見出し画像

何者かでいなきゃと思うほど、暮らしが息苦しくなる──肩書きを脱げない日の戻り方

休みの日なのに、どこか落ち着かない。

急ぎの仕事があるわけでもない。
誰かに責められているわけでもない。
それでも、時間が空くほど、胸のあたりがそわそわしてくる。

何かしていないといけない気がする。
ちゃんとしていないと、自分が薄くなる気がする。
この感覚、ただの暇つぶし不足ではないんですよね。

僕はこれを、肩書きを脱げない感覚だと思っています。

仕事をしていると、肩書きは便利です。
エンジニア、PM、コンサル、会社員、管理職。
その名前があるだけで、自分の立ち位置がはっきりする。
何を期待されていて、何に応えればいいのかも分かりやすい。

しかも、ちゃんと働いてきた人ほど、その肩書きと自分が強く結びついていきます。

任された。
頼られた。
役に立てた。
迷惑をかけないようにしてきた。
ちゃんと返してきた。

そうやって積み上げた時間は、もちろん悪いものじゃない。
むしろ誇っていいことです。

でも、その積み重ねが長くなるほど、仕事の自分だけが自分みたいになっていくことがある。

誰かに最近どうですかと聞かれたとき、気づけば仕事の話しかしていない。
休みの日の予定を立てるときも、意味があるか、無駄じゃないかで考えてしまう。
家でぼんやりしている時間にさえ、このままでいいのかなと内側で採点が始まる。

たぶん苦しいのは、何者でもない時間に慣れていないからです。

役割がある時間は、分かりやすい。
やることがある。
応える相手がいる。
成果も失敗も、輪郭がある。

でも、役割がない時間は、少し曖昧です。
ただお茶を飲んでいるだけ。
窓の外を見ているだけ。
洗濯物をたたみながら、何も結論を出していない。
そういう時間には、仕事みたいな分かりやすい評価がない。

だから不安になる。
自分が空っぽになったように見える。
何か生み出していない自分は、価値がないように感じてしまう。

けれど、本当は逆なんだと思います。

肩書きがある自分は、社会の中で機能している自分です。
それは大事です。必要です。
でも、それだけで自分の全部を支えようとすると、暮らしの中まで緊張が入り込んでくる。

仕事で少しうまくいかないだけで、自分全体が揺れる。
評価が落ちた気がするだけで、存在まで小さくなったように感じる。
予定のない一日が不安なのも、空白が怖いというより、肩書きのない自分に触れるのが怖いからかもしれません。

ここで大事なのは、仕事を軽く見ることではないです。
仕事を頑張るのをやめよう、という話でもない。

そうじゃなくて、肩書きを持つことと、肩書きだけで生きることは違う、ということです。

仕事が大切でもいい。
役割に責任を持っていてもいい。
でも、役に立っているときの自分だけを自分だと思い込むと、暮らしはどんどん細くなっていく。

じゃあ、どう戻ればいいのか。

僕は、仕事以外の自分を、立派なもので思い出そうとしなくていいと思っています。

趣味を持たなきゃとか、休日を充実させなきゃとか、そういう話ではありません。
それを始めると、また別の肩書きが増えるだけだからです。
ちゃんと休める人。
趣味がある人。
暮らしを整えられる人。
そんな新しい正解を増やすと、息苦しさは形を変えるだけです。

もっと小さくていい。

最近、何を見て少しだけ気持ちがゆるんだか。
何を食べたとき、ああおいしいと思えたか。
どんな音楽に、少しだけ救われたか。
どんな服を着た日、気分が軽かったか。
帰り道の風、朝の光、コーヒーの香り、本屋で足が止まった棚。
そういう、役に立つとは関係ない感覚を拾い直す。

成果ではなく、感覚で自分を思い出す。

これは地味です。
すぐに劇的には変わりません。
でも、肩書きに寄りかかりすぎた心には、この地味さがたぶん必要です。

たとえば、何も予定のない午後に、今日は何を成し遂げたかではなく、今日はどんな気分で過ごせたかを見てみる。
人に会ったあとも、うまく話せたかではなく、自分は無理をしていなかったかを確かめてみる。
家で静かな時間ができたら、この時間をどう埋めるかではなく、この時間に何を感じているかを見てみる。

その繰り返しの中で、肩書きの外側にいる自分が、少しずつ戻ってきます。

何者かでいなきゃ、とずっと力を入れていると、暮らしは休む場所じゃなく、評価の延長になってしまう。
でも、本当の暮らしは、役割の外にいる自分を薄める場所ではなく、取り戻す場所のはずです。

肩書きは、あっていい。
仕事の自分も、大切でいい。
ただ、それだけが自分の全部じゃないと、何度でも思い出したい。

今日は何をしたかではなく、今日は何に少し心が動いたか。
そこから始めるだけでも、息のしやすさは少し変わります。

あなたは、仕事以外の自分を、何で思い出せますか。
よければコメントで教えてください。

次に読む:

はじめての方へ:


いいなと思ったら応援しよう!

Life & Work Arts よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!