感想『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』才能の民主化を感じさせる良作
私はXで、週末に観る映画のお薦めアンケートを取り、鑑賞作品の参考にしています。先週は『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』が圧倒的な支持を集めたので、土曜の夜に観に行くことにしました。

事前に調べたところ、本作は昨年配信された1話約3分半のショートアニメ(全12話)を映画化した作品とのことでした。一気見しても45分ほどということもあり、時間に余裕があった私は、Amazonプライムで全話を視聴してから劇場へ向かいました。
近年、このようなインディーズ発の短編作品が支持を集め、映画化に至るケースが増えているように感じます。
たとえば、ストップモーションアニメの『PUI PUI モルカー』が『映画:とびだせ!ならせ! PUI PUI モルカー』へ、
あるいは特撮テレビドラマ『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』が『大長編 タローマン 万博大爆発』になって劇場公開、という流れです。
これらはいずれも、最初から「一般受け」を狙った作品ではありません。
クリエイター主導の、ニッチで尖った表現がネット上で支持を広げ、そのムーブメントの到達点として、ある種の“打ち上げイベント”のように劇場版が公開される。この構図は、オンライン発のコンテンツがオフラインのリアルイベントへと接続されていく、新しい映画のあり方を示しているように思います。
私が鑑賞したのは公開2日目の夜の回でしたが、劇場ショップの一角を占めるキャラクターグッズは、すでに半数以上が「完売」。入場特典も昼頃には配布終了していたようで、劇場側の想定を上回る集客だったことがうかがえました。
観客層も、いわゆるアニメオタクというより、ファッションにこだわりの感じられるサブカル層の女性グループやカップルが中心だった印象です。先週鑑賞した『閃光のハサウェイ』と比べると、観客の平均年齢は体感で20歳ほど若かったように思えました。
――――ここからネタバレ――――
それでは、映画本編の感想ですが――
物語は、警察に逮捕された主人公チハル(強化人間)とマキナ(サイボーグ)から始まります。同じタイミングで捕まっていたのは、強化人間のアカネとカナタ、サイボーグのカートとマックスという、いずれも一癖も二癖もある面々でした。
警察官のリョーコは、そんな彼らを集め、奉仕活動として惑星間走行列車――通称「ミルキー☆サブウェイ」の清掃を命じます。
ところが作業中、ミルキー☆サブウェイは突如として暴走を始め、彼らは予期せぬ事件へと巻き込まれていく……という物語です。
ノリとしては、『ガーディアン・オブ・ザ・ギャラクシー』のように、脛に傷を持つ世の中のはみ出し者たちが、危機に直面することで一致団結し、それを乗り越え、結果的に自分自身の内面までも救っていく――
そんな王道のエンタメ活劇だと言えるでしょう。
上映時間はわずか46分の短編映画ですが、
世界観の説明、キャラクターの内面描写、関係性の変化といった要素を、スピーディーかつ分かりやすく展開し、ラストにはきちんとカタルシスを用意している良作だったと思います。
期待値を上げすぎなければ、特別料金1,500円分の満足度は十分に得られる作品ではないでしょうか。
特に印象に残ったのは、BGMとバトルの効果音、そしてアクションが同期するシーンの気持ち良さです。何度でも観たくなるような中毒性があります。
個人的には、工場の機械音がリズムを刻み、やがて音楽へと変わっていく『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の工場でのミュージカルシーンを思い出しました。この場面は、映画館の大画面・大音響で観ることで、高揚感がさらに増したと感じます。
人間ドラマのパートについても、短い時間の中でキャラクター性を立て、「衝突」「和解」「団結」という段階をドライかつテンポ良く描きながら、しっかりとエモーションを生み出す手際の良さが光ります。
やたらとウエットに泣かせ、叫ばせ、大仰なBGMで時間を引き延ばすタイプのアニメやドラマには、ぜひ見習ってほしいと思える整理された演出でした。
とりわけ印象的だったのは、特別な能力を持たないキャラクターであるチハルの存在です。特に何をするでも無い、お人好しの彼女の善意が、世を拗ねた癖者たちの心を少しずつほぐし、結果として皆を救う行動へと導いていく展開は、観ていて心地良かったです。
こうした、善性のキャラクター描写が、若者たちにとっての「癒し」――今風に言えば「エモさ」――として受け取られ、支持を集めているのではないかと、オジサンはつい考えてしまいました。
「癒し」という観点で言えば、先に挙げた「モルカー」「タローマン」、そして「ミルキー☆サブウェイ」らの作品には、共通して「レトロな世界観」があるように思います。
Z世代の若者は、今風のフラットでデジタルな世界観よりも、対照的な、アナログでノスタルジックな昭和・平成的世界観に感情が反応し、そこに「エモい」体験を見出してお金を使う傾向があると言われています。
この世界観は、監督である亀山陽平さんの趣味による部分も大きいのでしょうが、結果的にはマーケティング戦略としても正解だったと言えるでしょう。
実際、グッズは売り切れが続出し、初日の興行成績も上位に入ったと聞きます。何より、観客層がかなり若く、普段は映画館に足を運ばない層が劇場に足を運んでいる点が印象的でした。
これまでも、ライブや舞台の中継を映画館で上映する試みはありましたが、今後も「オタ活の場」としての映画館の役割は、さらに広がっていくのではないでしょうか。
『ルックバック』の押山清高監督、『TAROMAN』の藤井亮監督らが、劇場作品をきっかけに注目を集めたように、本作の亀山陽平監督も、この実績をもって今後フックアップされていくのではないかと感じます。
こうした有能な才能を持つクリエイターに対する「チャンスの民主化」という意味では、音楽業界に比べるとかなり遅れてはいますが、徒弟制やテレビ局の請負仕事以外にも、劇場映画業界に新しいサクセスロードが生まれ始めている――
そんな兆しを感じさせる一本でした。
少なくとも私は、この46分を映画館で体験できて良かった!と、思っています。


