「占い」も、「たたり」も、うそっぱちですよ(『徒然草』第206段、第207段)
昔は、不吉なことが起こると、「占い」に頼ったり、「たたり」を恐れたりする人が多かったようです。しかし、兼好法師は、「鎌倉時代にも、こんな人がいたのですよ」と、ある太政大臣(だいじょうだいじん)の活躍を紹介しています。

一頭の牛が、役所の長官の席で寝ているではありませんか!(第206段)
役所の中で、奇怪な事件が起きたことがあります。
なんと、検非違使(けびいし)の長官が座るべき席に、大きな牛が寝そべって、もぐもぐと、食べた物を反芻していたのです。
「こんなことは前代未聞だ。何かの災いや凶事の前触れに違いない」
「この牛を、すぐに陰陽師の所へ連れていって、占ってもらおう」
と、役所の中は大騒ぎになりました。
そこへ太政大臣が出てきて、
「牛には、善悪を分別する力はない。足があるのだから、どこへでも入ったり、登ったりするだろう。占い師の所へ連れていく必要はない」
と言ったので騒ぎが静まりました。
すぐに牛は持ち主へ返し、牛が汚した畳は新しい物に取り替えられました。その後、少しも凶事は起きなかった、ということです。
昔から、「怪しいことを見ても、怪しいと思わなければ、怪しいことは起きない」といわれているとおりです。
(原文)
あやしみを見て、あやしまざる時は、あやしみかえりてやぶる、といえり。

たたりを恐れて、建設工事が中断してしまいました(第207段)
亀山(かめやま)の離宮(りきゅう)を建てようとして、敷地を地慣らししたところ、大きな蛇が、数え切れないほど集まっている塚が見つかりました。
建設に関わっていた役人たちは、「この地の神に違いない。ここを掘ったら、たたりがあるに違いない」と言って恐れ、工事を中断してしまいました。
しかし、役所に牛が入った時に迷信を排斥した太政大臣が、今回も、
「蛇が、たたりをもたらすことなんか、あるはずがない。さっさと掘り出して、捨ててしまいなさい」
と指示されました。
塚を崩して、蛇を大井川に流しましたが、その後、何のたたりもありませんでした。
(原文)
塚(つか)をくずして、蛇(くちなわ)をば大井川に流してんげり。さらにたたりなかりけり。
