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40代手前で管理職を断ると損か──専門性を残して伸びる道の選び方

管理職の話が来たとき、うれしいより先に、少しだけ胸が重くなる人がいると思う。

評価された証拠だと分かっている。
年齢的にも自然な流れだと言われる。
ここで受けなかったら、もう上には行けないのではないか。
逆に、受けたら今まで積み上げてきた専門性が薄まってしまうのではないか。

この迷いは、優柔不断だから起きるわけではない。
むしろ、ちゃんと働いてきた人ほど起きやすい迷いだと僕は思う。

現場で手を動かしてきた。
設計も、障害対応も、顧客との調整も、それなりに乗り越えてきた。
その中で、自分は何に価値を出せるのかも少しずつ見えてきた。
だからこそ、肩書きが変わることで、自分の仕事の手触りまで変わってしまうことが怖い。

ここで一度、はっきり切り分けたほうがいいことがある。
管理職を断ること自体は、逃げではない。
ただし、考えずに断るのは危ない。

この二つは似ているようで、まったく違う。

管理職を断ることが逃げではないのは、役割の違いは優劣ではないからだ。
人を通じて成果を出す役割と、自分の専門性で難しい価値を出す役割は、どちらも組織には必要だ。
にもかかわらず、年齢が上がると、管理職になることだけが正解のように扱われやすい。
ここで多くの人が苦しくなる。

本当は、向き不向きの問題もある。
得意不得意の問題もある。
何より、自分がどこで価値を出したいのかという問題がある。

たとえば、誰かを動かし、役割を分け、衝突を調整し、全体の優先順位を決めることにやりがいを感じる人がいる。
このタイプは、管理職に向く可能性が高い。
自分で全部やるより、チーム全体の成果が上がることに充実感がある。
人の成長を見るのが苦ではない。
曖昧な状況で判断を引き取ることにも比較的耐えられる。
こういう人が管理職に進むのは自然だ。

一方で、難しい要件を整理すること、複雑な業務を構造化すること、設計の質を上げること、現場の詰まりをほどくことに強い充実感を覚える人もいる。
このタイプは、無理に管理職に寄せると力が鈍ることがある。
本人は真面目だから引き受ける。
でも、会議と評価面談と根回しで一日が終わり、自分の強みを発揮する時間が消えていく。
結果として、肩書きは上がったのに、仕事の満足度も市場価値も曖昧になる。

ここでありがちな誤解がある。
管理職を断ると終わり、という誤解だ。

これは半分だけ正しくて、半分は間違っている。

終わるのは、管理職を断ったことそのものではない。
専門職としてどう伸びるかを設計しないまま、ただ今の延長に留まることが危ない。
つまり、断ることが危ないのではなく、断ったあとが空白なのが危ない。

専門性を残して伸びる人は、この空白を作らない。
自分は何の難しさを引き受ける人なのかを言語化している。
たとえば、要件を業務に翻訳できる人なのか。
複数部門の利害を整理できる人なのか。
障害や品質問題の構造を見抜ける人なのか。
若手では扱えない論点を整理できる人なのか。

肩書きがなくても、組織の中で難しい問題を引き取れる人は、簡単には代替されない。
逆に言うと、管理職ではないまま伸びるには、担当者の延長では足りない。
専門職としての軸が必要になる。

ここで、管理職を受けるかどうかを見るための判断軸を三つに絞ってみたい。

一つ目は、人を通じて成果を出したいかどうか。
自分で解くより、誰が何を持つかを決めて、チーム全体で結果を出すほうに手応えを感じるなら、管理職の適性はある。
逆に、他人の進捗管理や評価にエネルギーを使うより、自分の専門領域を深く掘りたいなら、その感覚は無視しないほうがいい。

二つ目は、専門性をこれからどう深めるかが見えているか。
ただ現場が好き、だけでは弱い。
何を武器にして、どんな難しさで価値を出すのか。
そこまで見えているなら、管理職を受けない選択にも筋が通る。
でも、そこが曖昧なまま断ると、年齢だけ重ねて役割が薄くなる。

三つ目は、会社の評価制度がどうなっているか。
ここを見ずに判断すると危ない。
会社によっては、管理職以外の上がり方が実質用意されていない。
逆に、専門職等級があり、アーキテクト、上流SE、PMO、業務設計、品質責任者のような道が整っている会社もある。
同じ断るでも、前者と後者では意味がまったく違う。

つまり、この問題は気持ちだけでは決められない。
自分の志向、専門性の設計、会社制度。
この三つを重ねて見ないと、正しい判断にはなりにくい。

もう一つ、見落としやすいことがある。
管理職を引き受けることにも、断ることにも、どちらにもコストがあるということだ。

引き受ければ、専門性が薄まるかもしれない。
評価、調整、育成、政治的な根回しが増えて、消耗するかもしれない。
断れば、昇進や年収の機会を逃すかもしれない。
周囲から、あの人は上に行く気がないと見なされるかもしれない。

だから大事なのは、ノーリスクの正解を探すことではない。
どのコストを払うかを自分で選ぶことだ。

キャリアが苦しくなるのは、損をしたくないからではない。
自分で選んだ感覚が持てないまま、流れで決まっていくときだ。
管理職になるにしても、ならないにしても、自分の意思で引き受けたと思えるかどうかで、その後の納得感はかなり変わる。

40代手前は、役割の分岐が見えやすくなる時期だ。
まだ遅くはないけれど、何も考えずに流されるには少し重い時期でもある。
だからこそ、肩書きの響きではなく、自分が何で価値を出したいのかを見直したほうがいい。

人を通じて成果を出したいのか。
それとも、専門性で難しい論点を引き受けたいのか。
会社はそのどちらを評価する設計なのか。
そして自分は、どちらのコストなら引き受けられるのか。

役割の選択は、世間体で決めると後悔しやすい。
地位を取ったのに手触りを失う人もいるし、専門性を守ったつもりで成長の機会を閉じる人もいる。
大事なのは、何を守り、何を広げたいのかを曖昧なままにしないことだ。

あなたが守りたいのは、肩書きですか。
それとも、仕事の手触りですか。

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