【人体のテンセグリティとは】 −骨格基準の身体操作−
序章|人体のテンセグリティ構造
テンセグリティ(Tensegrity)という言葉をご存知でしょうか?
サッカー選手やトレーナーにとってはあまり馴染みのない概念かもしれませんが、人体の構造や運動パフォーマンスを本質的に見直すうえで、非常に重要な視点を与えてくれる考え方です。
テンセグリティとは、「Tension(張力)」と「Integrity(統合、完全性)」を組み合わせた造語で、アメリカの思想家・建築家であるバックミンスター・フラーが提唱した構造理論です。
この構造では、部材が直接的に接触して支え合うのではなく、張力と圧縮のバランスによって全体が安定するという特徴があります。最小限の構成要素で最大の安定性と柔軟性を実現するこの仕組みは、実は人体にも驚くほどよく当てはまります。百聞は一見に如かずなので下記の画像をご覧ください。
(超重要)
— 續池均(kintsuzuike)@MTR Method Lab®︎ (@kintsuzuike) January 22, 2025
怪我や痛みとテンセグリティの関係
*慢性痛がいつまでも治らない大人。
*サッカー育成年代の異常な怪我の多さ。
*プロサッカー選手の接触プレーではない大怪我。
動画の不思議な構造の原理は?
人体を構造物に捉えるとヒントが見えてくる。
(つづきます)pic.twitter.com/A4VoW37JCj
なぜ下部構造(土台)と繋がっていない上部構造が浮き上がるのか?
人間の身体は、骨と筋肉で構成されています。ここでいう「骨」は圧縮材(棒)の役割を、「筋肉と筋膜」は張力材(ゴム・ワイヤー)の役割を果たしています。骨同士が重なり合って構造を支えているのではなく、筋肉や筋膜の適切な張力によって骨格のバランスが保たれているのです。
実際にテンセグリティモデルを用いた構造物を見ると、「なぜこれが浮いているのか?」という驚きが湧いてきます。下部構造(土台)と物理的に繋がっていない上部構造が、まるで空中に浮いているかのように安定して存在しているのです。これこそがテンセグリティ構造の本質であり、人体もまさにこのような張力と圧力の動的バランスによって成り立っています。
しかし、この構造は非常に繊細でもあります。たとえば、筋肉の拘縮(過緊張)によって張力が乱れると、骨格のバランスが崩れ、歪みや痛み、パフォーマンスの低下へとつながります。逆に骨格が歪んだままだと、それに対応するように筋肉はさらに緊張し、柔軟性を失い、やがては怪我へと繋がっていくのです。
このような悪循環を断ち切るには、筋肉の張力と骨格のバランスを同時に見直す必要があります。それが、我々が提唱する「リアクティベーション®️」につながっていきますが、詳細は次章で述べます。
また、かつての日本人、たとえば江戸時代の人々は、現代人とは異なる生活様式の中で、このテンセグリティ構造を自然に保つことができていたと考えられます。靴や椅子、自転車のない生活。畳の上で正座し、徒歩で移動し、生活そのものが身体にとって合理的だったため、過度な筋拘縮も自然と解消されていたのです。食生活もまた、化学物質の少ない質素な内容であったため、筋肉の質も高く保たれていたと推測されます。
それに対して現代はどうでしょうか?
過度なトレーニング、加工食品、ハイテクな靴や椅子、スマホによる姿勢の崩れ…。現代人の身体は、テンセグリティ構造を維持できないほどのストレスに晒されているのが実情です。特にサッカー選手など、日常的に高負荷をかけるアスリートにとっては、この構造の崩壊が慢性障害やパフォーマンス不良の根本原因になっている場合が少なくありません。
■ テンセグリティ構造とは
「テンセグリティ」とは、張力(Tension)と統合(Integrity)を組み合わせた概念。
骨=棒(圧縮材)、筋肉・筋膜=ゴムやワイヤー(張力材)として機能。
筋肉の張力バランスによって骨格は浮かび、安定する構造を取っている。
筋肉の硬直 → 張力バランスの乱れ → 骨格の歪み → パフォーマンス低下という悪循環。
昔の日本人の生活(正座、徒歩、畳生活)は自然にテンセグリティを維持する仕組みがあった。
現代生活ではそのバランスが崩れやすく、特にアスリートは意識的な再構築が不可欠。
筋肉と骨格の両面からアプローチする必要がある。
■ 人体のテンセグリティに氣づいたきっかけ
この“テンセグリティ”という概念に出会ったとき、私はふと、2人のアスリートの言葉と動きを思い出しました。
一人は、野球界のレジェンド・イチロー選手。彼は「ウェイトトレーニングはしない。筋肉を大きくしても動きが悪くなるから」と語り、従来の筋力偏重型のトレーニングとは一線を画す独自の方法論を持っていました。ただし、これは「トレーニングをしない」という意味ではありません。むしろ彼は、自重や専用マシンを用いた“骨格基準のトレーニング”を徹底的に突き詰めていたのです。代表例が初動負荷トレーニング。筋肉を収縮させて力を出すのではなく、関節の可動域を最大限に活かし、しなやかに動ける身体を育てるというコンセプトは、テンセグリティそのものです。
彼の身体は、芯が通っていながらも脱力していて、再現性の高い動きを支える“しなやかな構造体”のようでした。バッティング、スローイング、走塁。すべての動作において重心がブレず、力の流れが滞らない。その様子は「筋力ではなく構造で動いている」としか言いようがありません。
