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静岡県・可睡斎──家康の逸話と火防信仰が残る禅寺

可睡斎は、静岡県袋井市にある曹洞宗の古刹だ。徳川家康にまつわる寺名、僧侶が修行を続ける堂宇、秋葉三尺坊大権現を祀る秋葉信仰から、禅寺が人々の暮らしと火防の願いを受け止めてきた歴史をたどる。

静岡県袋井市の丘陵に、可睡斎は広い伽藍を構えている。法多山尊永寺、油山寺とともに遠州三山の一つに数えられ、現在も修行僧が暮らす曹洞宗の禅寺だ。境内には本堂や禅堂、秋葉総本殿、瑞龍閣などの建物が並び、廊下や石段がそれぞれを結んでいる。

可睡斎の特徴は、禅の修行と、火災から家や町を守る祈りが、同じ境内で続いていることにある。寺名にまつわる徳川家康の逸話、秋葉山から移された火防の神仏、僧侶の日々の営みをたどり、禅寺が地域の暮らしとどのように結びついてきたのかを見ていく。

遠州に開かれた曹洞宗の修行道場

萬松山可睡斎は、応永8年(1401)に如仲天誾禅師が開いたと伝えられる。聖観世音菩薩を本尊とし、約六百年にわたって曹洞宗の教えを受け継いできた。袋井の町から遠く離れた深山ではなく、人々の暮らす地域に近い丘へ、修行と祈りの拠点が築かれている。

現在も境内では、雲水と呼ばれる修行僧が、坐禅、読経、食事、掃除などの日課を続けている。曹洞宗では、坐禅をしている時間だけを修行とは考えない。決められた作法で食事を取り、身の回りを掃除し、与えられた役目を果たすことも、日々の修行に含まれている。

家康が居眠りを許した寺名の由来

寺伝では、十一代住職とされる仙麟等膳は、幼少期の徳川家康と縁があったという。後年、家康に招かれて再会した仙麟等膳は、長旅の疲れから面会中に居眠りをしてしまった。家臣たちが無礼をとがめようとしたが、家康は和尚が自分を幼いころと同じように見て安心しているのだと受け止めたと伝えられる。

家康が「和尚、睡る可し」と許したことから、仙麟等膳は可睡和尚と呼ばれ、やがて寺も可睡斎と称されるようになったという。逸話の細部を史実として確定することは難しいが、家康と寺との親しい関係を示す由緒として現在まで語り継がれている。

秋葉山から受け継いだ火防信仰

可睡斎の境内には、火難を防ぐ存在として信仰される秋葉三尺坊大権現を祀る秋葉総本殿がある。御真体は、もとは秋葉山山頂の秋葉寺に祀られていたが、明治6年(1873)の廃仏毀釈によって同寺が廃されると、仏具とともに可睡斎へ移されたと寺の由緒は伝えている。

木造の家屋や商店が並ぶ町では、一度の火災が家族の住まいと仕事を同時に奪うことがあった。そのため、火災を避け、延焼を防ぐ願いは、人々の暮らしに直結していた。可睡斎は禅僧の修行道場であると同時に、家や町の安全を願う火防信仰の拠点としても参拝者を集めてきた。

瑞龍閣と東司が伝える寺の暮らし

瑞龍閣は、昭和12年(1937)に建てられた総檜造りの二階建ての建物だ。二階には合わせて百畳となる二つの広間があり、格天井、欄間、花鳥を描いた襖絵が室内を飾っている。寺の行事や来客を受け入れる大規模な施設として建てられ、平成26年(2014)に国の登録有形文化財となった。

瑞龍閣

同じ昭和12年ごろに完成した東司も、登録有形文化財に指定されている。東司とは禅寺の便所を指し、可睡斎では大東司とも呼ばれる。中央には不浄を清めるとされる烏枢沙摩明王を祀り、網代天井や組子細工を備えながら、当時は珍しかった水洗設備を導入した。排泄や掃除も修行から切り離さず、清潔に保つべき営みとして扱った考えが建物に表れている。

東司

修行と火防が同じ境内で続く理由

可睡斎では、坐禅や読経に励む僧侶の暮らしと、火災を避けたいと願う参拝者の祈りが、別々のものとして扱われていない。自分の振る舞いを整えることと、家族や地域の安全を願うことが、同じ寺の中で続けられてきた。

秋葉総本殿で祈祷が営まれる一方、禅堂や僧堂では修行僧が日課を繰り返す。可睡斎が地域から信仰されたのは、心の落ち着きだけを求める寺ではなく、火災、病気、仕事など、暮らしの中にある不安も受け止めてきたからである。

可睡斎が暮らしの近くに残したもの

可睡斎には、室町時代から続く曹洞宗の修行、徳川家康との逸話、明治期に受け継いだ秋葉三尺坊への信仰、昭和初期に建てられた瑞龍閣と東司が共存している。これらは一つの時代に完成したものではなく、寺が地域から求められた役割を加えながら残されてきた。

この寺で重んじられる日常の作法は、特別な場所でだけ守るものではない。座ること、食べること、掃除すること、火を扱うことを丁寧に行い、その後に自分の暮らしへ戻る。静岡県・可睡斎は、禅の修行と生活の安全を切り離さず、人々が日々の行動を整える場所として受け継がれてきたのである。

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