あの日のカツカレーは今も続いている
こちらのエッセイは「お疲れカツカレー」様の9ヶ月継続記念の作品募集への応募作品です。
いつも楽しく記事を拝見していて、私も参加できそうな暖かい募集だったので、思いきって参加してみます!
まだ夫が彼氏だった付き合いたての時、デート中にCoCo壱に行ったことがある。
仕事帰りで、サクッと食べて帰ろうか、なんてシチュエーションだったと思う。
がっつりいきたい。
コロッケとかカツを乗せてむしゃむしゃ食べたい。
でもデートでまだ恥じらう乙女だった私には、それを選ぶ勇気がなかった。
ほうれん草とチーズならかわいらしいかしら?
同じ職場で、取り繕う余裕もなく、ノーメイクでガツガツ仕事していた私。その様子を間近で見てる彼に、そんな気遣いは無用だったのだが、少しでも可愛く思われたい、付き合いたての初々しい私。
私にもそんな時代があったのです。
結局悩んで悩んで、
「カツもいいけど、ちょっと重いから、ほうれん草とチーズにする」と話して、オーダーした。
彼はカツカレーにした。
ちょっぴり羨ましかった。
ひょっとしたら顔に出てたかもしれない。
話しているうちに、さっとカレーがテーブルに並ぶ。
彼は届いたカツカレーの真ん中の、一番美味しいところのカツを、何の迷いもなく私のカレーに乗っけた。
「食べな!」
なんかもう全部を見透かされている恥ずかしい気持ちになったが、何よりこのカツカレーの一番いいところを、何の迷いもなく私に差し出す彼に驚いた。
付き合いが長くなっても、彼はいつも美味しいところを私に分けてくれる。
半分この時は大きい方を必ず私にくれる。
メニューに悩むと、「好きなものを2個頼みなよ、半分ずつ食べようよ」と言ってくれる。
それは結婚した今も、ずっと続いている。
なんなら子供たちにも分けてる。
でも子供に分ける前に先に私に分けてくれる。
「なんで一番美味しいところをくれるの?」と聞いたことがある。
「君は凄く美味しそうに食べるからね、あげる甲斐がある」と笑って答えてた。
たまに喧嘩をすると、必ず美味しいものを買って帰ってくる。
ケーキだったり、お菓子だったり。
結婚記念日には美味しいものを食べに行く。
今年は私のリクエストでバルバッコアというシェラスコのお店に連れていってくれた。
食べることは生きること。
家族で一緒のご飯を食べることに意味があるのよ、と小さい時なんども母が話してた。
彼が分けてくれるのは食べ物だけじゃない。忙しい日々の中で優しさをわけてもらっている。
夫婦になったら綺麗事ではすまない色んなことが起こる。
ときめきも、あの頃の初々しい恋心もどこか遠くの物語のように感じることもある。
というか、感じることばかりだ。
あるのは余裕のない現実と、精一杯の日常。
でも、美味しいものをわけてもらうその瞬間、私はあのCoCo壱のまだ彼に恋をしたばかりの私にもどる。
「ありがとう」と素直な気持ちで心から言える。
ああ、彼はそのためにも今でも私に餌付けのように美味しいものをわけてくれてるのかな。
彼もまた、分けるときにはあの頃のかわいらしい私を思い出したりしてるのかな。
お互い白髪も増えて、30代の頃のような激しいぶつかり合いは減ってきた。でもその分、空気みたいになることも増えてきた。
寂しさもあり、心軽さもあり。
きっと大丈夫。
彼が私に美味しいものをわけてくれるなら、私たちは夫婦でいられる。
60歳になっても、70歳になっても、きっと君は私に取り分けてくれると思うから。