日本で9年、メジャーリーグで19年という長いプロ野球人生を通して、トップであり続けたイチロー選手は致命的な怪我や手術をほとんど経験していない。
— 續池均(kintsuzuike)@MTR Method Lab®︎ (@kintsuzuike) March 26, 2025
・人体の動きを理解する(テンセグリティ)
・膝の力が抜けたら肩の力も抜ける(抜重)
・持って生まれたバランスが重要(骨格)… pic.twitter.com/lND8gYKwGX
もう一人は、ハンマー投げで世界を制した室伏広治さん。彼が語った「柔よく剛を制す」「しなりと連動が最大の出力を生む」という言葉は、まさにテンセグリティの本質を突いています。ハンマー投げという競技は、遠心力と身体の連動性がすべて。筋肉の塊で投げるのではなく、足から骨盤、脊柱、肩甲骨、腕へと流れる“しなる力”によって最大の出力を生み出します。室伏さんの投擲動作は、身体全体が張力と圧縮のバランスを保ちながら連動しており、テンセグリティ構造の生きたモデルといえるものでした。
示唆に富む室伏広治氏の解説。
— 續池均(kintsuzuike)@MTR Method Lab®︎ (@kintsuzuike) March 17, 2025
「柔よく剛を制す」
反射を使うとは、まさに"骨格のテコの原理"でしょう。
動きたい欲求があるが筋力はない赤ちゃん。
なぜ動けるのか? pic.twitter.com/20jJCM3fBA
私はこの2人の言葉と姿勢、そして彼らの動作を研究する中で、「人間の體は筋力ではなく、構造で動く」という根本的な氣づきを得ました。ウェイトトレーニングや過度なストレッチではなく、“構造の調律”こそが本質なのではないか、と。
テンセグリティ構造を理解すればするほど、それは競技の種別や競技レベルを超えて普遍的に通用する“身体の真理”であると確信するようになったのです。そして今、私はその真理を、サッカー選手をはじめとするすべてのアスリートに届けたいと強く願っています。
第1章|リアクティベーション®️とは
■ ― 筋肉と骨格を再活性化し、身体の自然な設計図に還る ―
リアクティベーション(Reactivation)とは、文字通り「再活性化」を意味します。現代人の體(からだ)は、かつてないほど多くの外的ストレスや環境要因によって、本来の生命機能や構造的なバランスを「不活性化」された状態に陥っています。たとえば、以下のような要素が現代人を取り巻いています。
過剰な運動負荷と無自覚な身体酷使(特にアスリート)
化学物質を含む加工食品や栄養バランスの乱れ
情報過多と常時接続によるメンタルストレス
慢性的な睡眠不足や自律神経の乱れ
姿勢や動作の乱れによる骨格バランスの崩壊
これらの影響は、神経系・ホルモン系・免疫系などあらゆる生理機能に波及し、「動けるはずの身体」が「機能していない身体」へと変質していく原因となっています。
■ ホメオスタシスとアロスタシス ― 人体の自然調整力
人間にはもともと「ホメオスタシス(恒常性)」という自己調整機能が備わっています。これは、環境の変化に関わらず、神経系・内分泌系・免疫系が協調し合って身体を一定に保とうとする働きです。一方で、「アロスタシス(動的適応能)」という機能もあり、これは適切な外的刺激(運動・気温・環境)によって身体を進化させ、強くしていく力を意味します。
ホメオスタシス → 安定化
アロスタシス → 適応と進化
本来、人間はこの2つのバランスを保ちながら、進化し続ける生き物です。
しかし現代社会では、環境ストレスが過剰になりすぎており、ホメオスタシスが破綻し、アロスタシスによる健全な進化ではなく「疲弊」や「機能障害」が起きやすくなっています。
■ 不活性化した筋肉がもたらす連鎖的トラブル
リアクティベーション®️が着目するのは、「筋拘縮(トリガーポイント)」と呼ばれる、硬くなって機能を失った筋肉の蓄積です。筋拘縮が引き起こす負の連鎖を挙げておきます。
血流の低下(酸素・栄養の供給不足)
自律神経の不調(交感神経の過緊張)
骨格の歪み(関節の偏位、圧迫)
慢性の痛みやパフォーマンス低下
怪我の反復(特に腰痛・膝痛・鼠径部)
とくに成長期のサッカー選手や若年アスリートにおいて、頻度・強度の増加だけでなく、回復とケアの軽視が重大なリスク要因になっています。プレー強度そのものよりも、ケア・栄養・休息の不足と、その影響で生じる筋拘縮の蓄積こそが、怪我の根本的な原因であると私たちは考えています。
トリガーポイント(Trigger Point)とは。
— 續池均(kintsuzuike)@MTR Method Lab®︎ (@kintsuzuike) January 22, 2025
筋肉の中にできる「しこり」のようなもの。
特定の部位に過度の負荷やストレスがかかることで発生する筋肉のこわばり。
私たちはこれを「筋拘縮」と呼んでいる。… https://t.co/hIt7e0Ze3E pic.twitter.com/eeZJI9keLa
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