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その労務相談、AIに貼り付けて大丈夫?社労士が守る7つの境界線

「一律禁止」ではなく、ガイドラインに沿って慎重に扱うための実務ルール


本記事は、2026年7月時点の法令・公的情報および一般的な実務運用をもとに作成しています。生成AIサービスの利用条件や設定は変更されるため、実際の利用前には、最新の利用規約、プライバシーポリシー、所属組織のガイドラインをご確認ください。

開業18年目の社会保険労務士/国家資格キャリアコンサルタント/
産業カウンセラー/コーチングコーチ。
労務・キャリア・心の支援の3つの視点から、
働く人と会社のよりよい関係づくりをお手伝いしています。

顧問先から届いた相談メールを、そのままAIへ貼り付けていませんか。

個人情報や顧問先情報は、すべて一律に入力禁止というわけではありません。

だからこそ、
「会社名を消したから大丈夫だろう」
「法人向けのサービスだから問題ないだろう」
と安易に判断せず、利用環境、入力目的、一般化の方法、AIへの指示、確認手順を順番に整える必要があります。

今回は、社労士が生成AIを利用するときに確認したい7つの境界線と、実際の労務相談を「一般的な事例」へ変える方法を整理します。


AIへの入力は「禁止か、自由か」の二択ではない


生成AIを使う場面が増えると、社労士の間でも、二つの考え方が出てきます。

一つは、

「顧問先の情報は、AIへ一切入力してはいけない」

という考え方です。

もう一つは、

「会社名や氏名を消せば、あとは入力しても大丈夫だろう」

という考え方です。

私は、どちらか一方に寄せすぎないことが、実務では必要だと考えています。

一定の契約や管理設定のもとで情報を扱える環境がある一方、一般向けのサービスへ顧問先の情報を安易に貼り付けることは避けなければなりません。

デジタル庁の2026年6月版ガイドラインでは、個人情報を含むプロンプトを入力する場合、事前に入力の可否を確認し、利用目的のために必要最小限の利用または提供であるかを確認することが示されています。判断がつかない場合は、個人情報を含まないプロンプトにするという考え方も示されています。

個人情報保護委員会も、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内かを確認するよう注意を促しています。

また、本人の同意を得ずに個人データを入力し、そのデータが回答の出力以外の目的で取り扱われる場合には、サービス提供者が機械学習に利用しないことなどを十分に確認する必要があるとされています。

