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「連れ去られた男」第三話

あらすじ 見知らぬ宇宙人によって異星に連れ去られた地球人男性。
体力、若さ、記憶を奪われ施設に隔離されるも何とか抵抗や脱出を試みる。だがうまくいかず、ない記憶から自分とは何者なのかを自問自答する。その結果は…。

 腹一杯になり車椅子でうとうとしていたら、オレンジの服を着た宇宙人が入ってきた。スタスタと部屋に入ってきて俺の乗っている車椅子を引いて廊下に出て、そのまま大広間まで連れて行かれた。そこには俺と同じように連れ去られてきたような人々がいた。三十人四十人くらいいるようだ。車椅子に座っている人もいれば、どこにでもあるような椅子に腰掛けている人もいる。どの人も弱々しく髪はボサボサでしかも白い。肌は土色で顔色は悪い。皺くちゃだ。地球人なのか?おじさんなのかおばさんなのか見ただけでは判断できない。何歳なのかも不明だ。そんなことってあるのか?派手な色の服を着た宇宙人に何か毒でも盛られたのか?拷問でも受けたのか?俺もあいつらにあんな姿にされてしまうのか。そんなことを考えると俺は恐れ慄いた。あの宇宙人らは人当たりよく見えるが地球人を誘拐して生体採取しているのではないか。そんなことを考えるとここを逃げ出したかったが、悲しいかな車椅子に乗っているので、思ったようには動けない。絶望感に襲われた。「誰か助けて」と俺は叫んだ。叫び続けた。何も変わらなかった。孤独感にも苛まれた。
 
 宇宙人らは弱々しいおじさんだかおばさんだか分からない人々を大広間の中央に集めた。何が始まるのか。活気のない人間が何人集まったところで活気を感じられない。ドヨンとした雰囲気の中で宇宙人はCDラジカセのようなものを持ってきて、ボタンを押した。歌が流れてきた。日本の童謡だ。さくらさくらだ。「さくら さくら 野山も里も 見わたす限り かすみか雲か 朝日ににおう さくら さくら 花ざかり」と歌ったが、他の人とは違うようだ。ジロジロと周りから俺は見られた。間違ったことをしていないのに恥ずかしくなった。2番があるのか。それとも俺が歌ったのが2番なのか。女のような宇宙人が下卑た笑みを浮かべ俺に近づいてきた。ショートヘアで細身で華がなく巻き肩で団子鼻の貧乏くさい奴だ。そいつが俺の両手を取って上下に振り出した。目的は何なのだ。猜疑心を感じたので俺はそいつに唾を吐きかけてやった。せめてもの抵抗だ。地球に帰れるか分からない。だから戦う!そういう気持ちが湧いてきた。その下卑た笑みの貧乏くさい奴は、驚いた顔つきで俺を見つめた。そうしたら違う宇宙人がやって来て俺を赤ん坊のようにあやした。俺はもうだいぶ前に大人になったんだ。そいつの俺の扱い方にまた、苛立った。だからそいつにも怒鳴ってやった。そんなことにもたじろぎもせず、はいはいわかりましたよのような態度で俺に微笑みかけた。そういうことがあった間にもう一人別の宇宙人が現れ、俺が唾を吐いた宇宙人を連れてどこかに消えていった。

 童謡を歌わせたのは何のためだったのか。考えても答えなんか出ない。無意味だ。カリカリし過ぎて正直疲れた。そうしたらまた空腹を感じ、それを満たしたくなった。食べ物を探しに行こうとしても車椅子なので移動が限られる。しかも車椅子を上手く操作できない。諦めていたら第二食が運ばれた。またゼリーだ。茶色いものだが食べるとかけそばの味がした。味気ない。砂を噛むとはこういうことを言うのだろう。

 食事をすると腹立たしさも嘘のように霧消した。さっきまでイラつき怒っていたのに、空腹が満たされると穏やかになる。人間なんて単純なものだ。人間は愚かさに於いて平等なのかも知れない。そんなことを考えていたら苦い笑みがこぼれた。そんな俺の顔を見たのか黄色い服を着た宇宙人が近づいてきて、微笑みを返してきた。別に機嫌がいい訳ではない。自分の愚かさに対して顔を歪めて笑っていただけだ。そうしたらその宇宙人は「ご機嫌ですね」と言っているように見えた。何を言っているか理解できない。奴らの言語で話している。俺は日本語以外分からない。学生の時、英語の成績はいつも2だったくらいだ。あいつらは言葉だけでなく身振り手振りでコミュニケーションを取ろうとしている。それは俺だけでなくおじさんだかおばさんだか分からない人々に対してもだ。案外いい奴らなのか。いやいや愛想がいいからといって簡単に信じると痛い目に合うから気をつけよう。

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 #小説

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