【家族のこと】オッサンの晩酌
「おれが死んだら盛大な葬式をあげてくれ」
そんなことを言うと、嫁さんはいつも鼻で笑うのです。
「いやいやお前さん。死んだってことは死んでるんだから、葬式が盛大だろうがなんだろうが関係ないじゃん」
正論をぶつけてくるのは、嫁さんの良いところでもある。
「いやいや、そんな悲しいこと言うなよ。なら、どんな葬式にするってんだい?」
まあ、まだまだ死なないのだけど。
「そりゃあ盛大な葬式にするよ。親族みんな呼んでさ。お前さんは友達いないから、エキストラも雇わないとね」
オッサンは愛されてる。でも、友達がいないことはほっといくれ。なんだよ、エキストラって。
「おれにだって友達の1人や2人くらいおるわ。サクラなんて雇わんでよろしい」
すこし強がってみる。友達は……確かにいない。家族がいたら、それでいいではないか。
「そんなことより。今日はなんで晩酌に付き合ってくれてるん?おれが恋しかったのかい?」
嫁さんが晩酌に付き合うのはかなり珍しい。
「さっきまで友だちと電話してたんだけど、久しく会ってない子だったから盛り上がってね。電話のあと、お前さんがまだ起きてたから」
なるほど。理由はなんであれ、晩酌に付き合ってくれてオッサンは嬉しいのです。
「そんなことよりさ、世界って広いよなあ。そんな世界で嫁ちゃんに出会ったおれは、世界一の幸せ者やね」
クチにした後で、このセリフは少しキモチ悪いなと思う。まあ、嫁さんにくらいカッコつけても良いだろう。酔っているのだ。
「うん、だいぶキモチ悪いね。もう酔ってるん?ほら、見た目もだいぶキモチ悪いよ?」
たしかに酔っている。でもさ、嫁ちゃん。いま見た目は関係なくないか?
「そんなことよりさ、お前さんに1つ聞きたいことあるんだよね」
こんな時の嫁さんは、大抵とんでもない質問をしてくる。気をつけて答えよう。
「うん?なんでも聞いておくれ。スリーサイズ以外ならなんでも答えるよ」
さあ、どんな質問が飛んでくるやら。
「きのうは楽しいお酒だったの?」
そういえば昨日は呑みに出た。
「まあ楽しかったよ。いつもの飲み会さ」
「咲良ちゃんとは仲良くなれた?」
……よしっ!考えろ俺!さくらちゃんって誰だ?いや、知ってる!昨夜のお店の子だ!どこでバレた?いや、考えろ俺。
たしかに昨夜はさくらちゃんと呑んだ。いや、正確にはスナックで呑んだ。
河島英五さんも歌ってるではないか。男の嘆きはほろ酔いで酒場の隅に置いていくって。そんな日が、男にはあるんだ。
でも昨日はウソをついて呑みに行った。イヤな言い方をすれば、嫁さんにウソをついてひとりで女の子と呑みに行った。クソッ!ヤバイッ!
大丈夫!まだ間に合う!おれならできる!完璧ないいわけをっ!
「昨日呑みに出たやん?その後ちょっと付き合いでスナックにね。先輩がスナック好きでさ」
「誰と行ったの?職場の人はみんな仕事じゃん?」
いつ勤務表を確認したんだ?マズイな……
「昨日はシフトが少し変わってね。先輩とたまたま休みが合ったから呑みに行こうってなってね」
人はウソをつく時、少しおしゃべりになる。
「そっか。ならいいんだけどね」
なんとか逃げれそうだ。
「そういえば、葬式の時のエキストラってどうやって頼むのかな?咲良に聞いたらわかるかな?さっき電話してた友だちの……」
サクラかあ……
オッサンの頭の中で、すべてが繋がった。
ふたりの夜はつづく。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
世界は広いが世間は狭い。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。
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