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第39話 セルゲイとエリックと

ショウジはエリックの端末へ連絡を入れるとそのまま管理局へ入っていく。
受付の側で立っているとすぐにエリックがやってきた。

「やあ。ショウジさん。ギースさんとのお話は終わったようですね。」

「ああ、特にモメる事も無く終わったよ。」

「では、早速ですがセルゲイ課長が待っていますので付いて来て下さい。」

そうしてショウジはエリックの後を付いていき
通路を通って技術課へと入室する。
他の職員がチラチラとこちらを見ていたが気にせず
更にその奥にある課長室へと進む。

コンコンとエリックが扉をノックする。

「課長、ショウジさんをお連れしました。」

「入ってくれ。」

奥からセルゲイの声が聞こえる。
ショウジはアリエルの事だと判っていながらも緊張する。
エリックは失礼します、と言いながら扉を開けて入室した。

部屋は真ん中に大きめの机とソファがあり
奥にはセルゲイのものと思われる机と
その脇に据え置き型の端末やディスプレイが置いてある。

「やあ、ショウジ君。よく来てくれた。」

セルゲイは立って出迎えてくれた。

「ああ、何か話があるとか…」

いつもならここで何か一言冗談か皮肉を言うショウジだが
今回はもう察しが付いているので
下手な事を言わないようにと何も言えなかった。

「そうだ。まあまずは座ってくれ。少し長くなりそうなのでね。」

そう言うとセルゲイは座るよう促す。
ショウジは言われるがまま座ると、セルゲイもショウジの正面に座った。

「さて、話というのは今回の敵性体増加の件に君も居て
 ギース隊と協力して脅威を排除した、という事を報告で受けている。
 そしてその戦闘データを見て、
 明らかに異常なエネルギー数値が観測されていてね。
 何か心当たりはあるかな?」

セルゲイは澄ました顔で言う。

ショウジはやはり来たか、と思うしか無かった。
(これはやっぱりすっとぼけても無駄だな、覚悟を決めるか)

「ああ。アリエルの事だな。」

「アリエル?それがあのアンドロイドの名前かね。
 君が付けたのかな?それとも最初から?」

「いや、俺が付けた。
 長ったらしい名前っぽいのを言ってたが覚えてられんからな」

「はっはっは!そうかね。それで、本題なんだがね
 そのアンドロイド、
 以前君が一人で廃墟に行って拾ってきたというものだね?」

「ああ。まだ生きてたんでとりあえず持ち帰って直してみようと思ってな。
 ダメだったらバラして売るかガレージの奥に放り込んでたな。」

「しかし、よく修理出来たね?
 崩壊前の年代物の上に失われた技術が使われていただろう?
 君にそんな技術は無いと思っていたが。」

「それなんだが、核の部分は生きてたんだ。
 俺は手足やセンサー類を付けただけだ。」

「詳しく聞かせてくれないか。」
セルゲイは少し真剣な顔になって問う。

そうしてショウジはこれまでのいきさつを要点を絞って話した。
途中エリックがお茶を持ってきてくれたのでそれを飲みながら。
まったく気の利く男だ。

「なるほど。そういう事だったか。
 そしてやはりあのエネルギー数値は
 間違ってはいない事も確かなものになった。
 アストラルコアと光変換エネルギー装置。
 ショウジ君、君はこの塔が
 エネルギー供給施設だというのは当然知っているね。」

「ああ。勿論だ。そのおこぼれに預かっている身なんでな。」

「はっはっは!そう!
 おこぼれでも施設周辺に人が住み着くほどのエネルギーだ。
 では、その源は?
 何も無い所からエネルギーが勝手に湧き出るとは思っていないだろう?」

「……まさか、光変換エネルギー装置…?」

「そう!この塔の頂上に光変換エネルギー装置があるのだよ。
 私もそこまで行った事はないがね。出来れば行って知りたいものだが…
 塔の上へ行ける人間は限られている。
 私など到底行けないほど厳重なセキュリティだ。」

