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「連れ去られた男」第七話

あらすじ 見知らぬ宇宙人によって異星に連れ去られた地球人男性。
体力、若さ、記憶を奪われ施設に隔離されるも何とか抵抗や脱出を試みる。だがうまくいかず、ない記憶から自分とは何者なのかを自問自答する。その結果は…。

 俺はここにくる前から孤独だったのか。それとも家族に恵まれていたのだろうか。異星に連れ去られ、記憶を取られ、顔つき体つきも変えられた。ただどんな状態でも孤独は孤毒だと知った。話し相手がいない。言葉が通じないからコミュニケーションが取れないので、誰とも話せないと言った方が正解だ。とにかく独りで寂しい。気が狂いそうだ。こんな孤独を味わいながら俺は生きてきたのか。生き地獄といっていい人生じゃないか。頭を抱え俺はまた泣き出した。感情を表すのに泣くことしか出来ない。まるで赤ん坊だ。泣き虫として生きてきたのか。とにかく悲しみは尽きない。

 おいおいと泣いていたら知らぬ者が入ってきた。誘拐された人だ。年寄りだ。婆さんだ。髪が肩まで伸びているので分かった。それは置いておいて何の用なんだ。「誰だお前は!どうしているんだ!」俺はそれまで泣いていたのを忘れ、婆さんに怒鳴った。老婆はきょとんとしてこっちを見た。その顔つきはここが自分の居場所と言わんばかりだった。ここにいる限り辛いことばかりなのに、こんなババアといたらそんなことも出来やしない。誰も味方がいないから、せめて一人でいたい。邪魔な存在だ。「出てけ!」と威嚇した。雑に引き戸が開いた。

 怒号を聞いたのか、赤い服を着た宇宙人が息を切らして駆け足で入ってくるやいなや、そのババアに大声で喚いた。その声はヒステリーを起こしているようだった。宇宙人はババアの首根っこを掴んで俺のいる部屋からつまみ出そうとしている。出入り口付近まで来たとき、宇宙人はババアの頭を押さえつけ、俺に向け強引に頭を下げさせた。無理矢理に詫びを入れさせた訳だ。その後こともあろうに宇宙人は平手でババアの頭をパチリと叩いた。乾いた音が部屋中に響いた。宇宙人が入ってきてから十秒にも満たない出来事だった。驚いた。二人(?)は何事もなかったかのように出ていった。
 
 俺は怖くなった。誰にでも間違いはある。あのババアもそれだった可能性はある。それにも関わらず軽いとはいえ暴力を振るわれた。俺はそれよりも酷いことを宇宙人にしている。出血させているのだ。いつ仕返しされるか分からない。それを思うとガタガタと震え出した。だんだん激しくなってくる。鼓動も速くなっている。足を踏んづけたことは意図的だった。まさか急所を捉えるなんて想像していなかった。それに裏拳を鼻に当てたのだ。俺は恐怖に慄いた。

 何も整理できない。混乱だけが頭の中で蠢いている。今の俺は混乱と孤独という言葉が似つかわしい。どうしていいのか頼る者などここにいない。話を聞いてくれる人でいいから欲しい。会話がしたい。ここにきてからの俺のことをただハイハイと頷いて傾聴してくれればそれでいい。俺は引き戸の向こう側にいるはずの宇宙人に「横になりたい」と大きな声で懇願した。

 すぐに宇宙人がきた。この時ばかりはありがたく感じた。たった一人で俺をベッドに横たえた。掛け布団を掛けたらさっさといなくなった。これも俺にはありがたかった。布団を頭から被って俺は恐怖に打ちのめされ、甲子園で負けた高校球児のように泣いた。

 どれくらい経ったのだろう。気がついたら外は日が落ちて部屋も暗くなっていた。俺は泣き疲れて寝ていたようだ。布団を被った時点でそうするつもりだったのだろう。ベッドから起き上がった途端に宇宙人が現れた。ベッドから離れたのが分かる仕組みになっているのか。監視されているようで薄気味悪い。宇宙人は右手の人差し指と中指をじゃんけんのチョキのようにして、左手は甲を下にして丸め、飯をかき込むような仕草をした。食事をするかを聞いているのだろう。俺は頷いた。

 泣き疲れて腹が減った。さっきまでの姿を思い返すと自分が嫌になってくる。宇宙人は俺を車椅子に乗せ廊下に出た。そのまま日中に歌を歌った大広間まで連れて行った。その時には気付かなかったが長テーブルと椅子が置かれていた。食堂も兼ねているのだろう。食卓には俺用のゼリー食があった。ご飯味、漬物味のゼリー、茶色いゼリーは鯖かさんまの塩焼きの味がした。流石にその中に骨はなかった。今度も宇宙人がゼリーを匙で掬い、俺の口元まで運んでくる。味噌汁は本物だった。暖かい液体を口に含むと体の緊張感が解れるような気持ちに浸れる。数回もこういう風に食べさせられると向こうも物を口に運ぶタイミングが分かってきたようだ。スムーズに進み完食した。

 食後しばらくぼんやりしていた。壁を何気なく目で追っていたらテレビを見つけた。薄型だ。これも歌を歌った時にはなかった。否、あったかも知れないが、分からなかった。興味なくテレビを仰ぎ見ると野球をやっていた。この星にも野球というスポーツがあるのか。似ているが違うものとも思い観戦することにした。紛れもなくプロ野球だ。しかも巨人戦だ。背番号10の阿部慎之助が打席に立っている。対戦チームはどこだと思い画面を凝視すると。ピッチャーも巨人のユニホームを着ている。キャンプの紅白戦を放映しているのか。じっと画面を見つめているとピッチャーも阿部慎之助だ。何がどうなっているのかさっぱり分からない。試合が進むと次のバッターも阿部慎之助だ。理解不能だ。頭が重くなり、気分も悪くなってきた。「誰かいないか。寝るぞ」と俺は声を張り上げた。今日何回大声を出したのだろう。喉も辛くなってくる。

#創作大賞2024  #ファンタジー小説部門 #小説 #孤独


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