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マズい薬・イソバイドシロップ体験記

2週間前から、何だか頭がふらふらする。
見え方や足元への影響はない。だが、船に乗っているかのような浮遊感が、時々襲ってくるのだ。

昨年、同じような症状で耳鼻科に行った際は、耳石が原因だった。
「エプリー法」という頭を傾ける体操を伝授され、一発で解決。
しかし今回は、エプリー法でも治らない。

さらに、耳鳴りの頻度も増している気がする。
数秒間だが、キィーンという高い音が聞こえるのだ。

これらを踏まえ、1週間前に耳鼻科を受診。
めまいの顆粒剤を出されるも、症状は依然として変わらず。

そんな経過を辿ってからの、今日。
先生が言う。
じゃあ、薬を変えましょう。水薬で、ちょっと飲みにくいんだけど、1週間ほど、ね……。

その言い方で察した。
出た!例のマズい薬だろ!

イソバイドシロップ。
メニエールに対して処方される、耳のむくみを取る薬。
そして、インターネットにおいては「マズい薬」として定期的にバズる、超有名なアレだ。

薬局では、薬剤師さんが過去イチ丁寧に説明してくれた。
冷やしたり、オレンジジュースで口直ししたり、色々試してみてと。

薬剤師さん、ありがとう。
でもね、私はそんなの意味無いって知ってる。
なぜなら、母がイソバイドシロップの経験者だから。冷やしたり薄めたり、色んな方法を試しては苦しむのを見てきた。結果、薄めると量が増えるため、原液を一気飲みするのが最適解なのだと言っていた。

ああ、マズいのは嫌だ。怖い。
こんな薬に変更されるなら、症状が良くなったと言えば良かった。
重たい箱を抱えて、私は帰宅したのだった。

時刻は正午すぎ。昼ご飯の時間だが、口直しが要るであろうことを考えると、食前にこの薬を飲んでしまわねばならない。
とりあえず、薬を箱ごと冷蔵庫にイン。
冷えるのを待つ間、効果的な飲み方をネットで検索。
炭酸飲料に混ぜるのがいいらしいが、私は炭酸が飲めない。コーヒー、オレンジジュース、レモンティー、ポカリスエットなど、色々な候補が出てきた。今から買うにしても、選択肢が多すぎる。
まずは、家にあるもので何とかやってみよう。

イソバイドシロップを出す前に、麦茶で併用の胃薬を飲む。口直しに使えるよう、麦茶はたっぷりと注ぎ足しておいた。
さらに、アイスコーヒーのボトルを用意。
ジュースは家に無いので、柑橘繋がりでマーマレードもスプーンに出してみた。

……はぁ。嫌だ。
本当に飲まないとダメなの?

本当に本当に嫌で、帰宅してから飲むまでに1時間は経ったと思う。
でも、薬を飲まないと昼ご飯にありつけない。
これから1週間、ご飯の時間が来るたびに、こんな憂鬱な思いをしなければならないのか。

意を決して、冷蔵庫からイソバイドシロップをひとつ取り出す。
開封し、手で切り口を仰ぎ、匂いを確認。
ネットで検索した時、ブドウっぽい匂いだという意見を目にした。確かにブドウのような甘い匂いがする。
でも、あくまでも匂いであって、ブドウの味がするとは書かれていない。何かが腐った味だの、洗剤だの、工場の廃液だの、マズい梅酒だの……。

だが、もう開封してしまった後だ。
このまま逡巡していたら、せっかく冷やした液体が常温に戻ってしまう。

もう一度、薬の匂いを嗅ぐ。

これはブドウのシロップ。
これはブドウのシロップ!
これはブドウのシロップ!!

いざっ!

一気飲みしたかったが、30mLは結構な量だ。
半分くらいで一度、ゴックンと飲み込んだ。

……あれ?

残りの半分をゴックン。

……イケる。
全然イケるんだが?