「アンタでも行けないのか。そりゃ街周辺に防護フィールドを張れるほどの
 でかいエネルギー扱っているんじゃそういうもんなのかもな。」

「だが私は行ってみたい、そしてもっと崩壊前の技術を知りたい。
 ある目的の為にね。その為に日々、研究と解析をしているんだ。」

セルゲイはキッと眼光鋭く目を光らせる。

「へえ。偶然だな。俺も塔に住みたいんだ。
 まあこの街に住んでる奴等全員そう思ってるだろうがな。」

ショウジは少し笑いながら答える。

「それはそうだろうね。塔に住めれば衣食住全て何もしなくても手に入る。
 しかも食べ物は栽培された天然もの。
 あの味を知れば合成食なんてとてもとても…」

するとコホンッ、とエリックの咳払いが聞こえた。

「おっと、本題から外れてしまったね。失敬。
 本来この話は技術課では無く警備課でやるものだ。
 だが、私が横槍を入れてここで止めている。
 それはね、そのアンドロイドの技術を解析したいからだ。」

(ほら来た。やはりそうだろうな)
ショウジは覚悟を決めて睨むようにセルゲイを見ながら言う。

「確かに俺じゃよく判らん。だがアレは俺が拾って修理したものだ。
 いくらアンタでも、はいそうですかと渡すわけにはいかない。
 それに俺のワーカー業になくてはならない大事な戦力なんだ。」

「言い値で買うと言っても?」

「…命を救われたんだ。大事な相棒を金で売るような奴になりたくねえ。
 それについこの間もギースとも一緒に死線を潜り抜けた。
 あの時の確かな絆、命を預け合う仲間。
 …たとえそれがアンドロイドでもだ。
 アンタにだって金では売れない大事なものがあるだろう?」

ショウジの言葉にセルゲイはしばし沈黙する。

「なるほど。確かに私にもある。
 だがこれは私にとって千載一遇のチャンスなのだ。
 崩壊前の技術を知る事が出来れば、私の研究も完成に近づく。」

「アンタの研究が何かは知らんが、光変換エネルギー装置の解明か?
 それともアストラルコアのほうか?いや、どっちも、か?」

セルゲイは静かに答える

「…塔の光変換エネルギー装置、そのミニチュア版ともいえるものが
 君のアンドロイドに搭載されている。
 当然解析し、私の手で復活させたい。
 だが原理や細かい詳細は塔の上層部はすでに知っているはずだ。
 しかし、未だに管理局で生産されるロボットや義体に
 その装置は付けられていない。
 これは恐らく作りたくても作れないのだ。
 素材そのものが作れないと私は思っている。」

「じゃあアストラルコアのほうか?」
ショウジも静かに返す。

「それも同様だ。だが肝心なのは私が知る事だ。」

「作れないのに知ってどうするんだ?」

「作れるかもしれない。或いは知る事で私の研究に役立つ可能性は高い」

「だが、売る気は無い。」

「…手荒な真似はしたくないのだがね?
 例のアンドロイド、また損壊しているそうじゃないか。
 今なら容易く手に入れらるとは思わないか?」

「てめぇ!!」

ショウジは間髪入れず立ち上がり、セルゲイに飛び掛かかり胸倉を掴む!
だがセルゲイはショウジの腕を力強く掴み返しながら強い口調で言う。

「言え!どこでアレを拾った?その場所はどこだ!?」

ショウジとセルゲイ、掴み合い、
睨み合う二人の間にピリリとした空気が流れる。

だが慌てて割って入ったエリックに止められた。

「セルゲイ課長!
 荒事になれば警備課や管理課に我々の研究が明るみに出てしまいます!
 ここまで来てそれは避けなければ!
 ショウジさんも落ち着いて下さい。我々は強奪したりはしません。」

