【家電猫】第6話
騎士の憧れ

広いキッチンの真ん中で
お掃除ロボ猫、墨乃介が
同じ場所を グルグルと回っています。
その背中に、トースター猫が
ちょこんと乗って
前を指差しています。
「ひゃあ、墨乃介!!
あっちが充電器ニャ!!
迷子に なっちゃったなら
ぼくが道案内をしてあげるニャ!!」
そう言うと
トースター猫は、落ちないように
四本の足をギュッと ふん張って
墨乃介の背中を トントンと
優しく叩いて、合図を送りました。
「……かたじけないでござる
修行に身を入れすぎて
拙者の城が どちらの方角か
わからなくなってしまったでござる……」
そう言うと
ちょっぴり方向オンチな墨乃介も
安心したようにトースター猫を
乗せたまま、ゆっくりと前に
進み始めました。

棚の上からその様子を
見ていたケトニアンが
ガタガタと震えながら感動しています。
彼の目には、墨乃介が伝説の馬に
トースター猫が立派な
騎士に見えていました。
「……な、なんだあの神々しい姿は!
トースターが、黒い名馬を華麗に
操っているではないか!」
「フフフ……。
あれこそ俺様に、ふさわしい名馬だ!
あの馬さえあれば、俺様は
真の騎士になれる!」
そう言うと、ケトニアンは
自分の銀色の体を ピカピカに輝かせ
マントを なびかせる騎士のように
棚の上で、かっこよくポーズを決めました。

ケトニアンが棚から飛び降り
墨乃介の前に立ちはだかりました。
着地した勢いで銀色の体をキラリと光らせ
注ぎ口を誇らしげに掲げ
墨乃介を説得し始めます。
「フハハ! 運がいいぞ名馬よ!
今日から貴殿は、この俺様の
銀河一の騎士・ケトニアン様の専用馬になるがいい!
さあ、のんびり屋のトースターを降ろして
俺様を乗せて 勝利の道へ 走りだすのだ!」
そう言うと
ケトニアンは 自慢のフタを
パカパカと鳴らし、まるで拍手で
迎えているかのように
賑やかに、沸騰し始めました。
「せっかくのお誘いでござるが
お断りするでござる。
拙者は、床のゴミを
拾い続ける 修行の身。
誰の馬にも、ならないのが
拙者の武士道でござる!」
そう言うと
墨乃介は、修行を続けるために
トースター猫を 乗せたまま
ズンズンと 前へ進もうとしました。
あこがれの 名馬に
振られてしまった ケトニアンは
「ならば 力ずくでも!」と
お湯が沸き立つ体を
大きく跳ね上げました。
そして、トースター猫を
押しのけて 墨乃介の
背中へ 無理やりドシン!と
飛び乗ったのです。

ケトニアンがお湯を噴き出しながら
飛び乗った瞬間、キッチンは
真っ白な湯気に包まれました。
ケトニアンの体からは
沸騰したお湯が床へ滝のように
溢れ出しています。
そのお湯に乗って、墨乃介の
タイヤがツルツルと滑り出しました。
「ぬわーー!!
床が 激流の 修行場でござる!!
誰か、誰か舵をーー!!
このままでは荒波に揉まれ
壁に激突でござるーー!!」
そう言うと、墨乃介は
タイヤを 激しく 空回りさせ
コマのように くるくると 回りながら
水しぶきを 跳ね上げて 壁まで
突き進んでいきました。

ドシーーン!!
壁に激突した衝撃で
三匹はバラバラに吹っ飛びました。
床は水浸しで、パンクズだらけ。
ケトニアンは逆さまにひっくり返り
墨乃介は力尽きて止まっています。
「……フフフ
実に 見事な 走りであった。
壁をも 恐れぬ、その勢い……
まさに 俺様に、ふさわしい名馬だ。」
そう言うと
ケトニアンは、ひっくり返った体で
最後の 湯気を弱々しくプシューと
出し、負け惜しみを言いながら
電源が切れてしまいました。
「ひゃあ……。
お池に 落ちた パンが
スポンジみたいに ふやけて
ぐちょぐちょニャ。
これじゃあ
せっかくの 朝ごはん
食べられないニャ……。
ケトニャン、どうしてくれるニャア!」
そう言うと
トースター猫は
水たまりに落ちたパンを
悲しそうに 見つめました。
湯気が 水滴となって
ポタポタと 涙のように
降り注ぐ中
三匹の、長い朝は
こうして 幕を閉じました。
ケトニアン
自分の情熱でお湯を溢れさせてしまうよりも
みんなの心をぽかぽかと温める情熱を持った
そんな優しい銀河一の騎士になれるといいね。
つづく
