精神科医療・福祉の現場〜「治療」と「管理」の境界で、私たちは何を見ているのか〜
日本では、精神疾患を抱える人の数は年々増え続けています。厚生労働省の統計では、精神疾患の患者数は約600万人以上。ここ20年でほぼ倍増しています。
うつ病、不安障害、双極性障害、統合失調症、認知症…。
診断名は違っても、「精神科にかかる人」は確実に増えています。
日本の精神科病床数は世界トップクラスです。
世界的に見て日本の精神科医療は、ある点で極めて特殊です。それが「病床数」と「在院日数」です。
日本の精神科病床数は約33万床。これはOECD諸国の中で圧倒的に最多です。
アメリカ:約9万床
イギリス:約3万床
ドイツ:約5万床
人口比で見ても、日本は突出しています。
世界の精神医療は「入院から地域ケアへ」「病院から社会生活へ」という流れが主流ですが、日本は今も“病院に長く入れておく構造”が残ったままです。
さらに特徴的なのが在院日数。
日本の精神科平均在院日数は約260日(8〜9ヶ月)。
OECD平均は約30〜40日。
つまり日本は、世界の6〜8倍の長さで入院しています。
中には
・数年単位
・10年以上
・退院先がなく高齢のまま病院で最期を迎える
というケースも珍しくありません。
精神科入院には法律で定められた形があります。
・任意入院:本人の同意
・医療保護入院:本人の同意なし、家族+医師の判断
・措置入院:自傷他害の恐れ、知事命令
・応急入院・緊急措置入院:緊急時72時間まで
現場で最も多いのは医療保護入院。
本人は「帰りたい」と言っても、家族と医師の判断で入院が継続される構造です。
なぜ日本はこんなに入院が多いのでしょうか?
精神科医療は本来、
・回復、
・社会復帰・生活の再構築
を目指す医療のはずです。
しかし現実には、
・社会からあふれた人を預かる場所
・家族が抱えきれない人を引き受ける場所
・孤立・貧困・高齢の受け皿
として機能している側面が強い。
治療と同時に、社会の歪みを病院が引き受けている構造です。
「精神科患者」という言葉から、何を想像しますか?
危ない人。 話が通じない人。 怒りっぽい人。 怖い人。
そんなイメージを持つ人も少なくないかもしれません。
でも実際に関わってみると、症状が強く出ていない時の多くの人は、普段の私たちとほとんど変わりません。
少し敏感だったり、強いこだわりがあったり、感情の揺れが大きかったり。それくらいの違いで、むしろ優しくて、真面目で、誠実な人が多い、という印象を私は持っています。
アルコール依存や薬物依存の人も、精神科の重要な対象です。
禁断症状が強く出ている時には、興奮、暴力、錯乱、幻覚が出ることもあり、一時的に押さえる、鎮静薬を使う、監視室に入るといった対応が必要になることもあります。
でも関わっていくと、根は優しく、正義感が強く、むしろ人一倍繊細で、傷つきやすい人が多い。
自分を守るために、お酒や薬に逃げるしかなかった、という背景を持つ人も少なくありません。
精神疾患の背景には、
いじめ、パワハラ、嫌がらせ、無視、人格否定など、「自分の感情的欲求を満たすために人を傷つける行為」が深く関係しているケースも少なくありません。
誰かの言葉、態度、支配、攻撃が、相手の心を静かに壊し、そのまま精神疾患へとつながってしまう。
ここには、善悪では割り切れない現実があります。
最近では、子どもたちが実際にいじめられている動画や、大人同士のいじめ、暴力的な口論や喧嘩の様子が、SNS上でも日常的に目に入るようになってきました。
被害者救済は、もちろん最優先です。
しかし同時に、加害者側もまた、何らかの精神的問題や未処理の感情を抱えているケースが多く、どちらか一方だけを切り取っても、問題の本質にはたどり着けません。
精神医療、メンタルヘルスケアが必要になる背景には、「個人の弱さ」だけではなく、こうした人間関係の中で繰り返される支配・攻撃・否定の連鎖が、確実に存在しています。
お釈迦さまの教えに「因果応報」があります。
罰の話ではなく、自分の行いや在り方が巡り巡って自分の世界をつくっていくという考え方です。
誰かを支配しなかったか。
誰かを見下さなかったか。
自分の不安や怒りを他人にぶつけていなかったか。
精神科の現場にいると、「病気」だけでなく、人間関係の中で積み重なった因果の結果をそのまま引き受けているように感じることがあります。
精神科は「社会構造の影響が最も集まる場所」です。
精神科領域も制度は整っています。
・精神障害者手帳
・医療費助成
・交通機関の割引
・福祉サービス
でも現場にいると、精神科は「病気を治す場所」であると同時に、社会の中で支えきれなくなった人たちが最後に集まる場所でもあると感じます。
孤立。 貧困。 家族関係。 働き方。 生きづらさ。
それらが限界まで積み重なった結果として「症状」が出てくる。
制度はある。 病床も多い。 医療資源も投入されている。
それでも精神疾患は減らない。
つまり問題は、個人の脳や性格だけではなく、社会構造そのものにあるのではないか。
精神科は、個人の病気を治している場所であると同時に、社会が生み出した構造的な歪みを静かに引き受け続けている場所なのかもしれません。
🍀最後まで読んでいただき、ありがとうございました。また明日。
❇︎🌙このnoteについて 🌙❇︎
産婦人科領域に限らず、身体と心、健康情報、自然療法、医療の話から、政治や経済、社会や環境のことまで、日常と命につながるテーマを幅広く扱っています。不安を減らし、自分の感覚に戻るヒントになればと思って投稿しています。
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今後、もう少し深いテーマについても、別の形でまとめていく予定です。