初めて味わうものとは思えない。
人生のどこかで味わった気がする。
何だろうなと考えていると、苦い味が喉の奥からじわじわと広がってきた。
ああ、後味は確かに気持ち悪いかも。
でも、すぐに昼食を取ったので、全く問題なかった。

苦いと言うけれど、亜鉛不足で味覚異常だった時の方がひどい苦みだった。
マズいと言うけれど、胃カメラの前に飲まされた液体の方がしんどかった。

あれだけ怖がって、あれだけ調べて、あれだけ用意したのに、麦茶も、アイスコーヒーも、マーマレードも、全くもって出番ナシ。
何だか拍子抜けの、人生初・イソバイドシロップなのであった。

その夜。
2回目のイソバイドシロップ。

晩ご飯の前に、冷蔵庫から薬を取り出す。
もう怖くないぞ!

一気に流し込んだ時、イソバイドシロップに対して感じていた、既視感ならぬ「既味感」の正体が分かった。
この感じ、アルコールに近いんだ。

ブドウの匂い、アルコールっぽい口当たり、そして甘さ。

そうだ、分かった!
これ、白ワインの味だ!

と言っても、私が白ワインを飲んだのは、人生でたったの一度きり。
二十歳になって、試しに家でお酒を飲んでみるか?という話になった時。両親が見守る中、家にあった白ワインを、コップの底にちょびっとだけ入れて飲んだ。
う゛えぇっ!と叫ぶくらい、甘くて苦くてマズかった。両親には大袈裟だと呆れられ、それからワインは飲んでいない。

しかし、ワインが美味しく飲める世の皆さんなら、ワインっぽいイソバイドシロップは問題なく飲めているんじゃないか?
「イソバイド ワイン」で調べてみたが、マズいワインという表現だけで、ワインのようで平気だという文脈の意見は無かった。
おかしいな。私としては、お酒を30mL飲むよりも、イソバイドシロップを30mL飲む方が圧倒的に楽なんだけど。

私は食べ物の好き嫌いが多い。なのに、マズいとして有名なイソバイドシロップはイケるんだ。
人体って不思議だねぇ。

翌日。
今度はあえて、常温で飲んでみることにした。
処方された時にはあんなに絶望していたのに、今やこんな実験をする余裕すらある。

結果、喉越しがちょっと悪くなった。冷やせるなら冷やしておきたいかな。
味の方は、常温だと甘さを感じにくいかもしれない。だが、自分はブドウのシロップを飲んでいるのだという思い込みによって、難なく乗り越えられた。

さて、1週間後の診察。
まだふらふら感が治らないことを報告すると、薬の味に耐えられるのなら、量を増やすこともできるけど?と言われる。
まあ、そう来ると思ってましたよ。
それで改善する可能性があるのなら、とOKしたところ……

30mLから40mLに増量するので、20mLを2本飲むようになる。

秘技・2本同時飲みに挑戦。
30mLの時点で数口に分けて飲んでいたため、40mLになっても飲み方としては変わらない。10mL増えたことによる特別な負担は感じなかった。

ちなみに、私はここ5年くらい頭痛に悩まされている。偏頭痛の予防薬を色々と試しているが、今のところ改善は見られない。頭痛外来のお医者さん曰く、偏頭痛が原因でめまいが起こることもあるらしい。
だが、耳鼻科の先生は、耳鳴りの症状があるのでメニエール由来だろうとの見立て。40mLのイソバイドシロップを1週間忘れずに飲み続けたが、一日のどこかでめまいの症状は出てくる。

……というわけで、追いイソバイド
今度は2週間。期間を置くほど変化が分かりやすいとのこと。

だが、ここで問題が発生。
追いイソバイドを始めて3〜4日後、胃がムカムカして吐き気が起こるようになったのだ。胃粘膜を保護する薬は一緒に貰っているので、欠かさず飲んでいるんだけど……。
もしや、胃薬を飲んだ直後にイソバイドを飲んでいるから、まだ胃薬が効いていないのか?
とりあえず、食前に胃薬を飲み、食事を半分ほど進めてからイソバイドを飲むように変えてみた。すると、それ以降、ムカムカや吐き気は起こらなかった。

そして、2週間後の診察。
イソバイドのあれこれに気を取られていたが、そういえば、頭のふらふら感はこの2週間で全く起きていない。
ただ、一度だけ高音の耳鳴りがして、あれ?と思ったことはあった。これを言うと、また追いイソバイドされるんだろうなぁ……。

