『細菌とともに生きる腸の叡智』 −生命の起源から腸脳相関、千島学説まで−
第1章 地球最古の生命とマイクロバイオームの起源
──私たちの中に棲む“もうひとつの生命”の始まり
私たち人間の體の中には、数えきれないほどの微生物が共生しています。
しかし、この“内なる生命”の歴史は、私たちよりはるかに長く、遥か40億年前の地球にまでさかのぼります。
地球が誕生した直後、そこには酸素もオゾン層もありませんでした。太陽からの紫外線が降り注ぎ、高温で不安定な環境の中、最初に生命として誕生したのが「嫌気性細菌」と呼ばれる微生物たちです。
彼らは酸素を必要とせず、むしろ酸素を“毒”とするような環境で生きていました。その代表が「古細菌(アーキア)」です。この古細菌こそが、現在私たちの腸内や温泉、深海の熱水噴出孔などの極限環境に今なお生息している“生命の祖先”なのです。
やがて、地球の環境が少しずつ安定し始めると、次なる主役として登場したのが「光合成細菌」でした。特に注目すべきは、約25億年前に出現したシアノバクテリア(藍藻)です。彼らは太陽光を利用して光合成を行い、代謝の副産物として酸素を大気中に放出し始めました。これは、後に「酸素革命(グレート・オキシデーション・イベント)」と呼ばれる、地球史上の大転換点となります。
この酸素は、地球上の鉄と結びつき酸化鉄として海底に沈殿し、今日私たちが採掘している鉄鉱石のもととなりました。つまり、シアノバクテリアがいなければ、現在の工業文明の基礎となる鉄の鉱床さえ存在していなかったのです。さらに重要なのは、この酸素供給が、やがて私たち人類を含む酸素呼吸を行う生命の誕生を可能にしたという点です。
約20億年前、地球の生命にとって第二の転換点が訪れます。
古細菌と遊泳性の細菌が融合し、真核細胞と呼ばれる新たな生命体が誕生したのです。これは「細胞内共生説」によって説明されており、後に「ミトコンドリア」と呼ばれる構造が、実は好気性細菌(酸素を使ってエネルギーを生み出す細菌)のなれの果てであることが分かっています。つまり、私たちの細胞の中に存在するミトコンドリアは、遠い昔に“外部からやってきた細菌”だったのです。
この出来事は、「個体」と「微生物」が単なる共存を超えて、一体化していく過程の始まりでもありました。
さらに時代は進み、約9億年前には、シアノバクテリアが再び新たな役割を果たします。今度は、真核細胞に取り込まれることで葉緑体(クロロフィル)となり、植物細胞が誕生しました。赤や青の光を吸収し、反射される緑の光によって、植物は“緑色”に見えるようになったのです。こうして、地球上の光合成生態系が確立され、動物と植物の分化が進んでいきます。
このように見ていくと、私たち人間を含むすべての多細胞生命は、微生物との“融合”と“共生”によって成り立ってきたことがわかります。そしてそれは過去の話ではありません。私たちの細胞一つ一つの中に、いまもミトコンドリアという「細菌の記憶」が生き続けているのです。
つまり、私たちの體の中には、“人間”以外の存在が共に暮らしている。それは他者ではなく、むしろ「もうひとつの自分」とも言える存在です。
この“内なる宇宙”を紐解く鍵こそが、マイクロバイオームであり、もっと直感的にいえば、「腸と細菌の叡智」なのです。
八九、 體に棲まう100兆個の微生物こそが親愛なる仲間たち。彼らの声に耳を傾けろ。
— 續池均(kintsuzuike)@MTR Method Lab®︎ (@kintsuzuike) July 16, 2021
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