「連れ去られた男」第十一話

あらすじ 見知らぬ宇宙人によって異星に連れ去られた地球人男性。
体力、若さ、記憶を奪われ施設に隔離されるも何とか抵抗や脱出を試みる。だがうまくいかず、ない記憶から自分とは何者なのかを自問自答する。その結果は…。

 日に日に体力がなくなっている。たくさん寝てもいつも眠い。頭に霧がかかってボーとしている。食も細くなった。ゼリー食を残すこともしばしば起こるようになった。飲み込む時に咽せることも少なくない。咳き込むし、空咳もする。こんな調子なのでやる気もない。何もしたいとも思わない。何も考えたくもない。どうしてここにいるのか。俺は病気なのか。そうだとしたら病がさらに病を深くしているようだ。ここにきた当初はもっと元気で、反抗心から宇宙人に歯向かっていた。それから百年以上も経った気がする。
 
 今日も大広間で日中ずっと床を見ていた。見たくて見ていた訳ではない。ただ力が出ず俯いていたら一日が終わっていたというのが正しい。収容所に来てから車椅子にずっと座っているのが影響しているようで、姿勢も悪くなっているためか、ここ最近体がだるい。メシは要らないから横になりたい。

 すぐ寝たいことを近くにいた宇宙人に伝えた。会話はできないが、何をして欲しいかを分かってくれているようだ。俺をいつも寝ている部屋まで車椅子を引いていった。寝巻きを着させてもらい横になった。

 疲れているにも関わらず、すぐに眠れない。カーテンの隙間から差し込む淡い黄色い光が部屋をほの暗くしている。味も素っ気もない天井を見るともなく見ていた。疲れてだるくて寝返りしようとしてもできない。このまままんじりとして夜を過ごすのか。そう考えると不安が心の奥底から湧き出てきた。不安は不気味だ。気分がそわそわして落ち着かないと思えば、落ち込んでこのまま永遠に起き上がれない気分が噴き出てくる。辛さや苦しみや不安はどこから生まれ出てくるのだろう。心からなのは分かる。そのどこら辺からなのか。

 ブーンという音がした。羽音のようだ。それが止んだ。すると俺の右腕が痒くなった。触ると隆起しているところがあり、腫れているようだ。蚊に食われたようだ。この異星にも蚊がいるのか。それとも違う生き物か。ここに閉じ込められてから宇宙人を見ているが、それ以外の生物を見ていない。
 
 食われた右腕を掻きながらこう思った。蚊にも不安を感じるのか。人の血を吸えないと死んでしまうかもと恐怖に慄くのか。生きとし生けるもの全てが不安や辛さや苦しみを持っているのか。人生とは生きるとは苦が通常の状態なのか。朝になったら宇宙人どもに聞いてみよう。あんなバカどもににこんな高尚な問いを投げかけても答えられる訳ないだろうという結論に至った。

 眩しく強い光がカーテンの隙間から差し込んできた。俺は寝ついてから全く起きなかったようだ。しかし頭がボーとしているだけでなく重い。咳も出る。部屋に宇宙人が入ってきた。いつものように体温計のようなものが脇に差し込まれた。抜いたものを見て宇宙人は驚いていた。数値が高いのだろう。おでこに宇宙人は手を当てた。思案していたのか暫くして氷枕を持ってきた。それまで使っていた色がくすんだ枕と取り替えてくれた。

 第一食を食べる気になれなかったので、大広間に行かずベッドで横になった。熱があるのは明らかだ。咳は出るが酷くはない。目覚めたばかりだが二度寝することにした。

 目を覚ますと白衣を着た雄の宇宙人が枕元に立っていた。医者なのか。そいつは掛け布団をはいで聴診器のようなものを付け、それを俺の胸元に当てた。その仏頂面はどうにかならないか。不安が募る。「人間は不安な状態が通常なのだから、いつも通り」と胸中で囁いた。自分で自分を慰めているのだ。無駄な行為と知りつつ。
 
 雄の宇宙人は連れらしい雌の宇宙人に指示を出している。俺を屠殺するつもりか。見た目が年老いているので食肉にしても美味い訳がない。

 日が一日のうちで一番高いところに昇っているのか、室内にいても日差しの強さが感じられる。宇宙人が部屋に入ってきて、飯をかき込む仕草をする。食事の時間のようだ。何も食べたくないので、いらないと手を左右に振った。宇宙人は部屋を出たと思うやいなや、またすぐに入ってきた。何かを飲み干すようなジェスチャーをする。水でも飲むかと言いたげだ。

#創作大賞2024   #ファンタジー小説部門 #小説 #不安

いいなと思ったら応援しよう!

ソコ ヒデオ チップ、とても嬉しいです。