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「連れ去られた男」第十二話

あらすじ 見知らぬ宇宙人によって異星に連れ去られた地球人男性。
体力、若さ、記憶を奪われ施設に隔離されるも何とか抵抗や脱出を試みる。だがうまくいかず、ない記憶から自分とは何者なのかを自問自答する。その結果は…。

 意識が混沌としてきたので、もうやけっぱちになりウンウンと頷いた。枕元に近付いた宇宙人はベッドの下に潜った。カチャと音がした。スイッチか何かを押したのか。途端にベッドの上半身にあたる部分が起き上がり出した。内心とても驚いているが、表情に出す程の力はない。ほぼ椅子に座ったような状態になり、宇宙人は水の入った容器を俺の口に運ぼうとしていた。それは急須によく似ていた。上部に蓋があり、飲み口が細長い。全体的に透明だった。注ぎ口を加えると少しづつ口に水が入ってきた。口から喉、喉から食道・胃に液体の生ゆるさが伝わってくる。それを二、三度繰り返す。

 自覚はなかったが喉が渇いていたのだろう。また水分を摂ろうしてまた口に含んだ。喉まで生ぬるさを感じた途端に咽せた。咳き込んだ。激しい咳だ。咽せ返す。えずく。呼吸が浅くなってきている。何かが詰まっているようだ。息苦しい。宇宙人が背中をさする。優しくゆっくりを背を何度もなでてくれた。落ち着いたところで再び俺を寝かしつけた。かなりの時間が過ぎたのか。痰を吐き出したくなった。宇宙人を呼び寄せた。痰壺のようなものを持ってきた。黄色い痰を何度も何度も吐いた。楽な気分になった。そうはいっても体のだるさは消えてはいない。高熱がまだあるようだ。

 ガラス戸越しで空を見ると夕暮れになったようだ。空が真っ赤に染まっていた。時間の経過を改めて感じた。今日という日にしたことは床に臥せていたこと、痰を吐いたこと。それだけだ。なんの実りのない一日を送ってしまったのかを非常に後悔した。ここに来てから楽しいことや嬉しかったことは何もない。俺はどんな人間なのか。これまでどんな生涯だったのか。記憶を取られたので何も思い出せない。自分が何者かが分からないのはとても不安で悲しいことだ。そんなことをぼんやりと考えていたら疲れてしまった。目を瞑っている方が楽だ。眠りに落ちた。

#創作大賞2024  #ファンタジー小説部門 #小説

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