測っておらず、酸性寄り、アルカリ性寄り、というのは、あくまで使用している資材の特性に基づく推測でしかありません。
鉢植えグループA(いつもの土):赤玉土5、腐葉土3、くん炭1、乳酸菌竹粉1の比率の土
鉢植えグループB(Geminiのアドバイスを取り入れた土):赤玉土5、腐葉土3、ピートモス1、乳酸菌竹粉1、くん炭ごく微量、の比率の土
宝交早生以外の品種については、安全策として、Geminiのアドバイスを取り入れた土に植えました。プランターには主に素焼き鉢を用い、一部フィオーレポットやストロベリーポットも使用しました。

Geminiのアドバイスを取り入れた土でたわわに実っている。

結実数は少なかったが、1粒1粒の果実味が深かった。
ちょっとした後悔:いつもの土の方が成長が良かった
2つのグループに分けた「宝交早生」の成長は、明らかにいつもの土(きみこ山オリジナル)の方が良かったです。一方で、ピートモスを加えた(弱酸性を意識した)土の株は、葉が部分的に紅葉し、全体的にサイズも小さくなってしまいました。自分の作った土を信じきれなかったことを、この時激しく後悔しました。葉の紅葉や成長不良の原因が、本当にpHによるものなのか、あるいは水はけや別の要因なのかは分かりません。ただ、他の6品種は、Geminiのアドバイスを取り入れた土で、大きな不具合こそ出なかったものの、きみこ山オリジナル土の宝交早生ほどの爆発的な勢いはなく、全体的に結実数は少なめの傾向にありました。これは、Geminiの提案が間違っていたというよりも、我が家の環境(アベマキの排水層や瀬戸内の気候)には、いつもの土のほうが馴染みやすいのかもしれません。
もちろん、どの品種も実ったイチゴは甘く完熟し、美味しく食べれたので、結果的には「めでたし、めでたし」だったのですが、「すべての苗を、最初からきみこ山オリジナルの土に植えていたら、もっと沢山食べることができたのだろうか?」という悔いや疑問が残りました。結実数や、植物体バイオマスなど、数値データを計測しておらず、pHやECなども測定していない以上、今回の試みは「科学的な比較実験」とは決して言えませんが、その土地の気候や、自分がこれまで信じてきた土に対する感覚を重んじることの大切さを、イチゴたちが教えてくれたような気がしました。


越冬、開花、そして結実
春、イチゴの苗たちは、たわわに実をつけました。正確な記録は取っていませんが、特に、きみこ山オリジナルの土に植え付けた「宝交早生」は1苗あたり最低10個は実をつけ、全体的に実も大きかったです。Geminiのアドバイスを取り入れた土に植えた品種でも、「さちのか」や「さがほのか」が1苗あたり5個程度とやや伸び悩む中、「とちおとめ」に関しては、1苗あたり最低10個は実をつけ、全体的に実も大きく仕上がりました。「さがほのか」は、結実数は少なかったものの、1粒1粒が大きく仕上がりました。ストロベリーポットに植え付けた「エンジェルエイト」、「とよのか」、「女峰」は、スペースの狭さの関係で、1苗あたり5個程度で、粒も小さかったです。
何故、このような結果になったのかについても、土壌のpHも測っていないため、正直なところ、分かりません。植物の成長や環境応答は、気象条件や土地、土壌条件などの影響で変化するため、これはあくまで、きみこ山における偶然を含んだ一つの事例にすぎないと考えています。

宝交早生の甘さに深く感動した:どの品種も甘く美味しかった
7品種を実際に栽培してみて、食べてみて、どの品種も個性があり、甘くて美味しかったです。中でも、特に「甘味が深い」と感じたのは、実は最もクラシックな「宝交早生」でした。これは私の中では驚きで、甘さだけなら新しい品種の方が上だろう、と思い込んでいたのです。私は「宝交早生」の深い甘味に感動するとともに、愚かな思い込みをしていたことを深く反省しました。「宝交早生」は子どもたちからも大人気で、たわわに実った赤い実は、あっという間に無くなってしまいました。
今回、品種ごとの個性も強く感じました。「宝交早生」は、深い甘味、「さちのか」は、酸味も含んだ強く濃厚な果実味、「さがほのか」は、ショートケーキを思わせるデザート感、「とちおとめ」はこれぞ王道のイチゴの味、「エンジェルエイト」は、練乳をかけずともそれ単体で練乳を思わせる高級感ある風味と甘味、「とよのか」は、宝交早生に近い甘く瑞々しい食味、「女峰」は、しっかりとした酸味。自分で栽培したからこそ、それぞれの品種が持つ魅力に触れることができたと実感しています。
繰り返しますが、植物の成長や環境応答は、気象条件や土地、土壌条件などの影響で変化するため、これはあくまで、きみこ山ではこうした味の違いや個性の違いになった、あるいは、私自身はそう感じた、という一つの事例にすぎないことを強調させていただきます。
おわりに
私は元々、7品種の比較を記事やSNS発信するつもりがありませんでした。単に家族で美味しいイチゴを食べたかったのです。だから、記事にするための全品種の比較写真も、綺麗な断面写真もありません。実ったそばから、子供たちが「これ、めちゃくちゃ甘い!」と競って食べてしまい、私のカメラは彼らの食欲に追いつけなかったのです。
きみこ山では、普段発信する記事は、原則有料というアカウントルールを設けています。
これは、「本気で記事を読みたい人、知の探求を一緒に楽しんでくれる人にだけ届けるための実質的な鍵垢化の措置」として実施しています。しかし今回、私はその鍵を外して、無料公開することにしました。イチゴ7品種を栽培し、体験した味の違いを、論文検索等で科学的に裏付けることを辞めたためです。私は、イチゴの品種間の違いを、「固定種かどうか?」や「露地で栽培できるか?」については事前に調べましたが、「どの品種が甘いか?」については、調べなかったのです。これは、意図的に調べなかったのではなく、単に日々の忙しさの中で、調べる余裕が無かっただけなのですが、逆に、先入観なくイチゴ7品種の個性を敏感に感じ取れたという実感がありました。なので、このままその科学的根拠に触れない方がかえって幸せかもしれないな、と思ったのです。
こうした経緯もあり、駆け込みに近い形ですが、急遽、この記事を「#創作大賞2026」のコンテスト記事にすることにしました。イベント開催に際して、ご尽力されたすべての方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。
最後になりますが、今回、何故、きみこ山オリジナルの「いつもの土」と、Geminiのアドバイスを取り入れた土でイチゴの成長の差が見られたのかについて、土壌のpHを調べておらず、今後の課題として残りました。こうした課題にも取り組みながら、イチゴ栽培を通じて体験したことを、また「いつものクローズドな形」で綴っていこうと思います。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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