そして、社会保険労務士法第21条では、業務に関して知り得た秘密を、正当な理由なく他に漏らし、または盗用してはならないと定められています。

つまり、この記事でお伝えしたいのは、「何も入力してはいけない」ということではありません。

正確には、

条件を確認せず、必要性を考えず、相談メールや資料の原文をそのまま貼り付けてはいけない

ということです。

入力前に通したい「5つの確認ゲート」

実務で迷わないためには、情報の種類だけでなく、AIへ入力するまでの順番を決めておくと安心です。

私は、次の5つを確認してからAIを利用します。

1.事務所のガイドラインで認められたサービスか

個人の判断で新しいAIサービスを使い始めるのではなく、事務所や所属組織のガイドラインで利用が認められているかを確認します。

利用できるサービス、入力してよい情報、禁止される用途、事故が起きた場合の報告先まで決めておくと、職員ごとの判断のばらつきを減らせます。

2.契約や設定を確認したか

入力内容がサービスの学習に利用されるのか、どの程度保存されるのか、誰が履歴へアクセスできるのかを確認します。

法人向けの契約であっても、プランや管理設定によって取扱いが異なることがあります。

「有料だから安全」「有名なサービスだから大丈夫」と、サービス名だけで判断しないことが必要です。

3.入力する目的が明確か

AIに何をしてもらいたいのかを、一文で説明できるようにします。

たとえば、

  • 相談内容の論点を整理したい

  • 面談で確認する質問を作りたい

  • 顧問先への説明文を整えたい

  • 就業規則の確認項目を洗い出したい

といった目的です。

目的が曖昧なままでは、「念のため全部入れておこう」と、必要以上の情報を入力しやすくなります。

4.必要最小限まで一般化したか

氏名や会社名を消すだけでなく、業種、地域、役職、人数、年齢、正確な日付や金額なども確認します。

複数の情報を組み合わせたときに、関係者が会社や本人を推測できないかを見る必要があります。

5.入力前と出力後の確認手順があるか

AIへ安全確認の指示を入れ、出力後は社労士が法令、公的資料、実際の事実関係と照合します。

AIに最終判断を任せるのではなく、専門判断の前後を補助してもらう使い方です。

「外部に出さないで」と指示すれば安全になるわけではない


AIへ入力する前に、

「この情報を外部へ流出させないでください」

「入力内容を学習に使用しないでください」

と指示することは、利用者自身の注意を促す意味では無駄ではありません。

ただし、その一文だけでサービス提供者の保存期間、機械学習への利用、第三者提供などを技術的に変更できるわけではありません。

デジタル庁のガイドブックでも、機密性を確保するためには、サービスの規約や契約を精査し、情報システムとして必要なセキュリティ対策が施されているかを確認する必要があると整理されています。