はい、予想通り。
2週間分の追い追いイソバイド、頂きました。

私の母は、過去にめまいが良くなったからと言ってイソバイドをやめた結果、めまいが再発してしまい、もう何年も治っていない。そんな母を見ているだけに、私も早々にやめるのは怖いと思っている。
未だ耳鳴りはちょくちょく発生するので、しばらくはイソバイドのお世話になりそうだ。

でも、この数週間を通して、イソバイドとの付き合い方はよく分かった。
私が行き着いた最終的な手順を、以下にまとめておく。

まず、イソバイドは可能な限り冷蔵庫や保冷剤で冷やしておこう。
冷やした方が甘さを感じやすく、喉越しも良くなる。

そして、食事の前に胃薬を飲んでおく。これは市販薬ではなく、イソバイドと一緒に処方される薬だ。
薬を飲んだら、食事の8割くらいまで食べ進める。残すものは、ただの白飯よりも、味が濃いものや、自分が好きなものが良いだろう。
なお、食後のデザートがある場合は、そちらを口直しに使える。食事の方は全て食べてしまっても構わない。

さあ、いよいよイソバイドを用意する時が来た。
ここで大事なのが、シチュエーション作り!
私が数週間イソバイドを飲み続けて分かったことだが、いくらイソバイドの味に慣れても、口に運ぶまでの抵抗感は消えない。
そのため、脳がスムーズにイソバイドを受け入れるような流れを作ってあげる必要がある。

そこで私が編み出したのが、お嬢様ごっこ
あなたはお金持ちのレディ。これからイケメン執事があなたに白ワインを提供してくれる。
想像する相手は美少女メイドでもいいし、推しがいるなら推しでも構わない。己のありったけの好みを詰め込んだ、理想のキャラクターを思い浮かべるのだ。

『お嬢様、冷やした白ワインをお持ち致しました』
「ありがとう。キンキンに冷えていて、よろしくってよ」

果たしてワインは冷やしていいのか、お嬢様はキンキンという言葉遣いをするのか、よろしくってよの用法は違うんじゃないのか、そんなことに疑問を持ってはいけない。

イソバイドの封を切ったら、切り口から漂う匂いを嗅ぐ。ワイングラスを揺らして香りを楽しむ気分でね。
これから自分は優雅に白ワインを嗜むのだという思い込みが肝心なのだ。

「うんうん、ブドウのフルーティーな香りがするわね」

体感だが、匂いをブドウと認識できれば、飲むハードルはかなり下がる。
白ワイン嗜みシチュエーションが完成したら、一気にグイッと行こう!

飲んでいる最中は、ブドウのシロップみたいな甘さを意識!
イマジナリー執事の出番はここまで。速やかにご退場願おう。

飲み終わったら、すぐに口直しの食事へ移る。
個人的には、飲んでいる最中より、後味の苦さが嫌だった。
口直し一発目の飲み物は、牛乳だと激マズなので注意。麦茶も美味しいわけではないが、まだマシ。私は麦茶をひと口飲んでから、ソースがかかったような食べ物を即座に放り込んでいた。

これだけブドウを意識することが大事なら、前後にブドウジュースを飲むのもいいかもしれない。製薬会社などで評価試験をする機会があれば、候補にブドウジュースを入れて優位差が出るかやってみてほしいものだ。

最後にひとつ、注意事項を。
イソバイドシロップが処方されている期間は、ずっと献血ができない
本来は毎日服用しないといけないのに、献血したいから飲むの中止したろ!という行動に出るケースを防ぐためらしい。
そんな奴がいるのかと思われるだろうが……ええ、私がそんな奴です。めっちゃ献血したい。早く献血させてくれーっ!
しっかりメニエールの治療を済ませてから来てね、とのことだった。

ただし、「毎日飲まなくてもいいよ。症状がある時だけピンポイントで使ってね」として処方されている場合は、服用から3日間空いていれば献血できる
このように、献血の可否に関わる薬は結構ある。疾患や服薬がない方々は超優秀なのです。是非とも献血に行って下さい。

晴れて献血できる日を夢見て、私はもうしばらくイソバイドシロップと付き合います。
私の体験記が、誰かのイソバイド克服に役立ちますように。

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