本を書く【#シロクマ文芸部】
「本を書くんですか?」
「本と言っても絵本だけどね」
「へー、知らなかった」
「児童養護施設にいたとき、絵本が友達だったの」
「そうだったんですね」
「お礼ってわけじゃないけど、手作りの絵本を寄贈しているの」
喫茶店『ロイヒテン』では和彰と従業員の優衣との、のどかな会話が続いている。
先日、マスターから優衣が借金取りのタクヤに付きまとわれていると聞いたときはかなり驚いた。しかし、和彰の母が以前勤めていた法律事務所の弁護士の先生が相談にのってくれることになり、いささか安堵した気持ちになっていた。
優衣にはマスターが勝手に和彰に相談したことを詫びて、ことの顛末を伝えてくれていた。突然、降って湧いたような借金トラブルに巻き込まれた優衣はとても憔悴していたが、和彰が力になってくれると知り、少し正気が戻っていたようだった。
和彰は有給休暇を取得して、優衣を連れて法律事務所に向かった。
話を聞いた弁護士の先生はその場で強要に対する警告書を書いてくれた。費用について尋ねると、雛形にちょこっと書いただけだから、これで済めば費用はいらないと言ってくれた。
お言葉に甘えて受け取った警告書の効果は大きかった。借金取りのタクヤは警告書を見るなり捨て台詞を吐いて足早に去っていったとのことだった。
あれから数日経ったがタクヤが優衣の前に現れることはなかった。そして、いま、仕事帰りに喫茶店『ロイヒテン』に立ち寄ったところだった。
「あのね、新メニューを作ったの」
「じゃあ、それ注文します」
「じゃあ?メニューも聞かないで?」
「おっと、すみませんでした。新メニューについてご教授ください」
「まったくもう。ペペロンチーノよ」
「マジっすか。辛いの大好きなんです」
和彰は優衣が元気になって良かったと感じていたところに、店の扉が乱暴に開かれた。
「安堂優衣!いるか!」
店内に入ってきた借金取りのタクヤは目が血走っていた。
「ここにいるのはわかってるんだからな。出てこい!」
「大きな声を出すのはやめてください。警察を呼びますよ」
「呼べるもんなら呼んでみろ!早く出てこい」
「黙れっ!こわっぱ!」
獣が咆哮したようだった。誰かと思えばマスターだった。マスターは怯んだタクヤに向かって、今度は優しく声をかけた。
「タクヤさん、膝が震えてますよ」
タクヤは腰が抜けたように、その場にしゃがみ込んでしまった。
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