Fit & Gapで現場が黙る理由──業務コンサルが拾うべき小さな違和感
Fit & Gapの場で、現場の人があまり話してくれない。
業務コンサルやパッケージ導入に関わっていると、一度はこの場面に出会うと思います。標準機能を説明している。現行業務との違いも確認している。質問の時間も取っている。それなのに、現場からは大きな反応がない。
表面的には、特に問題がないように見えます。会議も静かに進みます。参加者も強く反対しません。議事録には、大きな懸念なし、と書けてしまう。
でも、僕はこの沈黙をそのまま合意として扱うのは危ないと思っています。
Fit & Gapで本当に見るべきなのは、標準機能と現行業務の差分だけではありません。現場が何を言わなかったのか。どこで少し表情が止まったのか。どの説明に対して、質問ではなく沈黙が返ってきたのか。そこに、導入後に運用へ乗らない理由が隠れていることがあります。
まず押さえたいのは、現場が黙るのは、必ずしも納得したからではないということです。
現場の沈黙には、いくつか種類があります。
ひとつ目は、分からないから黙っている沈黙です。パッケージの画面、マスタ、権限、承認フロー、例外処理。説明している側は業務と機能をつなげて話しているつもりでも、聞いている側は自分の日常業務に変換できていないことがあります。この場合、分からないことをその場で言語化できないため、質問ではなく沈黙になります。
ふたつ目は、言っても変わらないと思っている沈黙です。現場には、過去のシステム導入や業務改革で、意見を言ったのに反映されなかった経験が残っていることがあります。その記憶があると、今回もどうせ標準に合わせるのだろう、言っても無駄だろう、という空気になります。この沈黙は、理解不足ではなく諦めに近いものです。
三つ目は、今ここで言うと自分の部署が面倒を背負うと感じている沈黙です。Fit & Gapの場には、業務部門、情シス、ベンダー、コンサル、上司や管理職が同席します。その場で違和感を言えば、追加確認、業務整理、調整、場合によっては標準から外れる理由説明が発生します。現場の人から見ると、違和感を出すこと自体が自分の仕事を増やす行為に見えることがあります。
だから、業務コンサルが見るべきなのは、発言量だけではありません。むしろ、発言が少ない場面ほど、何が話しにくくなっているのかを見なければいけません。
Fit & Gapでよくある失敗は、画面や機能単位で確認を進めすぎることです。
この項目は使いますか。この承認は必要ですか。このマスタで管理できますか。この帳票で足りますか。
もちろん、こうした確認は必要です。ただし、これだけだと現場は答えにくくなります。現場の人は、機能名で仕事をしているわけではありません。朝に何を確認し、誰に聞き、どの紙を見て、どのタイミングで例外判断をしているか。その一連の流れの中で業務を回しています。
だから、標準機能が合うかどうかを聞く前に、その機能が現場のどの判断を置き換えるのかを確認する必要があります。
たとえば、承認フローが標準で用意されているとします。このとき、単に承認者を誰にするかだけを聞いても、Fit & Gapとしては浅い。見るべきなのは、承認という行為が、現場では何を保証しているのかです。
金額の妥当性を見ているのか。取引先との約束を見ているのか。在庫や納期への影響を見ているのか。部門間の責任を明確にしているのか。あるいは、実態としては承認ではなく、あとで揉めないための根回しになっているのか。
ここを見ないまま標準フローに当てはめると、導入直後は動いても、しばらくすると現場独自のExcelやチャット確認が復活します。システム上はFitしているのに、業務運用としてはGapが残ったままになるのです。
業務コンサルが拾うべき小さな違和感は、派手な反対意見ではありません。
たとえば、説明後に少し間が空く。特定の人だけが隣の人を見る。できますとは言うが、表情が硬い。標準で大丈夫ですと言いながら、あとで個別に質問が来る。会議中は静かなのに、休憩時間に本当はこうなんですよねという話が出る。
こうした違和感は、議事録に残りにくい。でも、導入後の運用を左右します。
僕が大事だと思うのは、違和感をその場で問題化しすぎないことです。現場が少し黙った瞬間に、何が問題ですかと詰めると、相手はさらに話しにくくなります。必要なのは、問いを少しだけ業務に戻すことです。
今の処理で、月末だけ変わることはありますか。
この作業が止まると、次に困るのは誰ですか。
この判断は、普段は誰が暗黙で見ていますか。
標準機能に合わせた場合、現場で残りそうな確認はありますか。
こういう問いにすると、現場は機能評価ではなく、自分たちの仕事を思い出しながら話せます。沈黙していた人が、そういえば、と話し始めることがあります。そこに、Fit & Gapの本当の入口があります。
パッケージ導入では、標準に合わせることが重要です。個別開発を増やせば、コストも保守負荷も上がります。だから、現場の要望をすべて聞けばよいわけではありません。
ただし、標準に合わせることと、現場の違和感を無視することは違います。
業務コンサルの価値は、現場の言い分をそのまま仕様にすることではありません。逆に、パッケージの標準をそのまま押し込むことでもありません。現場が言葉にできていない運用上の引っかかりを拾い、それが本当に業務上必要な差分なのか、単なる慣れの問題なのか、責任分界や判断条件の未整理なのかを見極めることにあります。
Fit & Gapは、差分一覧を作る作業ではなく、業務の前提を見つけ直す場です。
現場が黙ったとき、会議が順調に進んでいるように見えるかもしれません。でも、その沈黙の中に、導入後に積み残される運用、説明されていない責任、誰も拾っていない例外処理が眠っていることがあります。
あなたが次のFit & Gapに入るなら、どこを見るでしょうか。
標準機能との差分でしょうか。
それとも、現場が言葉にできずに飲み込んだ、小さな違和感でしょうか。

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