【フィハール(fijar)という概念】 −なぜメッシやイニエスタのドリブルは異質なのか?−
序章
「フィハール(fijar)」という言葉をご存知でしょうか。
実を言えば、私自身は最近耳にした新鮮な単語です笑。
調べていくうちに、これはスペインで広く使われる戦術用語であり、単なる「ドリブル技術」ではなく、相手を釘付け(ピン留め)にして味方を生かすための“概念(定義)”であることを知りました。
日本語で言うところの"正対"に近い概念です。
しかし同時に気づいたのは、その抽象的な概念をより解像度を高くドリブルに応用した技術レベルにまで昇華した選手はとても少ないという事実です。
その数少ない例外こそ、メッシとイニエスタでした。
最近の選手では、ヤマルとオリーセなどです。
そして、駆け引きでかわすドリブラー(死語?笑)はフィハールを使いこなしています。
彼らは「意図的に相手に向かっていくドリブル」で対象者をピン留めし、パスや突破の選択肢を同時に保持していた。
スペインですら、連続正対ドリブル(ドリブルアット)をつかいこなす選手は希少です。
だからこそ、他のトッププロ選手とは一線を画す存在だったのです。
一方、日本の育成現場を振り返ると、事情は大きく異なります。
これまで主流だったのはカウンター局面でなくともとにかくボールと人が動く「縦に速いサッカー」。
そして、ドリブルといえばレガテ(突破)こそ正義で、相手をゆっくり引きつけて時間をつくる「パウサ」の感覚はほとんど共有されていません。
だから、ためを作るプレーに対しては、「早く出せ!」「ボールを離せ!」という怒声が飛び交うのです。
引きつけて“味方のために時間をつくる”という発想が根付かないまま、次の世代が育ってきてしまったのです。
第1章|フィハールとは何か
「フィハール(fijar)」という言葉は、スペイン語で「固定する」「釘付けにする」といった意味を持っています。
サッカーにおいて使われるときは、相手を動けなくさせたり、自分に注意を集中させたりする(アテンション)ことで、味方にスペースや時間を与えるプレー全般を指します。
■ 概念としての広さ
フィハールの面白い点は、その適用範囲が非常に広いことです。
サイドのウイングが張る
→ 相手SBを外に引き留め、内側に寄らせない。これも「フィハール」。CFが最前線で立ち位置をとる
→ 相手CBを背後の脅威に縛り付ける。これも「フィハール」。ボール保持者のドリブル
→ 相手を食いつかせて釘付けにする。これも「フィハール」。ポジショニングやパスワーク
→ 立ち位置やボールの動かし方で相手を引きつけて固定する動作も、すべて「フィハール」。
つまりフィハールは、「どのような動作をしたか」ではなく「結果として相手を固定できたかどうか」を基準にして語られるのです。
■ スペイン育成現場での位置づけ
スペインの育成現場では、この「フィハール」という言葉はごく自然に使われています。
選手たちは「相手を釘付けにすること」の重要性を当たり前のように理解し、指導者も「ここで相手をフィハールできたから次のパスが通る」と説明します。
しかし注意が必要なのは、フィハールはあくまで「概念」にとどまっているということです。
「どうボールを触るか」「どの角度で相手に向かうか」「どんな姿勢で構えるか」といった技術的な定義までは踏み込まれません。
このため、多くの選手は「フィハールの重要性」を頭では理解していても、実際のプレーでどのように表現すべきかまでは解像度に個人差があるように見受けられます。
■ 日本との対比
一方、日本の現場では「フィハール」という言葉自体がまだほとんど知られていません。
そもそも「相手を引きつけて時間やスペースを生む」という発想そのものが一般化していないため、「ボールを持ったら早く前へ」「フリーならすぐに出せ」という文化が根強く残っています。
この点で、日本はスペインに比べて、概念の段階においてすら大きく遅れをとっていると言えるでしょう。
■ フィハールの本質
結局のところ、フィハールとは 「味方を活かすために、能動的にあえて自分に相手を縛りつけること」 です。
ドリブルであれ、パスであれ、ポジショニングであれ、その目的は同じ。
「相手を自分に吸い寄せることで、別の誰かを自由にする」。
それがフィハールの本質であり、サッカーを理解するうえで欠かせない視点なのです。
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