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りんご箱【#シロクマ文芸部】

りんご箱の中には不揃いのりんごがぎっしりと詰まっていた。和彰は一番大きくて真っ赤なりんごを手に取ると、昭和初期に建てられたと思われる木造の店に入った。奥から出てきたお婆さんは訛りの強い秋田弁でほとんど何を話しているのかわからなかったが、りんごは青森よりも秋田のほうが美味しいこと、1個50円であることはなんとか理解できた。

病院行のバスの発車時刻まであと30分ほどあった。駅を出てすぐにバス停に向かえば一本前のバスに乗れたのだが、その先に見えた軒先に置かれたりんご箱へ惹かれて通り過ぎたのだった。和彰はバス停のベンチに座ると先ほど買ったりんごを袖で拭いてかじりついた。果肉は少し固めでサクっとした歯ごたえがあり、ほど良い酸味と爽やかな香りがあいまってとても美味しかった。芯の近くには蜜がたっぷりと入っていて、その甘みを堪能していると、幼い頃にこのりんごを食べていたかような記憶をかすかに感じていた。

昨晩、実家の母から電話がかかってきた。母が危篤で今夜が山らしいと慌てた声で一息に話した。祖母は既に亡くなっているではないか?母とは誰のことか?と聞き返すと母はしばらく黙り込んでしまった。そして意を決したかのように話しを続けた。

「あなたの生みの母親よ」 

和彰は一瞬、なんのことだか理解できなかった。生みの母親?それではいま電話で話をしている母は何者なのだ?そう頭の中で考えを巡らせていると、話すと長いからまた今度詳しく説明するわと言って、秋田にある病院の名前を教えてくれたのだった。

(つづく)


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