物語「死にたい魚Ⅱ」
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魚は死にたかった。
父はサメに食われ、母は人間に連れていかれてしまった。
だけれどそれが死にたい理由ではなかった。
泳いでも泳いでもどこへ辿り着くわけでもない、この魚という生き方に希望を見いだせないでいることが死にたい魚の心に大きな穴を空けたのだった。
でもその大きな穴を埋めるものがあった。
月だ。
あれは心の穴を埋めてくれる丁度いい大きさをしていた。
死にたい魚は心の穴に月を埋めるため、月を手に入れなければいけないと思った。
そのことをとある魚に話すと、その魚はこう言った。
「良いことを教えてやるよ。月は天国の持ち物だからよ、天国に行く必要がある。そのために良いことをし続けることだね。俺に親切にするとか」
それを聞いた死にたい魚は、その魚に食べ物を分け与えるようになった。かと思いきや。
「それは違うよ。天国に行っても月は手に入らない。僕は知っている。なんでかっていうと、一回天国に行ったからさ」
そう、死にたい魚は覚えていた。自分が一度死んで天国に行ったことを。
いやきっと、とっさに思い出したのかもしれない。
それから死にたい魚は、心の穴を埋めるためにどうしたら月が手に入るのか考えていた。
考えて考えて考えて泳いでいたところ、コツン、と何かにぶつかった。
それは岩に引っかかっていた金色の丸いペンダントだった。
時折光に当たって煌めく姿はまるで月のようだと死にたい魚は思った。
そうか。
これを月だと思えばいいんだ。
そう閃き、ペンダントを巣穴に持っていき、何か心が折れそうになったり落ち込んだりした時のための心の支えにした。
これは月じゃないけど月だと思うだけでも全然違う。心の穴って、こうして埋めていけるんだ!
そう思えた時の死にたい魚の心は煌々と光り、ただ死にたいと思っていた頃とは違う魚のように泳ぎ続けた。
もう”死にたい魚”ではなく”死にたかった魚”だった。
月に行けなくても、月が手に入らなくても、死にたい魚は生きることを諦めなかった。
それが死にたかった魚の生きる道を変えて行くただ一つの軸だった。
だけれどこの死にたかった魚のように上手くいくことは多くはない。
死にたい魚に話しかけたあの魚ですら、本当は心に大きな穴を抱えている。
でも気付いていないのだ。いや、気付こうとしていないだけ。
だから死にたい魚が死にたかった魚に変わっても、あの魚は心の穴を埋めるための行動は起こせないだろう。
(それが運命であり、いつか変えられる時期はくるということでもある。)
そしてきっと死にたかった魚は、これから泳いでいく道に苦難があろうとも前に進むことを諦めないだろう。諦めることがあっても、失敗しても、躓いても、また進むことを、諦めないだろう。
でも、誰も知らないのだ。
死にたかった魚が一度月を目指し、死んだ話など。
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