「ハードロック女子は絶対に脱がせたい」第三話
第三話
〇学校・別館・軽音部部室
教室のドアの前で動揺した様子で立ちすくむ金髪美女。
奏音(外人の女の子!?)
女の子「……」
三人の間に気まずい空気が流れる。
奏音(と、とりえあず何かしゃべらないと!)
奏音「ハ、ハロー。マイネーム イズ カナート。ハウアーユー?」
女の子「あ、私リリーです。日本語話せます」
奏音(めっちゃ恥ずかしいんですけど……)
顔を赤らめた奏音が恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。
奏音(そういえば隣のクラスに外国籍の新入生がいるって聞いたことあるな。もしかしてこの子が?)
リリーの顔を見て話しかける奏音。
奏音「えっと、リリーさん? はどうしてここに?」
リリー「部活見学の帰りに廊下を歩いていたらギターの音が聞こえてきたのでつい。あの、さっきの曲、ビートルズですよね?」
まつり「! 知ってるの?」
驚いた顔になるまつり。リリーは嬉しそうに微笑んでいる。
リリー「ふふ、私イギリス出身なんです。その曲も大好きでつい嬉しくなっちゃって。お邪魔しちゃってごめんなさい」
恥ずかしそうに照れ笑いするリリー。まつりがもう一度ギターを弾き始める。
リリー「Wow! So Cool!」
無邪気にはしゃぎ出すリリー。ギターに合わせてつい英語で口ずさんで歌い出す。
奏音、まつり「!」
リリーの歌声を聴いた奏音とまつりが思わず彼女の方に顔を向ける。二人の驚いた顔を見たリリー。歌うのをやめて二人の顔を見返す。顔を見合わせて沈黙する三人。リリーがニコッと微笑んでブイサインを見せる。
〇奏音の部屋
学校から帰宅した奏音。大きな溜め息をつきながら制服のままうつ伏せでベッドに倒れこむ。
奏音(今日会ったリリーって子、めっちゃ歌うまかったなあ。そしてめちゃくちゃ可愛かった……)
リリーのブイサインを思い出している奏音。
奏音(しかしこの流れは非常にまずい……。このまま行くとあの子がバンドのボーカルになりかねない。もし、もしそうなってしまったら……)
〇奏音の妄想
まつりとリリーが仲良さそうに会話している。
リリー「私日本語の曲歌えなーい」
まつり「そっかー、それじゃあ洋楽やるしかないねー」
豹変したまつりとリリーが無理やり奏音の服を脱がそうとしてくる。
まつり、リリー「おら! 洋楽やっぞ! さっさと服脱げや!」
奏音「や、やめてくださいいいぃぃ」
(妄想終了)
〇(元の)奏音の部屋
青ざめた顔でベッドに横たわる奏音。
奏音「いかん! それだけは絶対に阻止せねば!」
ベッドから飛び上がり奏音。腕を組みながら真剣に考えている。
奏音(こうなったらなるべくあのリリーって子となるべく距離を置くようにしないと。そして早いうちに別のボーカルを探してしまおう)
奏音のスマホに通知が届く。
奏音「え、まつりからメッセージ?」
奏音がスマホ画面を食い入るようにのぞき込む(スマホ画面上のまつりのアイコンとメッセージのカット)。
まつり『今度の休日一緒にライブ行かない?』
メッセージを見て大興奮する奏音。
奏音「ライブ!? と、というか、これってもしや……ライブデートというやつでは!?」
奏音の心臓の鼓動がバクバク鳴っている。
奏音(まさか女子とライブデートに行くという夢がこんなに早く叶うとは! あ、服何着よう?)
