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転職しないまま市場価値が下がっていく──現職で"選ばれる力"を維持する棚卸し術

転職するつもりはない。 でも、ふとした瞬間に考える。

「今の自分、外に出たら通用するんだろうか」

同期が転職して年収を上げた話を聞いたとき。後輩がスカウトで声がかかっている話を耳にしたとき。職務経歴書 を開いて、自分のプロフィールに書けることが2年前から増えていないと気づいたとき。

転職する気はないのに、市場価値が下がっている気がする。 その感覚、たぶん正しい。

市場価値は「転職しなくても」下がる

多くの人が誤解しているのは、市場価値は転職活動をして初めて変動するものだ、という思い込みだ。

実際は逆で、市場価値は何もしなくても日々変動している。正確に言えば、市場の方が動いている。

たとえば3年前、ある現場で要件定義を1本通せたことは大きな実績だった。でも今、同じスキルを持つ人は増えている。生成AIの登場でドキュメント作成の効率は上がり、上流工程に求められるレベルも変わりつつある。クラウド前提の設計、セキュリティ要件の組み込み、データガバナンスの理解──3年前にはなかった評価軸が、今は当たり前のように求められている。

つまり、自分が止まっていても、周囲の基準は上がっていく。 転職しないことが問題なのではない。棚卸しをしないまま現職にいることが、市場価値を静かに削っている。

なぜ「現職のまま」だと気づけないのか

現職にいると、自分の価値が見えにくくなる構造がある。

1つ目は、社内評価と市場評価のズレ。

社内で重宝されている人は多い。会議のファシリテーションがうまい、調整が早い、顧客の信頼が厚い。でも、それが市場で評価されるかは別の話だ。社内評価は「この環境で役に立つか」で決まるが、市場評価は「どの環境でも再現できるか」で決まる。

社内で便利な人と、外に出ても価値が高い人は一致しない。ここがズレていることに気づかないまま数年経つと、経歴書に書ける実績が「調整しました」「運用しました」だけになる。

2つ目は、仕事の範囲が固定化されること。

同じ現場に3年いると、担当領域が決まってくる。得意な分野に仕事が集中し、苦手な領域には触れなくなる。これは短期的には効率的だが、長期的にはスキルの幅が狭まる。

30代のSEやPMにとって、市場価値の転機は「技術の深さ」単体では生まれにくい。技術軸に加えて、業務理解の幅や推進力の掛け算で差がつく。1つの現場で同じ役割を続けていると、この掛け算が増えないまま年齢だけが上がっていく。

3つ目は、比較対象が社内にしかないこと。

地方や中小企業、長期の受託現場にいると、外部の基準が見えにくい。勉強会やカンファレンスに出る余裕がなく、転職サイトも開かない。結果として、自分の立ち位置が分からないまま「なんとなく不安」だけが残る。

現職のまま「選ばれる力」を維持する棚卸し術

転職するかどうかは、棚卸しの後に考えればいい。 まずは、半年に1回、以下の3軸で自分の現在地を言語化する習慣をつくることが先だ。

軸1:技術・スキルの棚卸し

問い:「この半年で、何ができるようになったか?」

ポイントは、使った技術を列挙するのではなく、判断や設計の質が上がった場面を探すこと。

たとえば「Javaで開発しました」は棚卸しにならない。「非機能要件を設計段階で組み込む判断ができるようになった」「レビューで観点の抜けを指摘できるようになった」なら、それは市場で語れる成長だ。

具体的には、この半年で関わった案件やタスクを3つ挙げて、それぞれについて「何を判断したか」「何が変わったか」を1文で書く。これだけで、経歴書のアップデート材料になる。

軸2:業務理解の棚卸し

問い:「自分が関わっている業務の構造を、別の人に説明できるか?」

SEやPMが市場で評価される分岐点は、技術力よりも業務理解の深さにあることが多い。顧客の業務フローを理解し、どの工程にシステムが効いているかを説明できる人は、転職市場でも強い。

棚卸しの方法はシンプルで、自分が担当している業務領域を「入力→処理→判断→出力」で1枚に整理する。ここで「判断」の部分が書けない場合、業務理解が表層にとどまっている可能性がある。

軸3:推進力・調整力の棚卸し

問い:「この半年で、自分がいなかったら止まっていた場面はあるか?」

これは属人化の話ではなく、自分の介在価値の確認だ。会議で膠着した議論を収束させた、ベンダー間の認識ズレを整理した、顧客の曖昧な要望を要件に落とし込んだ──こうした場面があるなら、それは推進力として言語化できる。

逆に、半年間「指示された作業をこなしていただけ」なら、推進力の実績がゼロということになる。これは危機感を持つべきシグナルだ。

Before → After:棚卸しで変わる経歴書

Before(棚卸しなし):

基幹システムの保守開発を担当。要件確認、設計、テストを実施。顧客との定例会議に参加。

After(3軸で棚卸し後):

基幹システムの保守開発において、業務部門との要件調整を主導。運用フェーズで発生した障害の原因分析を恒久対策まで整理し、再発率を低減。非機能要件(性能監視・アラート設計)を設計段階で組み込む提案を行い、リリース後の運用負荷軽減に貢献。

同じ経験でも、棚卸しの有無で語れる価値がまったく変わる。

よくある失敗:棚卸しが続かない理由

棚卸しが大事だと分かっていても、実際にやり続ける人は少ない。よくある失敗は3つある。

1. 完璧にやろうとして始められない。 棚卸しは、まず3つの問いに1文ずつ答えるだけでいい。30分あれば終わる。最初から完璧な経歴書を書こうとすると、永遠に始まらない。

2. 日常業務に埋もれて忘れる。 カレンダーに「半年に1回、棚卸しの日」を入れる。僕は毎年1月と7月の第1土曜に設定している。仕組みにしないと、忙しさに負ける。

3. 一人でやると客観性が保てない。 自分の強みは自分では見えにくい。信頼できる同僚やメンターに「僕の強みって何だと思う?」と聞くだけでも、視点が広がる。

まとめ

転職するかどうかは、今すぐ決めなくていい。 でも、棚卸しだけは今すぐ始めたほうがいい。

市場価値は、転職活動を始めた瞬間に測られるものではない。日々の仕事の中で、何を経験し、何を判断し、それをどう言語化できるかの積み重ねだ。

半年に1回、30分だけ。 技術・業務理解・推進力の3軸で、自分の現在地を書き出してみてほしい。

それだけで、いざというときに「選ばれる力」は残せる。

棚卸しを一人でやりきるのが難しいと感じたら、外部の視点を入れるのも一つの手段だ。

僕はココナラで、30代エンジニア向けに3日でキャリアの判断軸を整理するサービスを提供している。停滞の原因分析から方向性の仮説整理、半年の行動ToDoまでをレポートで納品する形式だ。

また、棚卸しの結果を職務経歴書に反映させたい方には、面接官視点で60分のビデオ添削を行うサービスもある。職務要約の再設計、実績の見せ方改善、想定質問の整理まで一気に整えられる。

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