AIへの事前指示は、情報の混入を見つけたり、本作業へ進む前に処理を止めたりするための補助的な安全策です。

順番としては、

  1. 利用サービスの契約や設定を確認する

  2. 事務所のガイドラインで利用可否を確認する

  3. 入力情報を一般化する

  4. AIへ安全確認の指示を入れる

  5. 一般化した情報だけを入力する

という流れになります。

境界線1 会社名や個人名

会社名、代表者名、従業員名は、最も分かりやすい識別情報です。

ただし、名前だけを消せば十分とは限りません。

たとえば、

地方都市にある従業員約60名の食品会社で、今年4月に着任した40代の営業部長について相談したい

という情報があったとします。

会社名も氏名も書かれていませんが、地域、業種、人数、役職、着任時期が重なると、関係者には誰のことか分かる可能性があります。

AIに必要なのが管理職への注意指導文の構成であれば、

一般的な中小企業で、管理職の指導方法をめぐる相談があります

と置き換えられます。

地域や業種、正確な人数、年齢、着任時期が論点に関係しないのであれば、入力する必要はありません。

入力できる情報と、入力する必要がある情報は別です。

境界線2 給与・賞与

給与額、賞与額、固定残業代、昇給履歴、役員報酬などは、本人の生活や社内評価に直結する情報です。

小規模な会社では、

40代の課長で月給42万円

という情報だけでも、対象者が絞られることがあります。

制度の説明文を作ることが目的なら、

月例賃金に一定時間分の固定残業代を含んでいます

と一般化できます。

計算方法を確認したい場合は、実際の給与額ではなく、架空の数字を使って計算手順を確認します。

最後に、手元にある実際の給与データで、社労士自身が再計算します。

実額を入力しなくても、計算の考え方や確認項目は整理できます。

境界線3 病歴や診断書

病歴、診断名、障害に関する情報、健康診断の結果などは、本人の尊厳や就業継続に深く関わる情報です。

診断書を画像やPDFのまま読み込ませると、

  • 氏名

  • 生年月日

  • 医療機関名

  • 医師名

  • 診断名

  • 症状

  • 就業上の意見

といった情報が、一度に含まれることがあります。

休職手続きの確認が目的であれば、

医師から一定期間の休養が必要とされている従業員について、会社が確認すべき事項を整理したい

と置き換えられる場合があります。

診断名そのものが、今回の論点に本当に必要なのか。

診断名が必要だとしても、本人の氏名や医療機関名まで必要なのか。

一つずつ分けて考えることが必要です。

境界線4 人事評価

人事評価表には、評価点だけでなく、

  • 昇進候補

  • 配置転換の意向

  • 能力に関する評価

  • 将来の処遇

  • 上司の率直なコメント

などが含まれています。

本人へまだ伝えていない評価や、管理職だけで共有しているコメントを、そのままAIへ入力することは慎重に判断しなければなりません。

評価コメントを整えたい場合は、

成果は出しているものの、報告が遅れることがある社員へ、人格否定にならないフィードバック文を作成してください

と、目的と一般的な状況だけを入力します。

AIが作った文章は、本人との関係性や、職場での背景を知っている管理職や人事担当者が最後に整えます。

AIには、文章を考えてもらうことはできます。

しかし、その言葉を受け取る人の表情までは見えません。

境界線5 ハラスメント相談

ハラスメント相談には、申告者、行為者とされた人、目撃者、相談担当者など、多くの人の情報が含まれています。

事実確認が終わっていない段階の相談内容をそのまま入力すると、未確認の内容を、確定した事実のように扱ってしまう危険があります。

ハラスメント相談は、次のように分けます。

  • 確認できている事実

  • 申告者の説明

  • 相手方の説明

  • まだ確認できていないこと

  • 会社が決めるべき次の手順

AIには、誰が正しいかを決めさせません。

依頼するのは、中立的なヒアリング項目の作成や、確認漏れの洗い出しです。

被害を訴える人の不安も、行為者とされた人の反論も、どちらも秘密として丁寧に取り扱う必要があります。

境界線6 社内メールやチャット

メールやチャットには、氏名以外にも、

  • 署名

  • 取引先名

  • 案件名

  • 日時

  • 場所

  • 社内独自の呼び方

  • 文章の癖

などが含まれています。

名前だけを削除しても、関係者が読めば、誰の文章か分かることがあります。

返信文を作りたい場合も、原文を丸ごと貼り付けるのではなく、

相手から納期短縮の要望がありました。こちらは品質確保のため、現在の日程を維持したいと考えています。関係を損なわず、代替案も添えた返信文を作成してください

と、必要な要点だけを入力します。

原文から必要な事実を人が抜き出し、AI用の別メモを作る。

この一手間が、情報を守ります。

境界線7 未公開の規程・経営情報

未公開の就業規則、賃金制度、組織再編案、事業計画、取引条件、財務情報、労使交渉の方針などは、個人情報でなくても顧問先の重要な秘密です。

規程の全文をアップロードする前に、

  • 機密情報を扱える契約になっているか

  • 事務所内の管理者承認があるか

  • 入力内容が学習へ利用されるか

  • 保存期間はどうなっているか

  • 誰が履歴へアクセスできるか

を確認します。

条件が整っていない場合は、公開されているモデル規程を基に、AIで一般的なたたき台を作ります。

顧問先固有の制度や運用は、手元の資料を見ながら社労士が反映します。

また、規程の全文が本当に必要とは限りません。

「休職期間の定め方」や「服務規律の表現」など、今回確認したい条文だけを一般化して入力する方法もあります。

実案件を「一般的な事例」へ変える7つの手順

一般化とは、会社名を「A社」に、従業員名を「Bさん」に変えることではありません。

実案件を推測できない、新しい一般事例へ組み直す作業です。

1.AIに何をしてほしいかを一文にする

論点整理、質問項目の作成、説明文の下書きなど、目的を先に決めます。

目的が明確になれば、不要な情報を削りやすくなります。

2.情報を6つに分ける

相談内容を、次のように整理します。

  • 確認できている事実

  • 当事者の主張

  • 顧問先の希望

  • 不足している情報

  • 法律上の論点

  • 実務上の選択肢

事実と推測を分けることで、AIの回答も整理されやすくなります。

3.直接特定につながる情報を外す

会社名、氏名、住所、連絡先、取引先名、メールアドレス、正確な日付などを外します。

イニシャルへ変えるだけでは十分ではありません。

4.組み合わせで特定される情報を外す

珍しい役職、特殊な業種、地域、人数、経歴などを確認します。

一つひとつは匿名でも、複数が組み合わさると本人や会社が特定されることがあります。

5.数字を置き換える

給与額、年齢、勤続年数、会社規模、発生時期などを、架空の数字や幅のある表現へ変えます。

論点に必要がなければ、数字そのものを削ります。

6.原文を一から書き直す

原文の一部を言い換えるのではなく、

一般的な中小企業で起こり得る相談

として、設定や文章を一から組み直します。

7.逆方向から確認する

最後に、自分へ二つの質問をします。

顧問先や相談者がこの文章を読んだとき、自分の案件だと気づかないか

この情報がなくても、AIは依頼された作業ができないか

一つでも迷う場合は、さらに削ります。

一般化の具体例

そのまま入力する例

特定の会社で、営業課長が部下へ送った社内チャットと、部下から届いたハラスメント相談を添付する。

氏名、日時、給与、診断名、上司の評価コメントも含まれている。

一般化した例

一般的な中小企業で、管理職の指導方法をめぐる相談があります。

確認できている事実は、個別面談の場で強い口調の指導が行われたことです。発言の正確な内容と、同様の行為が繰り返されていたかは未確認です。 申告者は就業継続に不安を感じており、会社は懲戒判断の前に事実確認を行いたいと考えています。 中立的なヒアリング項目、初動対応の順番、不足している情報を整理してください。法的結論は断定せず、確認すべき公的資料も示してください。

