星が降る_09🍕【追憶食堂】【シロクマ文芸部】
『星が降るキャンプ場』が父と一緒に行った最後の旅行だった。
両親が離婚して母と暮らすようになり、父とは月に1回『とんかつ公望』で会うことになっていた。シャイな父は二人きりだと落ち着かないみたいで、お店の営業日に訪れてカウンター越しに近況を話す程度だった。
そんなある日、父の友人がキャンプに誘ってくれて、珍しくお店を臨時休業にして1泊2日で『星が降るキャンプ場』に行ったのだった。友人と話しているときの父の表情がとても楽しそうだったのが、いまでも印象に残っている。
そんなことを思い出しながら『とんかつ公望』の話を母に切り出すタイミングをうかがっていた。
…
母の誕生日パーティーが終わると母が片づけを手伝ってくれた。
「そこのテーブルに座っていて構わないよ」
「ありがとう。でも、体を動かしていた方がいいのよね」
イタリア料理店『ロッソ』は妻と二人で営業しているが、忙しい週末などには母に応援を頼んでいた。
「そういえばさ。小さい頃、父さんがとんかつ屋をやってたよね」
「懐かしいわね。どうしたの急に」
「いやさ。昼に『武蔵』のカレー南蛮うどんを食べにいったんだけど」
「あそこのカレー南蛮うどんは絶品ね」
「そうなんだよ。和風だしが決め手だと思うんだよね」
「なんだか、私も食べたくなってきちゃったわ」
「あれだけ食べたのに?って、そうじゃなくて、ラジオが流れていたんだ」
「ラジオ?」
「ああ。店主さんが毎日聴いてる『ラジデカ』だよ」
「あそこはいつもAMラジオが流れているわね」
「ラジオで『とんかつ公望』を知っている人がいたら情報が欲しいって」
「懐かしいわね。『とんかつ公望』…」
それっきり、母は黙り込んでしまった。やはり、離婚した夫のことなど思い出したくはないのだろう。
「ごめん。誕生日なのに思い出したくないこともあるもんね…」
「いいのよ。でも、なんで探しているの?」
依頼者であるリスナーの父親がガンになってしまい、昔食べた『とんかつ公望』のアジフライが忘れられず、もう一度食べてみたいといった内容をかいつまんで説明した。
「アジフライってメニューにあったっけ?」
「アジフライね…。裏メニューで出していたわね。あっ、そうだわ」
母は何かを思い出したようだった。
ショートショート?をつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。
目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
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