ベンダー調整で消耗するPMへ──責任分界を一枚にする役割メモの作り方
ベンダーとの打ち合わせが増えるほど、なぜか疲れる。
議事録も残している。依頼も出している。なのに話が噛み合わない。
いつの間にか、こちらの責任になっていることが増えていく。
PMをやっていると、このタイプの消耗は珍しくありません。
しかも厄介なのは、誰かが明確に悪いわけじゃないことです。
みんな真面目にやっている。なのに摩耗する。
こういうとき、現場は「コミュニケーション不足」と片付けがちです。
でも、コミュニケーションを増やしても改善しないケースが多い。
むしろ会議が増え、チャットが増え、決定が薄まっていく。
原因はたいてい、役割の境界線が曖昧なことです。
前回の朝の記事では、関係者が多いと決まらない構造に対して、最小RACIで「A(最終責任)を固定する」話をしました。
今日はさらに一段、実務側に寄せます。
ベンダー調整で消耗する現場の多くは、RACI以前に「責任分界」が曖昧です。
そこで効くのが、責任分界を一枚にする役割メモです。
立派な契約書や体制図ではなく、現場で毎日参照できるたった一枚。
この一枚があると、ベンダー調整の疲れ方が変わります。
ベンダー調整がしんどくなる典型パターン
まず、よくある地獄を整理します。あなたの現場にも近いものがあるはずです。
パターン1:誰がやるかは決まっているのに、どこまでやるかが決まっていない
「ベンダーが実装」「こちらが要件」「運用はうち」
一見、役割は分かれている。
でも境界が曖昧なので、穴が空きます。
テストデータは誰が用意する?
移行手順は誰が書く?
障害の一次切り分けはどこまで?
監視は誰が設定する?
問い合わせ対応は誰がやる?
穴が空くとどうなるか。
その穴は、最後にPMが埋めることになります。だから消耗します。
パターン2:依頼と合意の形が残っていない
口頭で言った、チャットで流れた、議事録に書いた。
でも、どれも「合意」になっていない。
後日、解釈違いが起きて揉める。
パターン3:仕様の曖昧さが、責任の押し付け合いに変わる
要件が曖昧だと、責任が曖昧になります。
責任が曖昧だと、人は守りに入ります。
守りに入ると、「それは契約外です」「それはそちらです」という会話が増えます。
これが積み重なると、PMは調整役ではなく火消し役になります。
解決の方向性:契約を読む前に「現場の責任分界」を固定する
契約は重要です。でも現場の摩耗は、契約を読むだけでは止まりません。
なぜなら、契約は抽象度が高く、日々の論点にそのまま落ちないことが多いからです。
必要なのは、現場の言葉で書いた責任分界です。
しかも「全部を書こう」とすると失敗します。
最小限でいい。毎日使える一枚にする。
その一枚が、役割メモです。
役割メモの構造:3つの領域×5つの論点
役割メモは、シンプルな格子で作ります。
現場で頻出する論点に絞るのがコツです。
領域(横軸)3つ
要件・仕様(何を作るか)
実装・テスト(どう作るか、どう確認するか)
運用・保守(どう守るか)
論点(縦軸)5つ
作業責任(誰が手を動かすか)
最終責任(誰が決めるか、承認するか)
入力物(前提として誰が何を用意するか)
出力物(成果物として何を残すか)
例外時(事故ったときの初動と切り分け)
これを埋めるだけで、ベンダー調整の地雷がかなり減ります。
役割メモ(テンプレ):このまま使える形
ここから先は、ほぼテンプレです。
あなたの案件に合わせて中身を置き換えれば、明日から使えます。
【役割メモ】責任分界(ドラフト)
① 要件・仕様
作業責任:発注側(PO/業務側)+PM
最終責任:発注側の事業責任者(またはプロダクトオーナー)
入力物:業務要件、制約(法務/監査)、優先順位、受入基準
出力物:要件定義(差分管理)、未確定リスト、やらないことリスト
例外時:仕様の解釈違いが出たら「未確定」に戻し、最終責任者が期限付きで裁定
② 実装・テスト
作業責任:ベンダー開発(実装・単体)+発注側(受入/検証観点)
最終責任:技術面はベンダーPL、受入は発注側PM(または開発リード)
入力物:開発環境、テストデータ、アクセス権、インタフェース仕様
出力物:実装物、テスト結果、既知不具合一覧、リリース判定材料
例外時:障害時の一次切り分け範囲(ログ取得、再現手順)を明記し、対応SLAを決める
③ 運用・保守
作業責任:運用一次は発注側(または運用ベンダー)、二次以降は開発ベンダー
最終責任:運用責任者(発注側)
入力物:監視要件、連絡経路、障害レベル定義、運用手順
出力物:運用手順書、監視設定、問い合わせフロー、更新計画
例外時:夜間/休日の対応範囲、緊急リリース判断者、連絡窓口一本化
ここで重要なのは、完璧さではなく合意です。
「これで運用する」という合意が、ベンダー調整を楽にします。
役割メモを一枚で回すための3ルール
役割メモを作っても失敗する現場があります。
その原因は、作って満足して終わるからです。
回すためのルールを3つだけ決めます。
ルール1:論点が出たら、役割メモのどこかに必ず紐づける
「それ、どの領域のどの論点?」
この問いをPMが常に持つ。
雑談を、合意に変えるための問いです。
ルール2:議事録より先に役割メモを更新する
議事録は情報です。役割メモは判断です。
判断が先。情報は後。
更新は差分だけでいい。
更新したらURLを貼って共有する。全員が同じ地図を見る状態を作る。
ルール3:例外対応(事故対応)を最初に決める
現場は平時の役割より、事故の役割で燃えます。
障害対応で揉めると、一気に信頼が壊れる。
だから例外時を先に固める。
一次切り分けはどこまで
誰に何分で連絡するか
重大度の定義
緊急リリースの判断者
これだけでも、ベンダー調整の精神消耗が減ります。
よくある反論への返し(PM用の言葉)
役割メモを出すと、必ず反論が出ます。
そのときの返しも、言葉を用意しておくとラクです。
「契約に書いてあるから大丈夫では?」
契約の記述は抽象度が高いので、日々の論点に落ちる形に翻訳します。現場運用のための一枚です。
「そんなの作る時間がない」
今揉めている時間が、作る時間です。1回揉めるコストの方が高いので、先に一枚だけ作ります。
「役割を固定すると柔軟性がなくなる」
固定するのは判断の起点です。変更はできます。ただ、変更するには合意が必要という形にします。
まとめ:ベンダー調整の消耗は、優しさではなく構造で減らす
ベンダー調整で消耗するPMは、たいてい真面目で優しいです。
相手に合わせようとする。丸く収めようとする。
その結果、自分が穴を埋め続ける。
でも、穴を埋める人が頑張るほど、穴は増えます。
だから構造を変える。
責任分界を一枚にする(役割メモ)
3領域×5論点に絞る
例外時(事故対応)を先に決める
論点が出たら役割メモに紐づけ、差分更新で運用する
これができると、ベンダー調整は「揉める」から「淡々と合意する」に変わります。
そしてPMは、火消し役から、前に進める役に戻れます。
最後に問い
あなたの現場で、いま一番穴が空いているのはどこですか。
要件・仕様、実装・テスト、運用・保守。
そして「例外時(事故対応)」は、誰がどこまでやることになっていますか。
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