(113) タンクいっぱいのチョコレート
高速道路を走っていると、前にタンクローリーがいた。
何気なく後ろを見ると、大きく書いてある。
「チョコレート」
えっ。
チョコレート?
私の頭の中では、一瞬でタンクの中身が変わった。
液体のチョコレートが、タンクいっぱいに入っている。
工場へ運ばれて、 板チョコやチョコレート菓子になっていく。
ガーナ?ゴディバかな?
そんな光景まで勝手に想像してしまった。
「チョコレート好きには、たまらん仕事やなぁ。」
信号待ちのほんの数十秒。
ひとりでニヤニヤしていた。
もちろん、あとで思った。
「チョコレート」という名前の油かもしれない。
塗料かもしれない。
何かの製品名かもしれない。
真実は知らない。
でも、あの数十秒だけは、私は本気で、
タンクいっぱいのチョコレートが走っている。
そう信じていた。
大人になると、つい「正解」を探してしまう。
でも、ときどきは勘違いしたままの数秒が、一番幸せだったりする。
今日も私は、高速道路でひとり、
タンクいっぱいのチョコレートを見送った。
私も、藤井風が沢山入ったタンクローリーなら、喜んで運転するだろう。
