フレンチトースト
休日の午後。
百合子は台湾人留学生たちとの約束のため、久しぶりに渋谷へ向かっていた。
ハチ公前に着くと、その人の多さに思わず周囲を見回す。ハチ公像の前には、記念写真を撮るインバウンド客の長い列ができていた。
(渋谷って数年来なかったけど、インバウンド客が増えたなぁ)
すると後ろから声がした。
留学生「高階さん!」
振り向くと、台湾人留学生の黄さんと陳さんが手を振っていた。
百合子「じゃあ行こうか?」
三人は目的地へ向かって歩き始める。
その途中、陳さんがハチ公像を振り返った。
陳「ハチ公って、何でこんなに有名なんですか?」
百合子は説明した。
百合子「ハチ公は実際にいた犬なの。飼い主が亡くなった後も、毎日駅にお迎えに来てたんだって」
陳「ああ……悲しいお話なんですね」
三人は雑踏の中を歩きながら、フレンチトースト専門店IVORISHを探した。
ようやく店を見つけたが、店の前にはすでに行列ができていた。
留学生「やっぱり人気店なんですね」
百合子「そうみたいね」
列に並びながらメニューを見る。しょっぱい系のフレンチトーストも、デザート系のフレンチトーストも魅力的だった。
(そういえば、ここは立川の支店で食べて以来だなぁ)
十五分ほど待ち、ようやく店内へ案内された。
席に着くと、三人で相談しながら数品を注文する。
注文を終えた後、百合子が伝票の金額を見て少し焦った。
(しまった、高くなっちゃった💦)
料理を待つ間、三人は食べ物の話で盛り上がった。
黄さんが苦笑しながら言う。
黄「火鍋が懐かしくて、この前食べたんですが、麻辣湯で辛くて💦」
百合子「ああ、分かる」
百合子は思わず頷いた。
百合子「台湾の火鍋のスープって、そんなに辛くないもんね。鰹出汁とか使ったりするし」
黄「そうそう!」
黄さんは嬉しそうに頷く。
黄「台湾で食べてた火鍋を想像して注文したら全然違いました」
陳黄さんが思い出したように言った。
黄「東京媽祖廟の麻婆豆腐も辛かった💦」
百合子は笑う。
「確かにあれはしっかり唐辛子が入ってたね」
陳「日本人は辛いのが平気ですか?」
陳さんが不思議そうに尋ねる。
百合子「う〜ん🤔、割と平気かなぁ。もちろん苦手な人もいるけど、激辛ブームとかあったし」
陳「そうなんですね」
百合子「日本で火鍋っていうと、辛いものってイメージが強いかも。最近のガチ中華も四川料理とか湖南料理とか、辛い料理が人気だしね」
黄さんと陳さんは顔を見合わせた。
留学生「確かに日本で見かける中華料理、辛いもの多いです」
百合子はふと思ったことを口にする。
百合子「台湾って甘い味付けが多いよね」
留学生「それはありますね」
百合子「辛い料理って何だろう……。紅油抄手とか紅油系くらいかなぁ」
留学生「そうですね」
百合子「台湾キムチも甘いし」
二人とも大きく頷いた。
陳「日本では韓国キムチが食べられますね。あれは辛いです」
黄「台湾では甘酸っぱい感じですよね」
話しているうちに、百合子は台湾で食べた料理の数々を思い出していた。
魯肉飯、肉圓、蚵仔煎、滷味、胡椒餅――。
どれもどこか甘みがあり、優しい味付けだった。
(そう考えると、日本人が想像する『中華料理』と、台湾で普段食べられている料理って結構違うんだなぁ)
そんな話をしているうちに、最初のフレンチトーストが運ばれてきた。
百合子は取り分け用のナイフで切り分ける。
百合子「はい、どうぞ」
留学生「いただきます!」
留学生たちは嬉しそうに食べ始めた。
百合子も一口食べる。
(あれ? ちょっとしょっぱい?)
もちろん美味しい。
だが数年前に立川店で食べた時の感動がなかった。
その後も学生生活の話題で盛り上がる。授業のこと、アルバイトのこと、日本語の勉強のこと。二人とも日本での生活にはだいぶ慣れてきたようだった。
しばらくすると、今度はデザート系のフレンチトーストが運ばれてきた。
たっぷりのクリームとフルーツ。
こちらも三人でシェアする。
百合子は一口食べて再び考え込む。
(こちらは甘すぎる💦)
(昔ほどの感動がない💦)
(あれ? 私の舌が驕ったの?)
店内を見渡すと、相変わらず多くの客で賑わっている。
笑顔で写真を撮る人も多い。
(人気店のはずだよね……)
(立川店の時は感動したんだけどなぁ)
料理を食べ終える頃には、三人ともお腹いっぱいになっていた。
店を出ると、渋谷の街は相変わらず人で溢れている。
留学生「今日はありがとうございました!」
百合子「またご飯行きましょう!」
留学生たちと別れ、百合子は駅へ向かった。
電車に揺られながら今日のことを振り返る。
留学生たちとの時間は楽しかった。二人とも日本での生活に慣れ、元気に頑張っているようだった。
ただ、店選びについては少し考えてしまう。
窓の外を流れる夜景を眺めながら、百合子は苦笑した。
百合子「お店選び失敗したかなぁ?💦」
そう反省しながらも、留学生たちが楽しそうに話していた顔を思い出し、少しだけ安心するのだった。
