【短編】流れるプール
その日は雨が降っていた。
だから、血もみるみるうちに流れていった。
私は走って逃げた。雨の中を、傘も差さずに。誰もいない道を、駆けて、駆けて、駆けて。
転んだ。膝を擦りむいた。ズボンが裂けて、ほつれた糸の間に血のついた皮膚が見えた。
痛い。でも、逃げないと。
私は立ち上がる。
雨は冷たくて、空気は鳥肌が立つほどひんやりしていた。
私はまた走って、住宅街を右へ左へ進んだ。目指すは駅だった。さっさと電車に乗って、この場所から消える必要があった。
肉の崩れる音が、耳元に残っている。
走れど走れど、景色は変わらなかった。違う道を進んでいるはずなのに、毎回同じ家が前に現れた。
一生このままかもしれない、というときに、私はまた転ぶ。何かにつまずいたらしい。
見ると、地面に何かが横たわっていた。
それは、血を流した私だった。
背中の穴から、赤い液体が、雨と共に流れていた。
私は逃げた。
また刺されないように。
その日は雨が降っていた。
だから、辺り一帯が血の海になるまで、時間はかからなかった。