奏音が部屋の中で一人で慌てふためいている。
〇駅前
奏音がそわそわした様子で駅前で待ち合わせをしている。
奏音M「日曜日」
奏音(女子と待ち合わせなんて生まれて初めてだ……、緊張で一時間も前に着いてしまった……)
腕時計をチラチラと見ている奏音。後ろからリリーの声が聞こえてくる。
リリー「奏音!」
奏音「!?」
驚いた顔で振り返る奏音。そこには私服姿のまつりとリリーがいた。
奏音「え? リリーさんも!?」
リリー「まつりに誘ってもらったの」
まつり「ライブチケット余ってたから声かけてみた」
奏音「そ、そうなんだ……」
動揺している奏音に勘付くリリー。申し訳なさそうな表情で、上目遣いで見つめてくる。
リリー「あ、ごめん。もしかして私、お邪魔だったかな……?」
ワンピース姿にハンドバックというお嬢様らしい姿のリリー。一瞬で悩殺される奏音。
奏音「ううん! また会えてめちゃくちゃ嬉しいよ!」
リリー「ほんと? よかったあ!」
満面の笑みを見せるリリー。
奏音(可愛すぎいい! 距離を置くとか無理でしたああ!)
奏音M「嗚呼、悲しき男の性よ」
〇ライブハウス
ライブハウスの外観のカット。三人がライブハウスのホール(お客さんが入る場所)に入場する。ホール内ではライブの演者やスタッフが雑談しながらライブ開始を待っている。
奏音「うわあ! 思ったよりも広い!」
ホールの奥のほうからリサが手を振りながら現れる。
リサ「お、奏音君じゃん! やっほー」
奏音「え、リサさん? リサさんが何でここに?」
リサ「そりゃ上倉楽器主催のライブイベントなんだから。しかも今日は店長と同じバンドでトリバンで出るよ」(※トリバン:最後のバンド)
奏音「え、店長さんもライブ出るんですか?」
奏音たちの後ろから店長がやってくる。
店長「おお、奏音君! 来てくれたのか!」
奏音「あ、こんにちは。店長さんもライブやるんですね」
店長「もちろん! ライブこそがワシの生きがいだからな。それに今日はまつりも見に来てるからかっこいいところを見せないとな!」
まつり「うん、私も久々のじいちゃんのライブ楽しみにしてる」
店長「よし! それじゃワシは開会の挨拶があるからまた後でな」
店長が奏音たちに手を振り、ステージにあがっていく。ホールの明かりが消え、ステージの照明がつく。
店長「ええー、皆さんお待たせしました! それでは本日のライブをはじめたいと思います!」
観客から盛大な拍手喝采が起こる。
観客A「いええええい! 待ってました!」
観客B「店長かっこいいいい!」
調子に乗って両手を高く掲げる店長。
店長「よーし! それじゃあ皆さん、今日は思いっきり盛り上がりましょう! れっつ、ろっけんろおおおおる!」
店長がステージ上で思いっきり飛び跳ねる。次の瞬間、グキッという大きな音が鳴り響く。
店長「ぎゃあああ!! 腰があああ!!」
観客「店長おおおお!!」
ぎっくり腰になって倒れる店長。ステージ上でもだえている。その様子を見て呆然とする奏音たち。
〇ライブハウス・楽屋内
腰を抑えながらソファで横になっている店長。スタッフたちが湿布を貼ったりしながら手当をしている。
店長「う~ん……」
奏音(店長さん、かっこ悪すぎる……)
まつり「じいちゃん……」
リリー「心配だね、大丈夫かな?」
リサや他のスタッフたちが遠目から店長の様子をうかがいながら話している。
スタッフA「あの様子じゃライブなんて無理だな。トリバンはキャンセルしないと」
リサ「久々のライブ楽しみにしてたのに……」
スタッフB「しかたないよ、ギターなしじゃさすがにライブは無理だって」
スタッフたちの話を聞いていたまつりが、ゆっくりと彼らのもとに歩いて行く。
まつり「あの、今日はなんの曲をやる予定だったんですか?」
リサ「え? 洋楽系のバンドのカバーだけど……?」
少し間を置いて、まつりが真顔で答える。
まつり「私、代わりにギターやります」
