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精神科看護師は患者さんの"嘘"ではなく苦しさを見ています

「患者さんは嘘をついている」
働き始めた頃の私は、そう思ってしまうことがありました。でも精神科で働くうちに、その考えは大きく変わりました。精神科では、患者さんから本当にたくさんの訴えをお聞きします。「あれを取ってほしい」という日常的なものから、「相談に乗ってほしい」という心のうちを打ち明けるようなものまで、その内容は実に多岐にわたります。なかには幻聴の影響で、「天皇陛下に来いと言われたので行ってきてもいいですか」といった、一般科ではまず耳にすることのないような訴えをいただくこともあり、それもまた精神科という現場ならではの日常なのです。

そんなある日のことです。体調を確認していると、一人の患者さんが「耳が聞こえなくなった」と訴えられました。耳元で大きな声で話しかけても、首をかしげて「聞こえません」とおっしゃいます。これは見過ごせないと思い、すぐに主治医に報告し、診察をしてもらいました。診察の最中も「聞き取れない」と訴えは変わらず、精神科の領域では判断が難しいということで、耳鼻科を受診していただくことになりました。数日後、母親と一緒に受診へ向かわれ、数時間後に病棟へ戻られました。受診先からの情報書――診察結果が記された返書――も、しっかりと持ち帰っていらっしゃいました。その書類をお預かりし、すぐに主治医に確認していただいたところ、結果は「異常なし」。耳の機能としては聞こえているはずだとのことでした。そのことはご本人にもすぐにお伝えしましたが、それでも「聞こえません」という訴えは変わりませんでした。
そしてその翌日、作業療法でカラオケが行われました。歌が好きなその患者さんも、その場にいらっしゃいました。しばらく様子を見ていると、ご自身でリクエストをして歌い始められたのです。しかも、間奏のタイミングもずれることなく、きちんと歌に合わせていました。やはり、聞こえているのです。そのことがはっきりとわかりました。では、なぜ「聞こえない」と訴えていたのでしょうか。それは、その患者さんの心からの訴えだったのだと思います。長く入院し、面会もほとんどない環境の中で、「自分に気を向けてほしい」「自分に気づいてほしい」という思いを、その方なりの方法で表現していたのです。治療の場において、嘘をつかれることは、正しい治療の妨げになりかねない問題行動の一つです。けれど、心の病を抱えたその患者さんは、深い寂しさを抱えて苦しんでいました。

精神科の現場では、こうした場面で強く注意をすることはあまりありません。もちろん、命に直結するような場合は別ですが、そうでなければ、その方の内なる心に寄り添う看護こそが、何より大切だと私は考えています。この患者さんも、その後スタッフ全員がより多く関わりを持つようになったことで、「聞こえない」という訴えは自然と消えていきました。
嘘を正すことよりも、なぜ嘘をつくに至ったのか――精神科で働き始めたばかりの前の私なら、「嘘をつく患者さん」だと思うだけで終わっていました。でも今は違います。私が向き合っているのは「嘘」ではなく、その奥にある苦しさです。それを知ることこそが、私たち精神科看護師の役割なのだと思います。

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