後者には、会社名も人物名も原文もありません。

それでも、AIに依頼したい作業は十分に伝わります。

必要なのは、情報を多く渡すことではありません。

目的に必要な情報だけを、正しく渡すことです。

AIへ入力する前に入れておく「安全確認の指示」

入力ミスを減らすため、相談内容を入れる前に、安全確認だけを行う指示をAIへ入力しておく方法があります。

私は、いきなり本題へ進まず、

  1. 安全確認

  2. 一般化した事例の入力

  3. 本作業

という3段階に分ける方法をおすすめします。

第1段階:安全確認の指示

これから労務相談の整理を依頼します。

回答の作成前に、入力内容の安全確認だけを行ってください。

氏名、会社名、所在地、連絡先、正確な日付・金額、
病歴・診断名、人事評価、ハラスメント相談の原文、
未公開の規程・経営情報など、
個人または企業を特定できる情報が含まれている場合は、
本作業を開始せず、該当する情報の種類だけを指摘してください。

元の情報を繰り返し表示せず、
一般化した入力文の案を示してください。

人物や会社を推測・復元しないでください。

第2段階:一般化した事例を入力する

第1段階で問題がないことを確認した後、一般化した事例だけを入力します。

このときも、

  • 確認できた事実

  • 当事者の主張

  • 不足している情報

を分けて記載します。

第3段階:AIへ任せる作業を指定する

次に、

  • 中立的なヒアリング項目を作る

  • 法律上と実務上の論点を分ける

  • 顧問先への説明文を作る

  • 確認すべき公的資料を挙げる

など、AIへ任せる作業を明確にします。

法的結論を断定させず、不足している事実も示してもらいます。

ただし、この安全確認の指示は、AIが入力内容をそのまま再掲したり、特定可能な情報を見落としたりするリスクを下げるための補助策です。

「外部に出さないで」「学習しないで」と書くだけで、サービス側の保存、学習、第三者提供を技術的に止められるわけではありません。

先に、利用サービスの契約、設定、プライバシーポリシー、管理者権限を確認してください。

入力してよいか迷ったときの最終確認

次の質問に一つでも自信を持って「はい」と言えない場合は、そのまま入力しないほうが安心です。

  • そのAIサービスは、事務所で業務利用を認められた環境か

  • 保存期間、学習利用、第三者提供、アクセス権限を確認したか

  • 入力目的が明確で、その情報は目的達成に必要か

  • 氏名だけでなく、情報の組み合わせによる特定可能性も確認したか

  • 原資料とは別に、AI用の一般化した文章を作成したか

  • AIへ安全確認の指示を入れたか

  • 出力を確認し、法令や公的資料と照合する手順があるか

  • 相談者本人に見せても、なぜその情報が必要だったか説明できるか

迷ったときに止まれる仕組みは、AI活用を遅らせるものではありません。

安心して使い続けるための土台です。

安全性を理解した次に必要になるもの

ここまで読むと、

「境界線は分かった。でも、実際にはどのような入力文にすればよいのか」

「相談、メール、規程、助成金では、どのようなプロンプトを使えばよいのか」

という次の疑問が出てくると思います。

AIを安全に使うために必要なのは、長く難しい命令文ではありません。

「どの環境で使うか」

「何を入れないか」

「どの順番で一般化するか」

「誰が最後に確認するか」

を、毎回同じ手順で実行できる仕組みです。

まとめ

社労士がAIを使うとき、個人情報や顧問先情報を一律に禁止すれば、それで十分というわけではありません。

反対に、会社名や氏名を消しただけで安全と考えるのも早計です。

利用を認められた環境かを確認する。

利用目的と必要性を確かめる。

実案件を一般的な事例へ変える。

AIへ安全確認の指示を入れる。

出力は社労士が確認する。

この順番を守れば、生成AIは守秘義務と対立する道具ではなく、専門判断の前後を支える補助者として活用できます。

便利さを急ぐより、安心して続けられる使い方を整える。

その姿勢が、相談者との信頼と社労士の専門性を守ります。

改正や公的ガイドラインの更新があり次第、本記事は見直します。

この記事が、AIを使ってみたいけれど情報の扱いに不安を感じている社労士の方にとって、安心して次の一歩を考えるきっかけになれば幸いです。

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smile 社労士・キャリアコンサルタント・産業カウンセラー・コーチ、複数の視点から一つの悩みを見るよう心がけています。この記事が、貴方や会社の判断を少し楽にできていたら幸いです。