『柔軟性がテンセグリティを壊すとき』 −伸ばしすぎた體が固まる理由−
序章
「體が硬いから痛い」
「柔らかくなれば治る」
これは、あまりにも長く信じられてきた前提です。
実際、運動指導や治療の現場では、柔軟性の高さが“良い状態”として評価され、硬さは修正すべき欠点として扱われてきました。
しかし臨床を重ねるほど、この前提と合わない症例に出会うようになります。
可動域は広い
前屈も開脚も深い
見た目は柔らかい
それにもかかわらず、
筋肉は常に緊張している
全身に疼痛がある
疲労が抜けない
どこを触っても硬い
こうした状態に悩まされている人たちです。
とくに、バレリーナや新体操、ダンサーのように柔軟性が競技能力と直結する分野では、この矛盾が顕著に現れます。
柔らかいのに、固い。
伸びるのに、動けない。
今回の記事で扱うのは、この一見すると矛盾した状態です。
結論を先に言えば、問題は柔軟性そのものではありません。
問題は、ヒンジが成立しない状態で、身体を伸ばし続けてしまうことです。
本来、体前屈やストレッチは、股関節・骨盤・脊柱が張力を分担しながら行われます。
しかしヒンジが破綻した状態では、その張力処理を筋肉、とくにハムストリングが代償的に引き受けることになります。
これは柔軟性の獲得ではなく、構造的な過伸張です。
過伸張された筋は、自由になるどころか、防御的に硬さを増していきます。
結果として、
テンセグリティ―、身体全体で張力を分散する構造は崩れ、痛みと緊張が全身に波及します。
本稿では、
なぜ「伸ばすほど固まる」のか
なぜ柔軟性がテンセグリティを壊しうるのか
なぜこの状態からの回復が難しいのか
これらを、筋肉論ではなく構造の問題として整理していきます。
これは、「もっと伸ばせばいい」という発想から一度、降りるための記事です。
そして、伸ばさなくなった先で、ようやく戻り始める體についての記録でもあります。
第1章|柔軟なのに、なぜ動けなくなるのか
■ 柔らかいはずの體が、動けなくなった
柔軟なはずなのに、全身疼痛でほとんど動けなくなった元プロのバレリーナに出会ったことがあります。
前屈も開脚も深い。
可動域だけを見れば、「柔らかい體」の典型でした。
それにもかかわらず、體は常に緊張し、どこを動かしても痛みが出る。
日常動作すら制限されている状態でした。
このとき私が感じたのは、「どこをどう施術すればいいのか」という問いではありません。
なぜ、この體はこうなったのか。
その一点でした。
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