「さっき言ったばかりで信用しろってのか!?」

エリックは真剣に、そして静かな口調で言う。

「…ショウジさん。
 あなたは相棒や戦友といった大切な絆だと言いましたね。
 我々にもあるのです。そういった大切な絆が。
 そうですよね?セルゲイ義父さん。」

「…エリック!」
セルゲイは目を見開いて彼の名を呼んだ。

「ショウジさん。貴方の大切なものを奪ったりはしません。
 我々はその痛みや辛さをよく知っています…
 …ですがお金が必要なのも事実ですよね?」

ショウジも明後日のほうを向き答える。
「それはまあ、そうだが…」

実際アリエルの手足を戦闘用に変えるのであれば
お金はギリギリか足りないくらいだ。

それでも低級のものしか買えない。
アリエルの高出力に耐えきれるか怪しい。

そうなればまた買い替えが必要になる。
これではいつまでも金は貯まらない。
塔に住むためには莫大な金が必要だというがそれどころでは無い。

ショウジが下を向いて項垂れているとパンッとエリックが手を鳴らした。

「では、こうしましょう。アンドロイドの義体は我々が提供します。
 メンテナンスも行いましょう!
 その代わり、定期的に調べさせて下さい。
 勿論、無理に分解したりはしませんよ。それは約束します。
 その時はショウジさんも立ち会ってくれればいいですから。」

「…話が美味すぎる。信用できないな。」
ショウジはエリックの方を向いて答えた。

だが、エリックはそれを予想していたかのようにすぐに言う。

「では、もう一人立ち合いの方を連れて来て貰っても構いません。
 例えばギースさんとかですかね?」

「エリック!」

突然、セルゲイが叫んだ。それはそうだろう。明らかに越権行為だし
彼らの秘密が漏れる可能性が高くなるのだから。
だがそれにエリックは怯まず、答える。

「課長!これがお互い譲歩出来る落しどころです。
 ショウジさんの大事なものを預けろというんです。
 なら、我々もこのくらいのリスクを取らなければ
 信用や成果は得られません。」

「だが、しかし…」

「課長、いやセルゲイ義父さん。
 すでに我々の関係性はショウジさんに知られました。
 そして貴方の言う通りこれはまたとないチャンスなのです。」

「…エリック。」

エリックはショウジのほうへ目を向ける

「ショウジさん。我々はある研究の為に崩壊前の技術や知識が欲しい。
 そしてこれは誰にも知られてはいけないんです。特に管理局に。
 我々もリスクは背負っています。
 どうか先ほどの条件を受けて貰えないでしょうか!」

そう言ってエリックは頭を下げた。

ショウジは暫くエリックを見続ける。心は読めないがその心を見抜く為に。
そして諦めたように溜息を吐き、答えた。

「ハア、わかった。その話受けようと思う。
 だが、場所はこっちが指定する所が条件だ。
 立ち合いという点ではそっちがそうなるな。」

エリックは少し考えながら問う

「場所、ですか?こう言ってはなんですが
 管理局が一番この街で詳細に調べられると思いますが?」

ショウジはニヤッと笑って答える

「それはそうだろうな。だが見てくれは悪いが一応腕が確かな所もあるぞ。
 最初にアリエルの手足を付けた所だからな。出来ればそいつに任せたい。
 そっちは調べる機材を持ち込んでくれればいい。」

エリックはハッとする。

「ああ、なるほどそういう事ですか。
 確かにそれならショウジさんも安心出来るし
 知らない者が管理局に出入りするより
 秘密が漏れるリスクを最低限に出来る。」

「そういう事だ。これなら俺もこの話を受けるぜ。」

「わかりました。こちらもその条件で受けましょう。
 課長、よろしいですね?」

セルゲイはいつものような作り笑顔もなく

「わかった。この件はエリックに任せる。
 調べたデータは私の方に随時送ってくれ。」
そう淡々と言うだけだった。

「わかりました。ショウジさん。日時や必要なものなど
 詳細は後で私の端末で取り合いましょう。」

ショウジは残っている茶をズズーっと飲み干し
「わかった。じゃあ今日はこれで帰るぜ。」
そう言って席を立った。

その直後にセルゲイが言う
「アンドロイドを見付けた場所は教えてもらうぞ。
 偶然の発見でも廃墟調査の指定依頼という形でも構わん。」

ショウジは数秒セルゲイのを見つめた後に答える。

「ああ。だが前金の10万と相応の報酬は貰うぜ?」

「それは約束しよう。」

「じゃあ義体が届いたらすぐに行く。
 その時に座標も一緒にデータに入れておく。」

「結構。」

そうして扉から出ていくショウジをセルゲイとエリックは黙って見送った。

残った二人、セルゲイが言う

「エリック、もう後戻りは出来ないぞ。」
「ええ。わかっていますよ。義父さん。」

課長室にしばし沈黙が流れた。

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